(二)-11

「スピードを上げる必要はない。ゆっくり進んで行き、ゆっくり落ちるんだ。いいな」

 拡声器から聞こえる監督の言葉に応えて明は窓を開けてある運転席から親指を立てた拳を見せた。

 シーン番号を助監督が大声で読み上げると、拡声器の「アクション」という声が聞こえ、続けてカチンコがカメラの前で鳴らされる音が聞こえた。そして明はサイドブレーキを解除し、そっとアクセルを踏んで車をゆっくり前進させていった。

 運転席から前の視界には崖の稜線の先に東京湾が広がっていた。その稜線はやがて車のボンネットの下に見えなくなり、海だけが見えた。


(続く)

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