第2話
僕の中ではいつも通りの日曜日だった。
いつも通りにデートの約束をして、いつも通りに駅前で待ち合わせた。
いつも通りに駅前に行くと、いつも通りじゃない出来事が待っていた。
桃香ちゃんが別の男と一緒にいた。
知らない男じゃない。むしろ嫌という程よく知っている男だ。
同じ学校の二年生で、同じクラスの
速水君はモデルみたいな男の子で、実際読者モデルをやってるらしい。背の高い細マッチョで、学校一の美男子なんて言われるくらいのイケメンだ。軽音部にも入っていて、物凄くモテる。休み時間はいつも女の子に囲まれて、キャーキャー言われているような男の子だ。
クラスメイトだけど、僕との接点はほとんどない。クラスメイトだけど、住む世界が違うのだ。速水君は上の方で、僕は下の方。向こうは僕なんか眼中にないか、なにかの間違いで桃香ちゃんと付き合っている部不相応なチビ助くらいにしか思っていないだろう。
実際その事で何度かからかわれたことがあった。
なんでお前みたいな冴えないチビ助が白百合と付き合ってんだよ! って。
そんな事、僕が聞きたいよ!
それと、桃香ちゃんの事を気安く呼び捨てにしないで欲しい。
恐れ多くて、面と向かっては言い返せないけど。
僕が速水君の事を嫌って程知っている理由はそれだけじゃない。速水君は有名なヤリチンで、色んな女の子を食べまくっている。そういうの、僕はどうかと思うけど。お互いに同意の上ならまぁお好きにって感じだ。
許せないのは、速水君が何度も僕の目の前で桃香ちゃんを口説いている事だ。例えば、一緒に集まって食堂でお昼を食べている時。例えば、一緒に帰ろうと仲良く手を繋いで歩いている時。その他諸々の色んな時。
たまたま通りかかった速水君が、なにかのついでみたいに桃香ちゃんを口説いてくる。
「よう白百合。そんな冴えないチビと付き合ってたら恥ずかしいぜ。俺の女になれよ」
「よう白百合。まだそんなチビと付き合ってんのか。いい加減俺に女になれよ」
「よう白百合。お前、そのチビに弱みでも握られてんのか? 助けてやるから俺の女になれよ」
本当、どういう神経をしてるんだろう。
流石の僕もムッとするけど、相手は品性以外の全てにおいて僕より上な学校一の美男子様だ。とてもじゃないけど言い返せない。
で、口説かれた桃香ちゃんだけど、これがすごい。まるで、速水君なんかこの世界のどこにも存在しないみたいに完全にスルーする。それどころか、積極的に僕に話しかけて、あーんしたり、身体を寄せたり、抱きしめたり。
速水君は鼻を鳴らして「はっ! 気持ちわりぃ!」とか言って退散する。
で、速水君がいなくなると、桃香ちゃんは怒涛の勢いで速水君の悪口を言いだす。
「ムカつくわ。私、ああいう勘違いした雄がゴキブリよりも嫌いよ。大体、付き合ってる相手を馬鹿にされて、や~んこの人かっこい~抱かれたいわ~とか思う女がいるわけないでしょう。バカじゃないの? バカよバカ。クソバカだわ。あぁムカつく。大体私は学校一の美少女なのよ。一声かければ簡単に股を開くその辺のバカ女と一緒にしないでちょうだい。小太郎君も、あんな奴の言う事を気にしちゃだめよ。学校一の美男子だかしらないけど、私からしたらあんなのは犬の糞以下よ」
桃香ちゃんはそう言ってくれたけど、冴えないチビの僕としては、やっぱり速水君の事が気になってしまう。
繰り返しになるけど、速水君は高身長の細マッチョのイケメン読者モデルだ。モテモテで、お金だって沢山持ってる。ヤリチンだから、そっちの方も凄いのだろう。
一方の僕は、冴えないチビの一般人。お金なんか全然持ってないし、あっちの方も小さくて火星人だ。桃香ちゃんは可愛くて好きだって言ってくれるけど、優しい子だから、僕を傷つけないようにお世辞を言ってくれているのだろう。一応僕も、足りない分を手や口で補ってはいるけど、桃香ちゃんを満足させられているかは不安だ。
それで最近、喧嘩してしまった事もある。
「よう白百合。そんなチビの短小じゃ入ってるか分からねぇだろ。俺のはすごいぜ。気絶するまでイかせてやるから、その気になったらいつでも連絡しろよ」
「黙りなさい!」
桃香ちゃんの振り上げた右手を速水君が掴む。
「やめとけよ。モデルの顔は商売道具だぜ?」
「桃香ちゃんから手を離せ!」
「うぜーよ」
キック一発で僕はKO。
その時は騒ぎになって、速水君は生徒指導の先生にしこたま怒られたみたいだけど。いつもの事だし、全然懲りてないと思う。
それよりも、僕は桃香ちゃんを守れなかった事で完全に自信を失って、こんな事を言ってしまった。
「……桃香ちゃん。僕なんかが彼氏で、本当に大丈夫?」
「そんな事二度と言わないで! 小太郎君でも、私の彼氏を悪く言ったら許さないから!」
それでバチンとビンタを貰った。そんな風に怒った桃香ちゃんは初めて見た。
いつも優しい桃香ちゃんを怒らせちゃって、僕って本当ダメな奴だって余計に落ち込んでしまった。
その後すぐに桃香ちゃんがやりすぎちゃったって謝ってきて、僕も変な事言っちゃってごめんねって謝って、エッチして仲直り。
でも、僕の中ではやっぱりもやもやした気持ちが残ってて、ここ一週間はちょっとぎこちない感じになってしまっていた。
どこがどうとは言えないくらい、本当に小さな違和感だけど。
結局はそれが原因だったのだろう。
桃香ちゃんは僕に愛想を尽かせて、速水君の事を選んだらしい。
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