レッテル



レッテルを貼られて生きてきました。

私はこういう人間であれとレッテルを貼られて生きてきました。


誠実であれというレッテルを剥いだ後、私は遊び人というレッテルを貼られ物凄く苦しめられました。


「○○は男を弄ぶ悪女」だと。

私の恋愛対象なんて知らずに、知ろうともせずに、そんなレッテルが貼られました。


恋人が欲しくて、好きな人やタイプの人をナンパしては妙な顔をされる日々。

男好きだというイメージのせいで、この顔のせいで、このスタイルのせいで、妙なレッテルを貼られて生きていたのです。


「私との関係は遊びだ」というくだらないイメージで判断され、気になる人や好きな人達は皆私を無視し違う人の方へ行きました。


今の私には世界一素敵な彼女が居ます。

彼女と付き合っていると報告した途端、皆が離れました。

離れていきました。

私にとって彼女は唯一無二だったのに、存在を否定するかのように皆が離れていきました。

自分こそが唯一無二だと思い込んだ馬糞共が、ごっそりと離れていきました。

それを気にした彼女は、私の彼女であるのをやめて、私の恋人になりました。


昔から性に関して悩んでいた彼女は、私の恋人へと変化したのです。


すると馬糞共が戻ってきました。何故か。

「彼女であるのをやめた」という単語だけを聞いてまた戻ってきました。


唾を吐きたかった。

しかし私には無理でした。

レッテルが邪魔をして。


そんなある日、唾を吐く人間が現れました。


「しょーもな」


そう呟き、私の回りに集まる人間を見て笑う少年。

彼を見て胸が踊った。私の胸が踊った。

こうなりたいと、願い、胸が、痛くなった。


彼はきっと気が強くて…恐れるものなんて何もないんだろうな。


「あの」

声をかけると肩を震わせ、私から一歩ずつ遠ざかる彼。

「!!」

「……あの」

「!ごめんなさい!!!!!」

「あ……」


……逃げた。


…………かわいい…。




「それはダメだと思うよ…」

「……やっぱり」


少年の事を考えているとどうしても気になってしまい、私の知り得る中で一番子供馴れしているラフさんへ相談する事にした。


「イロハはさ?「レッテル貼られるの嫌」とか言ってるのにその男の子に対してはレッテル貼るんだね…それは直した方が良いんじゃないかな?」

「……申し訳ないと、思ってます」

「少年と会えたらいいね、会えたらちゃんと謝ったほうがいいよ…?」


…彼女の言葉は胸に響く。

私胸に影響受けすぎ。


いつか彼に会えたらいいな、と思いながら…隠れ家で恋人が淹れてくれたホットミルクティーを一口飲むと…隠れ家の扉が開いた。

視線を移動させると、ローズさんと、花屋の方の後ろでおどおどしている少年が。


「やっほ帝王、花屋が新入りつれてきた」

「こんにちは!パン屋って名……!!!!」

「ブゴッッッ!!!」

「!!凄い音した!!」






「……」

「……」


…二人きりに、されてしまった。


「……」

「……」


こちらを一ミリも見ようとしない少年と、横顔を見るだけで話せない私。


「……」

「……」

「この前は…突然、話し、かけて、ごめんなさい」

「え!あ、い、は、はい、大丈夫です、僕こそ、ごめんなさい!」

「いえ、う、嬉しかったんです」

「ほんと?あ、ほんとですか?え、あ、ごめんなさい、ありがとうございます」


……沈黙。


……


……


……最近の子は何が好きなんだろう……


……


……聞いてみようかな……


「あの……好きな、アニメとか、ありますか」

「えっ!!!あ、え、あ、す、好きなアニメ……あります」

「へぇ……」


……


「……ひっ、ひとひらの、むくい!好きです」

少し声を震わせながらそう言う彼。


「わ、私も好きです!い、イロハが好きで」

「あー!だ、だから名前イロハさんなんですね!」


お互い、顔色を伺いながら精一杯話してみる。


「そうです!あの、す、好きなキャラは?」

「え、あ、ラフ!ラフが好きです!」

「か、っ、か、かっこいいですもんね」

「そうです!そう、そうそう、あの、アリスとのあの、シーンが、好きで」

「分かります、あの……ね………はい…」


沈黙。

俯く少年は会話が終わった事を悔いているようだった。


年上の私が、彼を、助けなければ。


「あの、な、名前は…?」


俯いている少年へそう訪ねると、少年は顔を上げ、目を見開きながら震える唇で名乗ってくれた。

「嗎です!」

「え?」

「い、嗎!」


少年の名前を知れた、進歩した!やった!


「……か、かっこいい名前ですね」

「はい、お、お名前は…」

「み、御陵です」

「きれいなお名前ですね…」

「あ、あの、嗎さん」

「呼び捨てで良いですよ!あの、僕も、その、ふ、フランクに話し、たくて」


話しながらまるで自分が遠い世界にいるような感覚に陥る。

どこか違う世界でこの光景を見ているようなそんな気分。


「じゃあ、い、嗎…?」

名前を呼び捨てにしてみると彼は大きな目を更に大きく開いていた。



「は、はい!」

元気に返事をしてくれる彼。


「……お、お友達に、なって、くれませんか」

そう言うと彼は何故かキョロキョロと辺りを見渡してから自分を指差した。


「え!?誰と!?いや僕以外いないか!あ、分かりました!な、なります!なる!」

「ほ、本当?本当に?」

「うん!はい、こ、よ、よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ……」


何故か頭を下げ合い手を握る私達二人。






「…?どうしました?ローズさん」

「いやあの二人超面白いなと思って」

「あはは、たしかに」

「写真撮っとこ」

「それ良いな」

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