第3話
なんで? どうして?
あれだけ自分に自信がなかったくせに、いざ目の前で浮気をされると、僕は物凄くショックを受けていた。
それは多分、桃香ちゃんが僕を裏切った事に対するショックなのだろう。
なにを当たり前の事をと思うかもしれないけど、それくらい桃香ちゃんは良い子で、今までずっと僕だけを見て、目一杯僕の事を愛してくれていたのだ。
速水君の言う通り、僕は全然桃香ちゃんと釣り合いの取れる男の子じゃなかったけど、桃香ちゃんは一度だってそれを気にした事はなかったし、そんなそぶりさえ見せた事はなかった。
そんな献身的な桃香ちゃんの愛を疑ったのだから、愛想を尽かされたって当然だ。そうでなくとも、速水君はほとんど全てにおいて僕に勝っている。品性の低さだって、僕に足りない男らしさと言えない事もない。
別に僕と桃香ちゃんは結婚しているわけでも、将来を誓い合ったわけでもない。たかだか三年ばかり付き合っただけだ。初恋は実らないって言うし、もっといい相手が現れて乗り換えられるのは仕方がない事なのかもしれない。
速水君がいい相手かは疑問だけど、彼よりも僕の方がいい相手だとは、とてもじゃないけど言えなかった。
そんな感じで、僕は桃香ちゃんの心変わりを仕方ないと思ってしまった。
そもそもの話、僕みたいな冴えないチビが桃香ちゃんみたいな優しくて可愛い美少女と付き合えている事自体がなにかの間違いみたいなものだったから、文句を言う権利はない気がしてしまう。
それに、多分桃香ちゃんは、僕に気持ちを疑われた事で物凄く傷ついてしまったのだ。だからわざわざ、こんな風に呼び出して目の前で浮気している姿を見せつけたのだろう。
これは桃香ちゃんからの絶縁状であり、彼女の愛を裏切ってしまった僕に対する抗議の印なのだ。
……いやだなぁ。
……すごく嫌だ。
泣きたいし、死にたい気分だ。
失ってはじめて、僕は自分がどれだけ桃香ちゃんを愛していたのかを自覚した。
もはや桃香ちゃんは僕にとって身体の一部で、人生の一部と言っても過言じゃなかった。
明日から桃香ちゃんのいない生活が始まるんだと思うと、吐き気がした。
夢ならいいなと心から思う。
もしかして、なにかの勘違いって事はないだろうか?
そんな可能性はこれっぽっちもないだろうけど、一縷の望みをかけて、僕は二人の後を追いかけた。
速水君は得意になってベラベラと何かを喋っていたけど、桃香ちゃんはほとんど無視しているように僕には見えた。手を繋ごうとしても拒否していたし、お尻を触られて足を踏んづけていた。桃香ちゃんははた目にも素っ気なくて、イラついているように見えた。
一応三年間付き合った僕が言うんだから間違いない。
だから、これはもしかするともしかするかもしれない。
どんな理由があるのか知らないけど、浮気とかそういうのじゃないのかも。
もしそうだとしたら……。
ごめんね、桃香ちゃん。
また僕は桃香ちゃんの事を疑っちゃった。
本当に駄目な彼氏だ。
それこそ、浮気されても仕方ないくらいの……。
なんて思ってたら、二人は普通にラブホテルに吸い込まれていった。
僕は三十分ばかりその場で茫然として、家に帰って死ぬほど泣いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。