潔白の少女


少女は、完璧であった。

肩までの長さの髪は緩いウェーブを描いており、体つきは筋肉質でありながらも決してキツい印象は与えず、皆が憧れる体格であった。


ぱっちりとした目にすらっと高い鼻、ぷっくりした唇。

誰もが憧れ羨望する美貌を持っていながらも、彼女は傲ること無く否定し、他の人間の名前を出した上で、自分より優れている部分をあげるような女だった。


その上、彼女は正義感に溢れる人間。

誰がどう見ても、彼女は完璧だったのだ。


そんな彼女が何故この隠れ家に来たのか…隠れ家一同が疑問に思っていた。


「ねえ傷さん、心読んで」

「いちいち頼むんじゃないよ向日葵」


向日葵と傷の二人はよく彼女にお世話になっていたのだが、純真、潔白という言葉が似合う彼女がどうしてこんな、所謂掃き溜めのような場所にいるのかが微塵も理解できなかった。


「でも読まなきゃ分からないこともあるじゃん」

「プライバシーの侵害だよ向日葵」

「じゃあ僕の思考読んでみて?」

「……ぁ…」

「あはは、傷さん意外とウブで可愛いね?」


いつでも変わらずこういう調子でいちゃついている二人を見た彼女は、鼻で笑ってから二人にこう話しかけた。


「ふふ、ねえそこのカップル、私がどうかした?」

「あっ…え、いや……」

「な、なんでもないよ!」


嘘が下手すぎる二人を見て、彼女は察した。


「何で私が隠れ家に居るのか気になる?」

二人は顔を見合わせてこそこそと話してから、一斉に頷いた。


「うん、どうしてここに…?」

そう尋ねる傷。

彼女はくすりと微笑んでから「友達についてきたんだ」と答えた。


……。


「なんか誤魔化されたような気がする…」

そういじける向日葵。

彼女はその顔を見てクスクスと笑ってから、こう続けた。


「まあそう聞こえるかもね……でも、何か重大な事件だったり、大切な思いみたいな物のきっかけなんてこういう些細な事だったりするんだよ」


彼女の、ラフの言葉を聞いて、二人は「白い男」の事が浮かんだ。


ギター狂いのローズの腕を切り、ギタリストとして殺した白い男。

そんな惨いことをした白い男も「友達のため」とか、そんな小さな動機やきっかけであんな事件を起こしたのかと思ってしまった。


「……白い男も、そういうきっかけで色々してるのかな」

そう呟く傷。

「だとしても、許される行為と、許されない行為があるんじゃないかな?」

そう言うラフに、向日葵は、どこか悲しそうな顔をした。


『許さない』と言われているわけではないのに、『許す』と言ってくれたわけではないのに、向日葵の胸は強く痛んだ。


「……?どうしたの?向日葵」

「…なんでもないよ、傷さん今の僕の心読まないで」

「どうして?」

「また卑猥な事考えるから」

「…向日葵パン屋みたい」

「え?パン屋いつも卑猥なこと考えてんの?」

「うん…思春期だから仕方ない……」

「まあそれもそうだね」

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