第10話初めての殺人事件2
「それでは、こちらにどうぞ」
七奈美さんに案内された客間には、4人の人達がテーブルを囲んで椅子に座っていた。
「あら?新しいお客?」
「へぇ、あの日居たのとは違う奴も来るんだな」
「今度はどこの紳士さまかな?」
「しっ…しし…紳士って…そんななりに見えないよ。あの女の子なんてまだ子供じゃないか」
「先生、私を子供扱いしたあの人、ぶっ飛ばしてきていいですか?」
「処刑されるぞバカ野郎…」
笑顔で額に血管を浮かべる春を抑えて、私たちは部屋に足を踏み入れた。
中にいた人たちはそれぞれ個性的で、
話しかけてきた順番に、クリーム色にウェーブがかった髪で、青い瞳が特徴の張片康美(はりかた やすみ)さん。
少し遊んでそうな風格で、赤い髪でツンツン頭が特徴の山田涼成(やまだ りょうせい)さん。
ボーイッシュな見た目で、ストレートヘアの若い女性が、夕凪美咲(ゆうなぎ みさき)さん。
怯えた様子の、小柄で天然パーマの男性が、前成祐一(まえなり ゆういち)さんだそうだ。
「これで皆さん揃いましたね」
七奈美さんが、私達に視線を向けて話しを始める。
「今回、皆様にお集まりいただいたのは他でもありません。私の父を、殺害した犯人を突き止めるためです」
おいおい…全員がいる前でそんな宣言してしまっていいのか?
七奈美さんを目障りと思った犯人が狙ってくるかもしれないぞ。
「殺害って…あんたの親父さんは事故で亡くなったんだろ?」
「警察がそう判断したと、僕たちは訊いていたよ。何かおかしな点でもあったのかい?」
「oh…生ボクっ娘現る…」
何を言ってるんだ…
春が珍しい物を見る目で、美咲さんを見ている。
「違和感は色々とありましたが、それを伝えたところで、信用してもらえないのも重々承知しております。なので今回は、こちらの探偵の夢見さんを私の家に来ていただき、調査をしてもらうことになりました」
「「「「探偵!?」」」」
そんなに驚くことだろうか?事故か事件かをハッキリさせようと言っているなら、探偵や刑事を呼んでもおかしくないと思うんだが。
「フフーン」
なぜか、隣では春が胸を張って偉そうにしているし…君は助手だろうに。
「そう…だからあの日いなかったそこの冴えない男と小娘が居ましたのね」
「誰が小娘ですか。張っ倒しますよ貧乳お嬢様」
「なんですって!!」
康美さんを挑発するんじゃない、喧嘩しに来たんじゃないんだぞ。
「まぁまぁ…そう怒ってたら可愛い顔が台無しだよ?お嬢さん方」
美咲さんが、二人の間に割って入り喧嘩をとめてくれた。
「フン!」
「ツンデレ乙」
「ホンットにムカツクわねアンタ!」
だから何で煽るのさ…
「とにかく、探偵さんお願いします。本日はこちらで寝泊まりしていただいて結構ですので。皆様も確信を得るまではこの家に泊まっていただきますよ」
「まぁ、オレは構わねぇぜ、親父の仕事の手伝いもしばらくはねぇ予定だし」
「ボボボクはあんまり…自分の家が一番落ち着くからできれば遠慮したいんだけど…」
「僕も構わないよ。仕事も一段落ついているしね」
「アタシは嫌なんだけど、なんで疑われたままこの家にいなきゃいけないのよ!納得いかないわ」
「犯人は同じ場所に居たがらないとか言いますもんねぇ~」
「何が言いたいのよアンタ!!!」
はぁ…もう勝手にしてくれ
それから私たちは事件現場の書斎、もとい仕事場に案内してもらっていた。
因みに集められた他の人たちは、当時泊まっていた部屋に各自泊まることとなった。
「ここが事件のあった場所ですか」
「はい、父は奥にあるベランダから転落し、亡くなりました」
「匂う!匂いますよ!」
…何が?
