出会い系の女
朝比奈 呈🐣
第1話・認識の違いなのかも?
「
高校の大会議室で行われたPTA総会。
進行資料に添った流れの総会は、40分ほどで終わった。PTA会員との質疑応答もなく、あっけないものだった。その為、新旧のPTA役員会の会長や副会長、書記や会計などの引き継ぎも問題なく終わった形となった。
毎年、PTAにたいして何かしら会員から質問が出るものなのに、今年は静かだった。それだけ意欲的な人はいないということか、またはPTAに興味がない人が多いと言うことだろう。
殺伐とした思いを抱え、席から立ち上がりさっさと帰ろうとしていた私は、馴染みの相手に声をかけられた。お互いの子供の通うこの戸城高校で、委員会活動を通して親しくしていた吉住さんだ。吉住さんはバツイチ女性で、現在3年生の娘さんと二人暮らし。
彼女は苦労人だ。旦那さんの一方的な離婚で、妊娠中に婚家を追い出された。その後、実家に帰って出産を果たし、老いた両親を看取り、お腹にいた娘さんを女手一つで育ててきた。
彼女の根性は見習いたいし、物事くよくよしない前向きさは、あっぱれと言いたくなるほど清々しい。
私は今回の総会には参加したが、役員を辞めることはPTA担当の先生や吉住さんには伝えていた。
「私がいても邪魔にしかならないでしょう?」
「そんなことないと思うけど……」
吉住さんは、なぜ私が辞めなければならないのかと不満そうだった。彼女曰く、私が可哀相だと言う。彼女から見れば、今まで前任の副会長として、PTA役員会を引っ張ってきた私が、謂われのない中傷を受け、追い出されたように思えて仕方ないようだ。
彼女は不意にある一角に目をやった。
それにつられて見れば、そこに集っていたのは、「前任の会長のコバンザメ」と、私を揶揄していた一派で、その輪の中央には新PTA会長となった
敗北したような気持ちで目を反らすと、吉住さんが彼女らの視線から私を隠すように前に立ちはだかった。
「じゃあ、お茶しよ。お茶して帰ろうよ」
吉住さんは私の肩を叩き、カバンを手にして、先陣切って大会議室を出た。その後に私も続いた。
「しかしさ、あれって上手くいくのかね? 尾久さん。各委員会ぶっ潰してさ、皆でやる楽な委員会行事だなんて」
「潰してはないみたいよ。一応、各委員会の委員長と副委員長を責任者として置くみたいだから。その下に役員全員が着くんでしょ? そのピラミッドの頂点が会長なだけで」
「おかしくない? 文化委員も、広報委員も、研修委員という枠組みが無くなって、役員全員で広報紙作ったり、文化祭参加したり、研修会を開いたりするんだよ。役員達のやること多過ぎない?」
「それを今の役員さん達は望んだんだよね? 皆でやる公平なPTA活動ってやつよね?」
「公平ねぇ。新会長はただ指図するだけみたいだけど……」
二人で入った喫茶店で、吉住さんがため息を漏らす。新しくPTA会長となった東鐘さんに彼女は不審を抱いていた。私も彼女に関しては複雑な思いを抱えている。
「やっぱり人選誤ったよね? なんであの人、会長になったの?」
「本人が立候補したからね」
立候補者優先としても、吉住さんは不満のようだ。私も出来れば彼女では無く、他の人になって欲しかった気もする。
「尾久さんがやれば良かったのに」
「私はやる気がなかったもの」
ため息を漏らすと、吉住さんは仕方ないか。と、呟いた。
私は前任の会長からぜひ次期PTA会長に。と、推薦を受けていた。前任の会長の話では、他になり手がいなくて非常に困っているとの話で、拝み倒される形で「もしも他になり手がいないのならば……」と、いう条件付きで受けていた。
私にはその話が出た頃は、我が家である問題が起きて、夫と揉めていたのだ。当時はPTA副会長をしていたけれど、総会が終わったなら役員を辞退しようとも考えていた。
それだけに半年後、次期PTA会長に立候補者が現れたと聞いて内心ホッとしたものだ。ところがそれが仇となってしまうとは思わなかった。
