火傷の原因


「クロエ、今日の分のお仕事終わった?もう予定無い?」


家族のクロエの肩をぽんぽんと叩いてからこう話しかけると、クロエはイヤホンを外してから数回頷いた。

「もう予定無いけど…今日久しぶりに隠れ家行く?」

やはり私の家族、以心伝心くらい簡単に出来ちゃうんだね。

「うん、一緒に行こ」


と言うと、クロエは「ちょっと待って」と言いながら携帯を操作し、音楽を止めてからイヤホンをくるくると自分の指に巻き付けた。


「雪、日傘はある?」

「用意したよ」

「流石、出来る女、モテモテ」

「ふふ……やめてってそういうこと言うの…」


珍しくクロエにからかわれ、妙に照れ臭くなった私がぐっと顔を逸らすと、クロエは笑い、私の頭を撫でてから鞄を準備し始めた。


…クロエ。

……私が貴方の心を分かるように、貴方も私の心を分かってしまうのかな。

痛む頭と胸。


過去を思い出していたその時鳴り響く無機質なインターホン。


「?」

「私見てくる、クロエは準備してて」

「分かった、雪の分も僕がやっておこうか?」

「ありがとう、お願いね」


笑顔のクロエ。

中毒症状の手の震えが少しずつ収まってきたクロエ。

大好きな家族。


家族。


嫌な、予感がする。

何故私が今更あの人のことを思い出したのか。

寒気がする。






「__!やっと会えた…!」

「…今更何の用…」


私の目の前に立つ男。

昔私と付き合い、私を色々不幸な目に遭わせてきた男。

彼の顔を見た瞬間、火傷の跡がじんわりと痛んだ。


「君とまた会いたくて!ずっと探してて!まさか引っ越したとは…」

「やり直そうとか言うつもり?」


目を見開く彼。


「…誰かから聞いた?」

「誰が貴方の話なんか…」

「でも、君はずっと」

「何?」

「…寂しいんじゃ、ないかって」


彼のこういうところが嫌いだったな、と思い出した。

本心は別にあるのに。

直球に言えばいいのに。

「君を傷つけたくない」なんてエゴで、妙な言い回しで煙に巻こうとするこの人の、こういうところが嫌い。

大嫌いだった。


「共通の知り合いが「あいつしばらく恋人居ないよ」とか言ってたの聞いてまた会いに来たわけ?自分に未練あるって思い込んで?」

と言うと、彼はバツが悪そうに頷いた。

「…あのさ、私家族と二人暮らしして、カウンセリング通って、友達に支えてもらってやっと貴方を忘れられたの、分かる?」

「でも君は」

「でもじゃない、貴方が…」


言おうとした。

あのワードを。

でも胸の奥が痛んだ。

ぐっと。


じんわりと滲む涙。

汗ばむ手。


「…__…」

「…貴方があの時あんなことしなきゃ…私は、私達は幸せに生きていけたんだよ」

「……」

「家族三人で幸せに生きれたはずなんだよ」

「でも」

「「でも」じゃないでしょ…あの時貴方が「責任取れない」「重い」なんて言って逃げなきゃ今頃三人で過ごせてたんだよ?それ分かってる?分かってないでしょ?」


涙が流れた。

軽くなった身体を思い出した。

頼んでおいて病院に来なかったこの人を思い出した。


「…あんまりさ、私のイメージと合わないだろうし、貴方の好きな私で居るために言わなかったワードがあるんだけど、この際言わせて」

「……」

「次またここに来たらあんたの事ぶっ殺してやるから」







 

「雪、準備できたよ…さっき来てたの誰?」

「セールスだった!準備ありがと!行こ?」

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