三十石夢の通い路

「うっ」

 ミカンガーの全身から、シュワシュワとピンク色の煙が立ち上っていく。

 煙は消える寸前、髪の長い女の人の姿を形作り、フッとなくなった。


「何だ、今の」

「魔女コーラル。妖喜利六将軍の一人よ」


【座布団一枚獲得!総座布団数8】


「はっ、私は一体何をしていたのでしょう」

 ミカンガーは正気に戻ったようだった。


「魔女コーラルに操られていたんだわ。そうよね、きっとそうよ。でなければあんなこと言うはずない」

 自分を納得させるように、ウンウンと頷くキセガワであった。


 その日はミカンガーのもてなしを受けて一泊した。



 翌日、旅を再開した二人。夕刻間近に、川を渡る渡し船のところに出た。

「ここを渡れば、対岸の町に着くわ」


 二人分の渡し賃を払い、乗り込む。舟は客でいっぱいであった。

「ふう、混雑してんな〜」


 そろそろ出発時刻という頃、一人の客が何やら船頭と揉めている。

「おっと、お客さん。満席ですぜ。次の舟を使ってくだせえ」

「そんな、御無体な。わらわは急いでいるでありんす」


 客の女が、満席の舟に何とか乗ろうとしているようだった。

(まあ、しょうがないよな。満席だし)


 きっとダメだろうと思いながらその光景を見ていた与太郎。女はそこそこ年配であった。髪が長く、年甲斐もなく派手な着物を着ている。


「まあ、一つ席が空いてますからねえ。えへへ、美人の娘さん、どうぞ乗ってくだせえ」

(うん?乗せるのか?席は空いていないはずだが?)


 女は与太郎のいるところ目掛けて歩いてくる。

「ああ、良かった。ここが空いていたでありんす」

 女が与太郎の膝の上に座ると、舟は動き出した。慌てたのは与太郎である。


「ちょっと、おばさん!ここは俺がいるって!」

 すると女は何かが引っ掛かったらしく、眉間に皺を寄せた。


 キラーン!女の両目が怪しく光る。

「おばさん、ですって!?」


 女は与太郎の目の前で、指をグルグル回して見せた。

「あなたはわらわの虜となる。ララララ〜」


 与太郎は虚ろな目で言った。

「コーラル様、美しい。おばさんは、この人です」

 与太郎が指差したのは、あろうことかキセガワであった。


「キーッ!目を覚ましなさ〜い!」

 バコーンとパンチが飛ぶ。与太郎は正気に戻った。


「もう分かってると思うけど、こいつは魔女コーラルよ!」

「オホホホ。大人しくしていればいいものを」


 妖喜利バトルが始まった。



【妖喜利バトル】

 キセガワよ。与太郎の奴、操られていたとは言え、許さないわ。それはそうとバトルよ。良かったらみんなもコメント欄を使って楽しんでね。


(お題)

 今回は舟にちなんでシンプルな問題よ。「ふ」と「ね」を頭に付けて面白い作文をしてくれるかしら?


(与太郎の回答)

 夫婦揃って

 寝小便治らず


 …その前に結婚してからね。



 ※三十石夢の通い路…上方落語の演目。お伊勢参りから大阪に戻る途中のワンシーン。


 ※ピンク…笑点でピンクの着物は三遊亭好楽師匠。ラララも同様。

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