PTA会長に立候補してきたのは東鐘雪子で、彼女はどこからか、前任の会長が実は私をPTA会長にしたがっていたという話を聞きつけたらしく、立候補してからは私に敵対心を隠すことなく露わにした。
しかも私のことを良く知りもしないくせに、誹謗中傷した。初めのうちは何か誤解されていると思い、相手にしてなかったが、そのうち私と親しかった役員達が次々彼女に言い寄り、私の悪口を言い始めた頃には、家庭問題の事もあり精神的にかなり堪えた。
「もうさ、彼女達に好きにやってもらえばいいじゃない」
自分はもうPTA役員は辞めたし、彼女達とは関係ないからと言えば、吉住さんがポツリと漏らした。
「私も辞めようかな……」
私には彼女を止める気もなければ、このままPTA役員に残れば。とも言えなかった。
「なんで皆、東鐘さんの言いなりになっちゃっているかなぁ。一種の洗脳状態だよ。ねぇ、尾久さん」
吉住さんの疑問には同意だ。誰も彼女の言い分におかしいと思ってないばかりか、斬新だとホイホイ何でも受け入れているのだ。彼女の言うことには間違いが無いと信じ込んでいる。
「やっていくうちに、どこかおかしいと気がつくんじゃない?」
そうあって欲しいと切に願う。皆、彼女の華々しい経歴に目を奪われて、彼女の言葉のマジックにかかったようで、彼女の言う言い分の矛盾にさえ気がついていない。それがある意味、恐ろしいと思う。
「彼女の経歴は本当なのかね?」
「どうかしらね」
吉住さんが疑う素振りを見せる。東鐘雪子は某市のPTA連絡協議会の事務長を務め、小学校の学校支援コーディネーターや、学校運営協議会副会長をしてきたと言う。その肩書きに魅せられるのか、PTA役員達は凄いやり手だと思い込んでいた。
しかも極めつけに、ブリザーブドフラワー教室を自宅で開いていますと聞けば、彼女が美人なこともあって皆が憧れの目で見始めたのだ。
本人の中身が、それだけ尊敬に値する人なら私は何も思わなかった。彼女には自分にない魅力があるのだろうと認めていたかも知れない。
でも、ある事から彼女に対し、不審の芽が芽生え始め、それが確信に変わった時に、気持ち悪いものを感じていた。
彼女の言う、学校支援コーディネーターは、研修講座はあるらしいが、特別な資格はいらない。
学校連絡協議会等というと、どこぞのお偉いさんが連ねている教育団体様と想像しがちだが、なんてことはないのだ。学校と保護者や、地域住民達の代表者がその学校を良くする為に、時々集って意見を出し合い、学校側にその意見を反映させながら、より良い学校作りを目指すと言うもので、そういった場は学校で設けられたりして、子供を持つ保護者なら子供会や、自治会の代表者になると、その話し合いに招かれて、参加してきたことはあると思うし、実際に私も体験してきた。わざわざあえて口に出す必要もない。
市のPTA連絡協議会は、各学校にあるPTAの上になり立つ組織。その上にはさらに上があるが、別にPTA連絡協議会に入っていたからといって、何かの権限があるわけでも無いので、特別な事でも何でもないと考えている。
彼女はそれらを口に出して「私はこれだけ経験があります。自治会○年、子供会役員○年やってきました」と、実績を見せ付けたいのか、経歴をいくつもあげてくるが、私としては周辺から「頼むよ」と言われれば、自治会だろうが、子供会だろうが、婦人会だろうが、皆さんの手助けになればと、気軽に役員をボランティアとして請け負って来た流れもあり、彼女のように何を何年やってきたかなど、わざわざ口に出して言えるほど、重要なものだとは捕らえていなかった。
それに自分が請け負ってきた係を何年やっていたかなんて考える暇も無かったし。大体、継続で今まで続けてきたので長いこと任されてきたのもあり、彼女のように何年やっていたかなんて覚えてない。
しかも自分の子供の通う高校のPTAで過去、そういうのをやって来ましたと胸張って言うほどのことでもないと思うし。認識の違いなのだろうか?
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