大喜利がんばる初瀬ちゃん 2


「スイッチon!」


 スマホにスイッチも何もなかろうに。


「出ました! かけられて嫌な呪い第1000位、何?」


 はい! と初瀬ちゃんは手をあげる。


「味玉が縦じゃなくて横で切られてる呪い!」


 そういうお店もあるんじゃないの? というか、それは呪いなのかな? まあとにもかくにも、可愛い。


「次行きます! 漢字を書く時に、口のところを♡に書いちゃう呪い!」


 やっぱり可愛い。


「次! 夜遅くに帰ってくる忙しいお母さんが、早起きして丹精込めてできた呪い!」


 ずっと可愛い。ずっと、可愛いしかない。


「すごい、ポンポンと出てきました! 私、このお題向いて……な、なさそうですね。で、でも!! アイデアは浮かんでます! 次で絶対、笑いをとってみせます!」


 がんばるぞい、と初瀬さんは言った。


「人形の髪がちょっとずつ伸びちゃう呪い!」


「それはあるじゃん」


「……え、あるんですか?」


 初瀬さんが初めて聞いた、といったふうな反応だったので、話してあげる。


「こ、怖い話じゃないですか!! やめてください!! 無理です! 聞きません! あーあー聞こえません!」


 初瀬さんは、もうお題を変えましょう! とスマホを操作した。


「ロックバンドが方向性の違いで……解、散。内容は……」


 初瀬さんは沈んだ顔で、そして暗い声で答えた。


「鳩胸を……は、鳩胸を、ぐすっ、鳩胸を愛することができまぜんでじだぁ」


 笑ってはいけない。


「……うぅ、ダメです。このお題は悲しいことを思い出します。次です、次のお題です」


 初瀬さんは深呼吸した後、もとの感じに戻った。


「……よし! 気を取り直して行きます! さーて、次のお題は、出た!!」


 ぱぁ。


「『え』から始まるエロ俳句を読んでくださ……いぃい!?」


 かぁっと初瀬さんが赤くなって、羞恥の声をあげた。


「こ、こんなお題も出るんですね……」


「やめときな、次に行こう」


「い、いえ、やります! 下ネタは絶対どこかでする機会があります! だから絶対にこのお題をやり遂げます!」


 初瀬さんは照れたまま続けた。


「『え』から始まるエロ俳句を読んでください。はい!」


「エロ漫画、電子書籍で、買ってます」


 なんか本当に買ってそうでやだなあ。


「そ、そんな買ってないですからね!? 月間誌を一つだけですからね!? ……って、何言わせるんですか!?」


 何も言ってないのだけれど。


「ぐ、ぐうぅ。べ、別に買っててもいいじゃないですか! 私はとっくに18超えてるんです! 全く恥ずかしいことじゃありません!!」


 と初瀬さんは胸を張ったが、すぐ俯いた。


「……嘘です。恥ずかしいです。猛烈に恥ずかしいです」


「次いこ! 次!」


「は、はい。そうですね、次にいきましょう」


 そう言うと初瀬さんは、拝み始めた。


「次こそいいお題を、お願いします、お願いします。二連続でキツかったので、今度こそいいお題を〜!」


 三度目の正直か、はたまた二度ある事は三度あるか。


「えいっ! で、出ました! 戦隊モノの5人目が意外すぎる。何色で何担当?」


 読み上げると初瀬さんは両拳をぐっと握った。


「やた! 普通のお題だ! よし! よし! よ……」


 初瀬さんから次第に笑顔が消えていく。


「…………………思いつきません」


 長い沈黙ののち初瀬さんはそう言った。


「つ、次……って、あ。もう時間が」


「うぅ。やっぱり、私、駄目だ。また笑わせられなかった」


「気にしなくていいのに。笑ってはないけど、楽しかったよ。うん、昨日も言ったように、初瀬さんといるのは楽しい」


「え、本当に楽しいって思ってくれてるんですか?」


「うん」


「……嬉しいです。凄く嬉しいです、えへへ」


 初瀬さんは、下向いてはにかんだあと、顔を向けてきた。


「あ、あの! 明日は土曜日ですよね! もしかしてお休みですか!?」


「そうだけど?」


「で、でしたら! もしよろしければ、でなんですけど! 私に付き合ってくださいませんか!?」


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