異世界−×minus
へーんだ
第一話 バラッバラ / 異世界、良い世界
朝、寝返りを打つのも脳が否定するくらいの朝、朝のはずだ、はずなのだ、脳は緊急事態であるこの状況をシャットダウンすることで、心のダメージを少しでも多く減らした。
二度目、三度目と脳のシャットダウンは幾度と無く続いた。まるで自分にとっての地獄絵図が、繰り返し体現されるような気分だったが、約57回目にやっと助けが来て、心がシャットダウンをなんとか止めた。
「あの、助けてもらってとても感謝してるのだけど、どうして、俺の手足が……無いんだ? 」
「……」
「……なんかごめん、助けてもらったのに図々しかったかな」
応急治療により、多少落ち着いたアクはかろうじて動く首と目線で周りを見渡した。それは辺り一面燃え盛る火の壁と、目の前には自分を助けてくれた桃色の髪の少女が可憐で艶やかな顔をグチャグチャにしながら、泣いている姿が見えた。口の動きでなんとなく言いたいことが分かった。
「なんで、そんなに謝っているんだ? もしかしてこの元凶はキミが……」
少女は首を全力で横に振る。口の動きや、動作で、アクは少女に声が出せないことを悟った。
「キミの名前を、俺がギリ見えるぐらいの所ならどこでも良いんだけど、書けるかい? 」
少女はアクのはみ出た余りの包帯に自分の名前を書いて泣きつつも少し微笑んだ。
「あのー見えないんですけども、助けてもらって言うのあれだけど、病人もうちょっと労わってくれると助かるのだけど? 」
痩せ我慢しつつ、アクも少女を笑わせたい一心で全力でわらって見せた。死ぬほど痛かった。笑う事にこんなにも体力を使ったのは
生まれて初めてだった。その甲斐あって、少女はとても可愛く笑った。
「はは、よかっ……た……よ」
アクは強襲してきた疲れにより、異世界で、57回目のシャットダウンを行った。バラッバラな身体の残りのエネルギーを使いきって。
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朝、二度寝すら脳が許さない慣れない世界での朝、目が覚めればアクの身体(胴体+頭)は昨日の少女の抱き枕にされており、少女の外見もパーフェクトでアクの好みな事から、アクの幸福度パラメーターはそれに気づいた時、手足が無いことを含めても、現実より若干高かった。
「ここはこの子の家か? にしても、そっちがやってきたんだからね、俺だって抱きしめたって、あっ……無いんだった、俺の手」
異世界のアクの幸福度パラメーターはメトロノームのように動いていた。
トントン、ユサユサと少女はなんだかんだ二度寝してしまったアクを起こし、クラムチャウダーのようなスープを、ふぅー、ふぅー、として、スプーンを口の中に入れて食べさせていた。
「ねぇ、キミの名前、昨日結局聞けてなかったけど、今度こそはちゃんと教えてもらえる? 今後話す上でキミって呼ぶのあんまり好きじゃないんだ」
少女は渋々頷き、近くにあった紙とペンで自分の名前と伝えたかったことを書き始めた。
「アイベート・ラミネス。記憶と音を盗まれた、『足りない者』です」
「ラミネって呼んでくれると嬉しいな」
異世界−×minus へーんだ @adMu
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