僕の天使

薄井百合花

第1話 天使との出会い

| 彼女のことを一目見た時、運命的な何かを感じた。

ビビッと強い電撃が体を駆け巡るような、そんな感覚だった。

 じっと見つめていると、彼女は僕の方を見てにこっと微笑んだ。

天使って、現代の日本に実在するのだなと、感動すら覚えた。

 何も知らない、初対面の赤の他人に、微笑むなんて!

もしかしたら、彼女も僕と同じ気持ちなのかもしれない。

僕達2人は、運命の赤い糸とやらで結ばれているんじゃないだろうか。

 でも、声はかけられない。

 女の人って良く分からない。

女の人だけじゃない、人間はよく分からない。

どんな距離感が普通なのか、僕には分からない。

 生まれてこの方、彼女が出来たことなどない。

僕が好きになると、皆恐れをなして逃げていく。

 「猫羽ねこまくんって、ちょっとストーカーっぽいよね…。」「やめてくれない?」

彼女だと思っていた子に言われた。

彼女だと思っていたのは僕だけだった。

そういった絶望を、僕は幾度となく経験している。

 「なぁ~に見てるの~?」

突然声をかけられて、僕は肩を震わせた。

声の主の方を向くと、そこには先ほどの天使が立っていた。

 「あぁっ、えっと、その…。」

女の人と話すなんて久しぶり過ぎて、僕は上手く喋れなかった。

 「もものこと、見てたんでしょ!」

天使、ももさんの隣にいた女の人に図星を突かれて、僕は下を向いた。

「黙るってことは図星じゃん!!」

 「わたし、犬甘いぬかいもも!」

「おにいさんの名前は?」

煽るお友達を制止するように、ももさんは口を開いた。

「ぼ、僕は、猫羽聡そう、です…。」

 「アタシは狼虎ろうこリンカ!ももの一番の友達!」

リンカさんは、そう言って犬甘さんの肩を持った。

簡単に壊せてしまいそうな、華奢な肩。

僕も、その肩に触れてみたいと、強く思った。

 「猫さんは、よくここのカフェに来るのー?」

「猫さん」なんて呼ばれたことがなかったので、僕は理解するのに少し時間を要した。

「いやっ、今日は、たまたま来ただけで…。」

 「あのっ、犬甘さんは、よくいらっしゃるん、ですか…?」

上擦った声で、犬甘さんに質問した。

「うんー、よく来るよ。」

「ね、リンカちゃん?」

僕と犬甘さんが会話しているのが面白くないのか、仏頂面のまま、リンカさんは頷いた。

 「ねぇねぇ、猫さん、明日もここに来る?」

きゅるんといった擬音が似合う顔で、首を傾げられた。

可愛すぎる…!

しかし、僕は平常を装ってコクリと頷いた。

 本当は、ここに来る予定なんか無い。

でも、運命の天使に会えるなら、毎日だって通うし、大学だって休む。


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