雅とは…。

「雅のお話も、記事にしていただけますか?」


「はい、勿論です。」


宮部さんの言葉に、ゐ空さんは話し出した。


「雅は、20年間の不妊の末にやっと授かった赤ちゃんでした。奥さんは、43歳でラストチャンスにかけていました。」


「はい」


宮部さんは、メモをしながら聞いている。


「しかし、産まれて1ヶ月後に亡くなったのです。旦那さんが、人づてに私を見つけて、直接ここに依頼にやってきました。奥さんの精神状態がよくないので、早く雅を造って欲しいと…。」


「はい」


「私は、早急に雅を造りました。そして、受け渡しの日。先程のように、雅は産声をあげました。お二人は、とても喜んだ。雅は、一年ごとに、ここに来て成長していきました。」


「はい」


「しかし、雅が、二十歳を迎えた日。お二人は、事故でお亡くなりになりました。雅は、喪主もつとめたのですよ。」


「凄いですね」


「凄いです。雅は、母親と父親からタップリの愛を受け取り、世間の常識や、勉強も教えられていました。躾もしっかりとされていた。まさか、雅が人形だと疑う人はいませんでしたよ。」


「雅さんは、何でも出来るのですか?」


「ええ、ご飯も食べますし、お風呂も入ります。人間と違うとこは、眠らない事以外ありません。」


「そうなのですね」


宮部さんは、驚いてメモをとっている。


「雅は、自らの意思で私の所にやってきました。母親の日記から、ここを知ったそうです。人形と言うより、人間で驚きました。私は、これ程、素晴らしい成長をした人形に初めて出会いました!」


そう言って、ゐ空さんは笑った。


「私は、雅を自分の元に置くことにしました。私が、求めていた理想の形が雅だったからです。雅は、心根の優しい人形です。」


「ゐ空さんは、雅さんを愛しているのですね。」


「はい、愛していますよ。この先も、私の命がある限り雅の傍にいます。」


「もしかして、先程の夫婦も同じだったのですか?」


「はい。雅の両親と同じでした。私は、雅の件から、不妊に悩む方やお子さんを亡くされた方をもっと救いたいと思いました。実際、30人の方が今も人形と暮らしています。」


そう言って、ゐ空さんは笑いながら眼鏡をあげた。


「雅に出会い、人形師をやっていてよかったと心から思いました。私は、赤ちゃんの人形を造る事は神を冒涜していると思ってました。だから、雅の依頼も最初は断るつもりでした。しかし、雅の母親が一年、一年会う度に幸せそうな笑顔を浮かべるのを見て。やって、よかったと思えたのです。私は、神様にはなれません。でも、少しでも誰かの心を救う事の出来る人形師ではいたいのです。」


ゐ空さんは、そう言って私達の前に一枚の写真を差し出した。


「これは?」


「雅のご両親です。」


「素敵な写真ですね」


「はい、素敵な写真です。」


三歳ぐらいの雅さんのお誕生日をしている写真だった。


「私は、特殊な能力使いの人形師ですが…。私が造るものでなくても、人形やぬいぐるみには、愛を込めれば魂が宿る事をきちんと知っていて欲しいです。そして、大切にして、欲しいです。簡単にいらないと捨てられると悲しむ事をわかって欲しいです。」


ゐ空さんの言葉を宮部さんはメモしていた。


「宮部さん、オカルト記事楽しみにしていますよ。」


「はい、あの雅さんは何歳まで成長させたのですか?」


「雅と最後にあったのは、15歳ですね。そこで、今の姿まで成長させました。あの時の雅は、反抗期でした。」


「反抗期もあるのですか?」


「はい。雅は、人間と同じ過程を経て成長した人形ですよ。」


そう言って、ゐ空さんは懐かしい顔をしながら笑った。


そして、すぐに真顔に戻って私と喜与恵を見た。


「宝珠君と喜与恵君は、少しだけ話せますか?」


「はい」


ゐ空さんは、何かに気づいているようだった。


「宮部さんと光珠君は、モカから話を聞いてもらえませんか?」


「モカさんですか?」


「はい、あの子は私の一番弟子です。モカは、動物のぬいぐるみを作っています。モカは、ペットを亡くした方やペットを飼えない人の為に活動しています。モカの事も記事にしてあげて欲しいです」


そう言うと、モカさんがやってきた。


「失礼します。」


「モカの工場を見せてあげてくれるかな?」


「わかりました。こちらです。」


そう言って、二人を連れて出て行った。



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