貧民街編

はじまりはいつも曇り空

〇フォーメーションラップその2。マータとコッコの出会いと集金係


・昼の貧民街。昨晩の大雨は止んだが、依然として空は鉛色の雲が覆っていて。

・運河に向かって無数のバラックや船上生活者のボートがひしめく貧民街の風は、いつものようにどんよりとしていた

・そんな中、マータは一つの水上屋台を見つけて、桟橋の端に座る。

・注文はワンタンメン。

・昨夜はひどい雨に降られた上、仕事でトラブルに遭い、ひどく疲れていて、昼間になるまで寝てしまっていた。結局それで、朝のお客をとりのがしてしまう。

・とはいえ、昨夜の仕事そのものは成功しており、いくらかまとまったお金が手に入る。今手持ちの代用貨幣プラスチックはわずかだが、ここで使ってしまってもいいだろう。

・「わあ! ワンタンが四つ! ドゥ―・ドゥ―で四つもあるよ! おじさんありがとう!」

・屋台には先客が居て、やたらワンタンメンに驚いていた。

・この屋台のワンタンは合成ではなく本物のエビを使っている。しかも四つも。だからマータは気に入っていた。

・だが

・「よお。マータじゃねえか。渡し屋のマータだ。ようやく会えたぜ」

・マータがワンタンを受け取り食べる直前に、男たちが声をかけてきた。

・「今日の商売は順調かい? ああ、気にするなこいつは挨拶だ」

・俺達は集金係だと、四人組は名乗る

・「実はな。今月から組合費が値上げになったって話をし忘れていてな。お前は先月の分も払っていないが、平気かい?」

・「嫌か? でも払わないと困るんじゃあねえのか? お前のようなチビのガキが襲われても、組合が助けてくれなくなっちゃうぜ? なんなら、新しいバイトを紹介してやろうか?」

・男の一人がマータの肩に手を伸ばす。掴もうとする

・それを、マータの横から伸びた箸が掴んだ。そのままネジって、ひねり上げ、引き倒してしまう

・「わっさー。集金係? の方々」

・「不躾に(ずるる)女の子の身体に(ずるる)触っちゃダメだよ。(ずるる)しかも背後から。食事中なのに」

・桟橋から立ち上がり、箸の持ち主が男たちに顔を見せる。赤い髪に金色の瞳。白いコート。曇り空の下で尚鮮やかな色。ワンタンメンすすってるけど。

・「なんだ手前こら!」「食うか喋るかどっちかにしろコラ!」

・「君達は、労働者を護るための組織じゃないのかい? 会費については事情もあるだろうけど、いくらなんでもやり方が強引すぎる。これじゃまるで恐喝だ」

・「あっれー? そんなこと言ったか? 確かにオレらは『集金係』とは名乗ったが『労働組合の』とは言ってない。このマータが組合費を払わなかったばかりに『チンピラ』に襲われたとして、組合は関係ないさ」

・「……なるほど。わかったよ」

・「ではボクがキミたちを説得しても、組合には関係ないってわけだね」

・「やるのかてめえ!」

・男たちの一人が少女に殴りかかる

・だがその拳は、少女には届かない

・「フォースフィールド!? 異能者か!」

・男は拳を引いて、後ずさる。

・「ドゥ―・ドゥ―で四人だね」

・ワンタンメンの器を離さず、コッコは四人を見る。

・「申し遅れたね。ボクはコッコ。コッコ=サニーライト」

・「トラブルシューターで……アナトリアの、巡礼騎士だよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る