ソーシャルゲームの逝きつく先は?

kayako

第1話 これこそまさに「矛盾」の極致



※この作品は『ストレスフリーの異世界に転生したはずなのにストレスフルで死にそうです助けて!!』の3人が社畜だった頃のお話です。

ストレスに強い銀・同僚で女の子好きのはんぺん・血飛沫大好きの後輩玉露という3人の設定は変わらずですが、一応、元のお話を知らなくても楽しめるように書きました。

勢いあまっていつもと違うコント形式で書いてます。



******



 天辺銀、はんぺん、玉露の社畜三人組が未だ、ブラック企業で社畜生活をしていた頃――

 ある朝、銀は頭を抱えて机に伏していた。



 銀「うぅ~……眠いしイライラする」


 はんぺん「どうしたの銀ちゃん、そんなにイライラして」


 銀「あぁ、すまん。

 いつもやってるソシャゲでちょっと煮詰まっててな」


 玉露「はんぺんさんなら分かりますけど、銀センパイがソシャゲでイライラって珍しいですね」


 はんぺん「どうせガチャでお目当てキャラが出ないとか、そんなところでしょ~?」


 銀「それだったら毎度のことだからいいんだが」


 玉露「毎度のことなんですね……」


 はんぺん「この前、推しキャラの実装が絶望的になったとか騒いでたあのソシャゲ?

 もう色々気持ちは落ち着いたんじゃなかったの?」


 銀「あぁ。納得はしてないが、今もまだちゃんと待っているぞ。俺の推しをな!」


 玉露「じゃあ、今回は何があったんですか?」


 銀「今回はそれとはまた別件でな。

 同じゲームではあるが、別の問題が発生しているんだ」


 玉露「問題……といいますと?」




 銀「敵が強すぎて……

 クリア出来ないんだ……っ!!」




 はんぺん・玉露「敵が?」


 銀「そう……

 月一度の割合で定期開催される、強敵討伐的なイベントがあるんだが。

 今まで俺は、微課金でありながらも何とか毎回クリアしてきた。

 開催のたびに敵の強さはインフレしてきたが、それでも俺はコツコツ育てたキャラを使って、どうにか突破してきたんだ。

 しかし……今度という今度は……無理だッ……!!」


 はんぺん「ストレス大好きの君が頭抱えるってよっぽどだね……」


 玉露「ちなみに、どんなゲームなんですか?

 ちょっと教えてくださいよセンパイ、力になれるかも知れませんから。

 お茶どーぞ」


 銀「あぁ……すまないな。

 俺がやってるのは人気ゲームシリーズのキャラが大集合した、いわばお祭り系ソシャゲだな。

 バトル形式は古き良き2Dのターン制。スーファミ時代までのファイ×ルファンタジーと似たようなものと考えてもらって構わないだろう」


 はんぺん「基本5人パーティで動いて、それぞれ二つずつスキルを持ってるんだっけ」


 銀「その二つが基本スキルと呼ばれるもので、通常はその二つで攻撃やサポートなどを行なう。

 そしてターン経過などによってゲージがたまると、各キャラ固有の奥義が撃てるようになるという仕組みだ」


 玉露「火とか水とか、全部で8つの属性があって、それぞれのキャラや敵に属性が割り振られているんですね」


 銀「そう。この、属性というのが結構厄介な要素でな。

 例えば火属性のキャラは土属性の敵に有利となるが、水属性の敵に対しては不利となってしまうんだ。

 つまり、火属性でどれだけ強いアタッカーキャラをガチャで当てても、イベントの敵が水属性だった場合はそれだけで不利になってしまう」


 はんぺん「そのへん、ガチャ回させる為にうまく出来てるというかなんというか……」


 玉露「一つの属性だけで強いキャラを引いても、それだけじゃ駄目ってことですね」



 銀「それから、アタッカーにサポーター、ジャマーやディフェンダーと、キャラの役割がはっきり分かれている」


 はんぺん「つまり攻撃役とバフ役、デバフ役と囮ってことだね!」


 玉露「最後のちょっと酷くないですか」


 銀「基本戦術としては、アタッカーが1人、サポーター2人にジャマー1人、ディフェンダーが1人という構成で動くことになる。

 周回可能なイベントになるとディフェンダーは不要になることも多いが、さすがに強敵イベントとなるとそうもいかないこともしばしばだ」


 玉露「アタッカー複数とかは駄目なんですか?」


 銀「出来ないことはないが、効率が悪い。

 バフを全て一人のアタッカーに集中させることで、時には100万超のダメージが出ることもあるからな」


 はんぺん「ひゃ、100万!?」


 銀「バフデバフがうまくいけば、1戦闘につき1000万……

 もしかしたら1億ダメージも夢じゃないとか」


 玉露「数字のインフレヤバイですねぇ」


 銀「最初はそうでもなかったんだが、もう運営側もそれを想定して敵のHPをインフレさせてるから、そういう編成を組まないとこっちもやっていけなくなっている」


 はんぺん「戦士や武闘家が攻撃して後方から魔法使いが全体攻撃、みたいなのは悪手ってことだね……RPGの基本なのに」




 銀「ま、基本情報としてはそんなところか。

 そして、現在イベントで出てきている強敵というのが……

 こいつだ!!」




 はんぺん「なんかデッカイ化物が2体いるね。

 青い岩の化物みたいのと、その手前に化けキノコが」


 玉露「2体だけなら、何とかなりそうな気もしますが……」


 銀「俺も最初はそう思った……しかし、だ。

 とりあえず、通常どおりバフをアタッカーにかけて攻撃してみるぞ」




 玉露「あれ!?

