彼と僕(弟切草)


ざわざわと賑わっている平日の昼間


主婦グループや、恐らく仕事をしてるおじさん、恐らく学校をズル休みした子供とお母さん。

色んな人が集まるカフェで、僕は一人、コーヒーを嗜んでいた。

ミルクをぶわーっと、ガムシロップをぶわーっと入れてさ。

甘くて甘くて仕方ない胸焼けしちゃうくらいのコーヒーを飲む。


今日のご飯はこれだけ。

今日接種するカロリーはこれだけ。

暑くて仕方ない今、ホットコーヒーを嗜む。


僕の身体を保つため。

低カロリーのものを沢山食べて満腹になっちゃったら不格好になっちゃうから、甘くて甘くてたまらない飲み物だけ。

汗で流れて消えるかなって、いう、淡い希望。


痩せたいわけじゃない。

僕は綺麗でいなきゃいけないから。

それを求められてるから。



カフェから出る。

「ひまわり」

すると長い付き合いのお兄さんが声をかけてくれる。


「今日もコーヒーだけ?」

「うん、そだよ」

そう言いながらお兄さんの手を引くと拒否された。


「そんな生活してたら、いつか」

「いいんだよ、別に」


その言葉で察したお兄さんは、1度頷いてから僕の手を優しく握ってきた。


「……なんのつもり?」

「さあ」


……考えていることが、理解できない

彼の思考を、理解できない

したくない


お兄さんの視線が僕の唇へ

「……?」


お兄さんの長い指が僕の上唇へ触れ、何かを、そっと拭った


「?」

「ここ、ラテの泡がついてた」

「ふふ、かわいいでしょ」

「うん、かわいいよ」



…淡い、感情だった。

それを受け入れて貰える確証は無くて

綺麗でいようと思っている自分が、自分を、馬鹿らしく思えてきて。


僕は、僕は


「…向日葵、今日はお仕事休めるなら休みな」

「……うん」

「おうちでゆっくりするんだよ、いいね」

「……うん」


背を撫でられる

手が暖かくて


「いっしょにいてほしい」


そう呟いた時には、もうお兄さんは側に居なくて


ただ頭に残るのは、お兄さんの笑った時の横顔だけ


綺麗な横顔

白が、良く、似合いそうな


僕が着たくない

似合わないと思い込みたい

白が、良く、似合いそうな


彼の名前は、

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