第3話 悪魔
神楽通りはそれまでの活気を失い、静寂があたりを包み込んでいた。
ハルシとトウキがゆっくりと通りを歩いていく。
「ばあちゃん……」
八百屋まではもう少し。ハルシの鼓動は一歩一歩足を進めるごとに早くなっていった。
トウキがふいに足を止める。
「下がっていろ」
トウキの視線の先には、まるで人間のような姿形をした悪魔が立っていた。人間と大きく異なる点がある。まず顔には目や鼻がなく、不気味な口だけがついていた。そして、手首が地面につくほど両腕が長い。
悪魔はゆっくり両腕を前に伸ばした。
「くるぞ!」
悪魔は長い腕を松葉杖のように使い、トウキ達めがけて突進してきた。
トウキが脇差に手をかけ、刀を抜いた。不全刀だ。鞘から抜かれた途端、柄から刀身がメキメキと組み上げられる。
そのままトウキが悪魔目掛けて走り出す。
ぶつかる! ハルシがそう思った瞬間、トウキは悪魔の背後に立っていた。そして、思い出したように悪魔の両腕が胴体からポトンと落ちた。
「これが……対魔剣士」
ハルシは拳を強く握った。
悪魔がゆっくりとトウキの方を振り返る。
「まだやるか」
そうトウキがつぶやいた瞬間、両腕の無くなった肩の断面から腕が再生した。先ほどより一回り、いや、二回り以上太く、長い。
悪魔は再生したばかりの腕を乱暴に振り回す。悪魔の両腕はあたりの家屋を壊した。
「……!」
「八百屋のばあちゃん!」
崩れた家屋に老婆が下敷きになっている。
悪魔の口が大きく横に裂けた。悪魔は左手で老婆を掴むと、そのままトウキ目掛けて薙ぎ払った。
「くそ…! 斬れない!」
トウキはそのまま悪魔の腕を受けた。指で弾いたおはじきのように、トウキの体が飛ばされる。
「卑怯者め……」
立ちあがろうとするトウキだったが、右足に強烈な痛みを感じ、体勢を崩した。悪魔が右腕を腕を振りあげる。俺は死ぬのか。トウキが死を悟った瞬間、悪魔の動きが止まった。
「ばあちゃんを離せ!!」
ハルシが悪魔の首元に四肢を使いしがみついている。
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