 なんかこっちの攻撃、後ろの青岩を狙ったはずが全部化けキノコに行っちゃってますよ!?」


 はんぺん「しかも全然攻撃通ってないように見えるし?! 結構今色々バフかけていたよね!?」


 銀「ちなみにこの2体。

 全ての攻撃を無効にするバリアが3枚ずつ張られている」


 はんぺん「へ?」




 銀「一度攻撃を受ければそのバリアは壊れるが、そのかわりダメージは一切通らない」


 玉露「え、えぇ!?」


 はんぺん「じゃ、じゃあまずそのバリアをはがさないとってこと?

 っていうか、1枚でもイヤなのに3枚!? 3回攻撃入れてもダメージ通らないってこと!?」



 銀「あと、手前のキノコは毎ターン最初に、青岩を自動的に庇ってくる。

 青岩を狙って攻撃しようとしても無駄で、全部キノコが受けてしまう」


 はんぺん「そんな殺生な」


 銀「キノコが庇いに来る時は自動的にキノコにもう一枚バリアが張られるぞ」


 玉露「じゃあ、このクソキノコのバリアを3+1枚全部剥がしてキノコをぶっ潰して、それから青岩を破壊しないといけないんですね。これは面倒だなぁ……」



 銀「あ、ちなみに後ろの青岩はそのバリアを3ターンごとに復活させてくる」


 はんぺん「ふぉぇ?」


 銀「その場合、バリアが既に張られていてもその上からさらにバリアが重なる」


 はんぺん「……すんごい重ね着になるね」


 銀「行動パターンによってはその周期が短くなることもあるぞ」


 玉露「え、え、じゃあ……

 場合によっては延々無敵バリアが無限に張られてしまうってことですか!?」


 銀「まぁそういうこと」


 はんぺん「じゃあ、敵をマヒか眠りかなんかで止めて……」


 銀「全ての状態異常とデバフを無効にするバリアも同時に3枚張られるから意味ない」


 玉露「え、えぇ!? 打つ手なしじゃないですか!

 そんなもんどうしたら……」


 銀「こちらも連続攻撃が出来るアタッカーはいるし、一度にバリアを何枚か剥がすことは可能だ。しかしそれでも、攻撃をまともに入れられるキャラは非常に限られる。

 だから必然的に、無敵バリアを全て貫通して攻撃できるキャラを使うことになる」


 玉露「無敵を貫通って……

 色々矛盾している気がしますね」


 はんぺん「そんなチートキャラいるの?」


 銀「一応な。俺の手持ちにも数人、いないことはない。

 しかし貫通攻撃は今の処、その殆どが奥義でしか実装されていない。

 いつでも使える基本スキルではなく、撃つまでにターン経過を要する奥義でしか、貫通攻撃が出来ないんだ」


 玉露「奥義を毎ターン撃てるようになる奥義とかスキルとかないんですか?」


 銀「ないわけじゃないが、出来るキャラは滅茶苦茶限られる。

 そうやってこちらが手をこまねいている間に、散々敵の攻撃を喰らってジエンドというのがパターンだ」


 はんぺん「そんなのどうしようもないじゃん!

 基本スキルでその貫通攻撃、出来るキャラいないの?」


 銀「……そうだな……

 実装されていないことはないが……ハァ……」


 玉露「な、なんかこの世のものとも思えぬ地獄のため息が!?」



 銀「基本スキルで貫通攻撃を持っている唯一のキャラが……

 このイベントと同時に登場したんだ」


 はんぺん「な、なんかその先、見えたような」




 銀「悪名高き、天井なしステップアップガチャでな!!」


 はんぺん・玉露「うわあぁああぁああぁあ!!??」



 ※ステップアップガチャ:連続してガチャを引くたびにレアが出る確率が上がるガチャ。

 一見良システムのように見えるが、ハマるとヤバイ地獄に陥る。

 ※天井なし:一定回数ガチャを回すと、お目当てのキャラやアイテムを交換できるようになるシステムを「天井」と呼ぶ。しかしそんな救済システムが存在しないガチャも多く、それがステップアップガチャになるとそこはもう焦熱アビス。




 銀「そして俺は……

 このガチャで外れまくった……」


 玉露「せ、センパイ……泣かないでください」


 はんぺん「一応狙ってはみたんだね」



 銀「だから、今手持ちのキャラでどうにかするしかない。

 敵の属性は水。すると、属性的に有利なのは土になる。

 というか、土属性以外だと勝負にならない」


 はんぺん「というと?」


 銀「試しに、土以外の属性のキャラを入れてみよう。ほれ」


 玉露「う、うわぁ!! 

 最初の青岩の全体攻撃一発だけで、土属性以外のキャラが壊滅しちゃいましたぁあ!?」


 はんぺん「しかも続く単体攻撃で、2000超のダメージ喰らって逝ったキャラいるんだけど!? こっちのHP、最大でも1000ちょっとなのに」


 玉露「そ、その上、肝心の土属性キャラも瀕死ですよ……」


 銀「ちなみにこのクソ岩、3回行動な。化けキノコもだけど」


 玉露・はんぺん「「へ?」」



 銀「あとこのゴミ岩、全体攻撃の頻度もかなり高い。体感だと確率3分の2ってとこだ。

 3回行動のうち3回が全体攻撃というパターンも結構ある。

 毎ターン、どこかしらで全体攻撃がなされると考えていい」


 はんぺん・玉露「絶望的すぎる……」

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