「事件の匂いがします!」
事後じゃん…
「この場所は、あの日のまま何一つ動かさずに残してありますので、ご自由に調べていってください」
「わかりました」
まずは現場を調べないことには何も始まらない。
私は指紋を付けないために持ってきていた白いシルクの手袋を着用し、捜査を始め…
「へぇー、色んな物が置いてあるんですねぇ」
ベタベタ
「!?こら!!!何をやってるんだ!!」
捜査を始める直前に、春が既に様々な物を触っていることに気がつき、私は大慌てで止める。
「何って、捜査ですけど?」
「君がやってるのはただの荒らしだ!!!」
手袋もしないでベタベタとさわるやつがあるか。しかも、高そうなものばかり触りまくってるし。
「大丈夫ですよ。手袋なら持ってますから!!」
「テレレレッテレー♪捜査用~手袋~」
ガサゴソと春はポケットをまさぐり手袋を取り出す。
全く、あるなら最初からそれを使って…ってそれ毛糸の手袋じゃん!!!
「使えるかぁ!!!」
バシィン!!
私は春から手袋を奪い、思いきり床に叩きつけた。
「あー!!!私の本格事件捜査セットがぁ!!!」
絶対まともな物入ってないだろそのセット…
仕方ないので、私は持ってきていた予備の白い手袋を彼女に渡す。
「ほら、捜査ならこういうのを使いなさい」
「わ~い」
切替はやっ!?
言っていても始まらないので私も捜査を始めるとしよう。
まずは、この部屋で一番調べないといけない場所…そう、ベランダだ。
「おー…THE 木材」
春は…まぁ、やはりというべきか、私よりも早くベランダに出ていた。
…また、この娘は勝手に
「せんせー、このベランダの手摺、木材オンリーですよ。しかも真っ白」
「見りゃ分かるよ…」
「え!?先生、白い木材なんて知ってるんですか?図鑑にもそんな木がなかったような気がするんですけど」
この娘は塗装という技術を知らないのかな?
「ん?」
私は、その手摺が一ヶ所だけ壊れていることに気がついた。
「すいません、ここの手摺が壊れているのって」
「はい、事件当時、父はそこから転落したのです」
なるほど、となるとこれは事故ではないな…おかしな点が多すぎる。
「先生、これは事故ではありませんね?」
珍しく春が、自信ありげに言ってくる。
「ほう、どうしてそう思った?」
「女のかn「訊くんじゃなかった」まだ言い切ってないんですけど!?」
ほぼ全て言ったようなものじゃないか。
私が着眼したのは手摺の壊れ方だ。
折れた手摺の両端に半分ずつ切れ込みのようなものがあり、切られた断面が綺麗すぎる。これは意図的に切られたという決定的な証拠だ。
そして、警察はこれに気づかなかったのか?普通に気がつきそうなんだが、
「すいません、この壊れた手摺の一部ってまだありますか?」
「はい、それでしたら父が落ちたあと近くに落ちていたので厳重に袋に入れて倉庫に保管してあります」
倉庫…何でもありだな
「他に冬至さんが亡くなられたときに近くに落ちていた物とかありませんでしたか?」
「えぇ、父のスマホが落ちていましたが、警察は落ちた衝撃でポケットからはみ出ただけだろうと」
衝撃でポケットからはみ出た?…そんな偶然あるのか?
「先生!これなんですか?」
これ?
春が手に持っていたのは、セロハンテープの切れ端だ。
一体どこにこんなものが?
「春、これを一体どこで「うわぁ!高そうな時計!!!」ねぇ聞いてる?」
自分から持ってきておいて、話しをそらさないでほしいよ。
「ほぇ?」
「だから、一体どこでこれを見つけたんだ?って」
「あぁ、あそこの手摺の裏に引っ付いてましたよ」
春が、ベランダの手摺を指を指して答える。そこは、ちょうど折れた手摺の辺りだった。
なぜそんなところに?
「先生先生」
「ん?」
「とりあえず、外に行ってみませんか?」
外?
春は、ベランダの下を指さしていた。
「どうせ調べに行くなら今でも後でも変わらないですし、行ってみましょうよ」
確かにそうか、行ってみるのも悪くないな
「そうだな。行ってみるか」
「よしっ!では行きましょう!」
それはいいが…
「その懐に入れた高そうな時計は置いていきなさい。泥棒だぞ」
「うっ!…」
気がついてないとでも思ってたのか、全く
「あの、この部屋の物は差し上げられませんけど、ロビーにある物か、私の部屋にある物なら何か差し上げますけど…」
「マジですか!?あざます!!!」
貰う気満々か、恥ずかしい。
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