実はこの人ギタリストでしたー!
───
僕とばっちり目が合った男性は、目を見開いたあと気絶した。
血を浴びた僕は高笑いしてから彼の頭を踏みつけた。
ぐりぐりと足を動かし、髪を泥で汚していると彼は血に濡れた腕を上げ、僕の足首を掴む。
気絶していなかったのか…。
焦った僕がぐっと足を引くと、彼は両手を使って僕の足首を掴んだ。
腕を切ったはずなのにまだ動くのか…やはり男は女と違って筋肉があるから…?いやそれでもこいつは…。
なんて思っていると、男は顔を上げ、戻ってから仲間に報告する為か、それとも何か他に意図があるのかは知らないが、じっと僕の顔を見つめた。
しかし僕の顔を見てから、どこか悲しそうな、寂しそうな目をしてから、涙を一筋流し、僕の足首から手を離して気絶した。
隣に立つ男。
「これでギタリストが減った」
相変わらず同じ台詞しか言えないんだな。
僕はそう思いながら「いいこだね」と褒め、彼の背を撫でてから血で汚れたスーツを脱いだ。
僕だけの、白いスーツを。
彼にはもう似合わない
裏切り者には似合わない
僕の、僕だけの白を
「さようなら
───
来る
背後に人が立つ
気配を感じる
振りかえる勇気はなくて、誰かに見ろと命令されてる気分
来る
鼻の奥から上ずった声が出て
「死にたくない」という言葉に似た吐息が漏れる
来る
カツ、カツ、カツ
ブーツの音が路地裏に響いて
カツカツカツ
煽るように歩く速度を変えて
来る
カツ、カツ、
歩く速度を変えている訳じゃない
踊っている
カツ、カツ、カツカツカツ
彼は踊ってるんだ
来る
背に走る悪寒
来る
カツ、カツ
真っ白な影が見えた気がする
来る
カツカツ、カツ、カツ、
まるで焦らすように歩く彼
触れられてすらいないのに「殺してくれ」と懇願したくなる
来る
逃げ出したい
でも逃げたら殺される
死にたい
来る
彼に触られる前に
来る 来る
来る
来る
「いい夜だね、お兄さん」
真っ白な袖が見えた
ふんわりと消毒液の香りも
肩に置かれる暖かい手
うなじを撫でられる
動けない自分を嘲笑ってる
「僕が怖い?」
答えられない
唾すら飲み込めない
「ほら息吸って」
少しでも動くと殺されそうで
目尻に涙が溜まる
うなじに生暖かい何かが触れる
グッと息苦しくなり
その直後バニラに似た香りが
震える
「死にたくない?」
答えられない
彼は、笑った
小鳥の囀ずりのような声で
そして立ち去った
夜が明けても尚、立ち尽くしていた
気がする
足が動かなくて
少しでも動いたら、彼が、戻って来そうな気がして
突如鳴り響く携帯電話
震える手で携帯を取り出し耳に当ててみる
上司からの電話だった
「遅刻だ」と
嫌いな筈の、憎い筈の上司の声が、暖かな日差しのように思えた
あそこに行けば人が沢山いる
大丈夫
行こう
カツ、カツ
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