第23話

蛇蝎だかつあばら


 髑髏左衛門どくろざえもんの言葉と共に、私ーーアリアの足元の地面が沈む。


「っ!? このっ」


 邪廉魔じれんまを出している以上、ターヤガラスは使えない。


 沈み込みの浅かった後方へ飛びずさり、危機を脱した。そして、邪廉魔は既に、髑髏左衛門にぶつかっていた。


 ドリルのように突貫していったそれは、奴の骨だけの体を綺麗にバラバラに砕け散らせていた。


「ーー呆気ないわね」


 そう、イヤに呆気なかった。


 髑髏左衛門は、少なくとも300年は生きている魔物。実力も、相応に高いはず。それなのに、この散り様。なにか、嫌な予感がする。


「・・・まあ、後で考えましょう。みんなー、おつかれさーー」


 カラスたちに声をかけようと、彼らを向いたその瞬間だった。


「ーー!?ガアア!ガアア!」


 私を見たカラスたちは、まるで髑髏左衛門を見たかのように、私に羽根の弾を飛ばしてきた。


「え、ちょっ、みんな?!ーーくあっ!」


 突然のことに対応できず、当てられるがまま、羽根弾に体を貫かれる。


「み、みんな!なんでそんな・・・え・・・」


 彼らに問いかけようとして、気づいた。


 さっきまで髑髏左衛門の亡骸が散らばっていた箇所に、死後何年も、無理やり稼働させられたかのような腐乱死体の死肉が、辺りに散らばっているのを。


「なーー、なに、なんなの、これ・・・」




『蛇蝎の肋、その真髄は幻術のようなもんじゃ』




 頭の中に響く、憎たらしい声。


 忘れたくても、忘れられない、仇敵。


「髑髏左衛門!?なんで・・・あなたは確かにさっき!」


『殺した、とでも?忘れたのかのぅ、ワシがこの術をかける時に、なんと言ったか』


「何を・・・っ?!」


 そうだ、そこまで言われて思い出した。


 ーー小娘よ。貴様の血と魂……全部寄越せ!


『『蛇蝎の肋』、その能力はふたつの効果から成り立っておる


 1つ、周囲の人物に、憑依しとる人間を髑髏左衛門の見た目、匂い、声、触感を見せること


 そしてもうひとつ、元の持ち主の魂に強固な暗示術をかけ、殺されるその瞬間まで肉体を操れぬようにすることじゃ


 ーーここまで言えば、もう分かろう』


 奴の言葉に、私と、奴への憤りを隠せなかった。


「ーーっの! 出して!これは私の体よ!あなたなんかに与えるためのものじゃない!」


『無駄よ無駄、もうこの体の支配権はーー』


 ボギュ、ミチャリ、という音と同時、左手に骨と肉が潰れるような感触がした。


 そして、目に映るーー目に映される、ターヤガラスの、大量の亡骸。


 なにかが、切れる音がした




『ワシの、ものじゃ』



作者 時塚有希さん

https://kakuyomu.jp/users/tokituka

代表作「儚い弾丸」

https://kakuyomu.jp/works/16816700427014603167

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