第24話 追い付いた影

「ハァ…!ハァ…!ぐっ…」


 はち切れんばかりに駆動する心臓の音が、耳の真横で聞こえるぐらいに騒がしい。

 急な全力疾走で持ち上がってきた胃の中の内容物を、のどを鳴らして押し込む。


「…まだ、追ってきてる!?」

 

 波打つ木の根と緑色の苔に覆われた大地を、踏み外さないように、確実に踏みしめて駆ける。

 魔術のかけらも使えない身ではあったが、日々の肉体労働や、ポエラからしごきじみた訓練を受けていたおかげで、焦りで高鳴る心臓の音に反して、まだ身体は動きそうだった。


「…ああ、向こうの茂みに背が見えた!しっっっつこい奴だな!まだ追ってきてやがる!」


「チクショおおおお!!」


 背後に感じるじっとりとした気配と視線。

 灰色の体毛に覆われた身をよじらせ、蛇行するように追ってくる影。

 後ろを警戒するジィチを背中に乗せ、涙目になりながら、背後に迫る謎のイタチから、山の中を逃げ回っていた。

 

「おい、俺たち、何かしたのか?!」


「知らな……カナタ、来るぞ!右だ!!」


「うおおおお!ちょっ…危ねぇ!!」


 鬱蒼と茂る草木の中に、何かを見つけたらしいジィチが、頭をベシベシと叩いて危険を知らせる。

 これで何回目かの警告だろうか。逡巡する間もなく、反射的に右側の斜面へと身を躍らせた。

 すると、すぐ真後ろで風を切るような音がしたかと思うと、今さっきまで自分たちがいた場所に、何かが着弾し砂と土を巻き上げながら、音を立てて破裂する。


「あいつイタチの癖に適応力すげぇな…。一発の威力を落として、連射力を高めてやがる…」


「褒めてる場合かよ!!この場に捨てられてぇか!!」


 小柄なイタチの姿は再び茂みに隠れてしまい、はっきりと見つけることはできなかったが、風魔素の塊を放ちながら、追いかけてきていた。

 草原を荒野に変えるほどの威力はないが、方針を変えたようで、先ほどからこちらに飛んでくる弾は、前に比べると間隔が狭まっているが、一発一発の威力は落ちている。

 それでも、全力で走る最中に撃たれれば、足を止めるには十分すぎる火力だった。


「あぶねぇ!下り坂で食らったら、死ぬわ!!」


「頑張れ!!これだけ騒がしかったら、ベキシラフたちが追いかけてきてくれるはずだ!!」


 背負ったジィチは、自分と比べれば比較的小柄ではあったが、装備を捨ててもそれなりの重さを感じた。

 急激な上り坂だと追いつかれそうだったので、なるべく起伏が少ない道を走っていたが、ただがむしゃらに逃げるほかなく、どこか追い詰められているような感覚がしてきた。


「すまん…足を痛めてなかったら、俺も走れるのに。」


「ハァ…ハァ…気にするな!!助けに来るまでだから!!」


 後ろに背負われたジィチは、揺れるたびに痛むのか、弱ったように申し訳なさげな声を出した。


 謎のイタチが現れ、その場に居た皆を、特大の風魔素の弾で吹き飛ばしたあと、こちらを庇ったジィチはその余波を大きく受けて、遠く大樹側の崖下まで吹き飛ばされていた。

 その代償に右足首をひどく痛めてしまい、走るのは愚か、歩くことすらままならない状態だった。


 今にも崩れ落ちそうな大樹から遠ざかるために、横たわるジィチを背負ったまでは良かった。

 しかし、必死の声色で逃げるように叫ぶ、ジーニの声が聞こえたのと同時に、崖上からこちらを見下ろすトビイタチの姿を見つけ、今はあてもなく逃げ回っている。

 ケガをした子供二人が、小型とは言え、荒ぶる野生動物相手に出来ることは、あまり多くなかった。


 斜面を滑り降り、落ち葉で盛り上がった上に着地をすると、再び平地を走り始める。疲労が溜まってきた脚が、2人分の体重を感じて身が沈むが、一度、足を緩めてしまえば、再び歩けなくなりそうで、崖を滑り降りた勢いを殺さぬうちにそのまま走り出す。

 

「カナタ…お前限界なんじゃないか?」


「あ!?まだ、全然行けるし!」


 息が上がり、走るときの身体のブレが大きくなったことに気付いたのか、心配したような声をジィチがかけるが、正直、応答する余裕すら怪しかった。


「い…いざとなったら、俺を捨てて、お前だけでも逃げろ!!」


「…バカ野郎、声…っ震えてんじゃねぇか!」


「でもよ…先に、カナタが潰れちまう!!2人とも、やられるよりは…」


「うるせぇ!ぐっ…ハァ…黙って乗ってろよ。俺だけ村に帰れるかよ。」


 元はといえば、トビイタチが放った風素の弾の延長線上に立っていた自分を、咄嗟に押し倒して庇ったせいで、ジィチは結果的に怪我をしてしまったようなものだった。


(息が上がってきた…

呼吸も、唾も、血の味しかしない。

チクショウ…手が今にもほどけ落ちそうだ。)


 既に、腕と脚がダルい。どんどんと重たくなってくる。

 大きく酸素を取り入れようと、口を開けるが、一向に苦しさは楽になってはくれない。

 どこともしれぬ山道で、今、身体は限界を迎えようとしていた。


「もういい!!お前だけでも走れるうちに、俺を置いていけ!!」

 

 ジィチは、涙声になりながらも、力なくこちらの肩を叩いている。

 奴とは、年も近く、何かと連れ立って生活することが多かったが、奔放な性格のせいで腹立たしいと思うことは色々とあった。

 だが、それと同じぐらいに、彼の面倒見の良さにも助けられてきた。それに、村で生活をしていて助けられたのは、ジィチだけではなかった。

 ジィチの痛々しい振る舞いに、嫌そうな表情をしながらも、必ずジィチのそばにいたジーニも、ポエラが家にいない時、快く食卓に迎え入れてくれたジィチのお父さんとお母さんたちも同じだった。

 身元も怪しげな自分を、暖かく迎え入れてくれたジィチの家族たちの暗く沈んだ顔を覆い浮かべると、この胸を締め付ける息苦しさよりも、彼らにそんな顔をさせてしまう悲しさの方が、今は、辛く耐えがたかった。

 迫りくる限界を振り払うように、鈍くなる手足と弱る気持ちに喝を入れながら、ただ走る他なかった。


 しかし、いくら鍛えられようと、人1人を背負って山道を走るような真似は、長く続けられるものではなかった。

 無情にも限界は、直ぐに訪れた。


「マズイ!…撃って来るぞ!!」


 遮蔽物も疎な平地に差し掛かった際に、後ろから聞こえるジィチの警告に対応できるほどの体力は、もうすで残っていなかった。


「ちっ…くしょ!!」


 なけなしの体力で振り向くと、まっすぐに後ろ、走れば瞬き一つの距離に、大口をあけてこちらに照準を合わせるイタチの姿が見えた。


 その姿を見た途端に、急に自分の足が遅くなったような感覚になった。

 諦めて足を緩めたわけではなく、その身に降りかかる危機を前に、意識だけが加速しているようだった。

 イタチの狙いを逸らそうと、痺れる脚を踏ん張って、足掻くように左右へ蛇行する。

 しかし既に、その身は、限界だった。


(あ、滑った。)


 酷使された下肢は、もはや踏ん張りが効かず、2人分の体重を支えきれずに、地面へとその身は投げ出された。 

 褐色の地面が、でこぼことした木の音が、自分達めがけて、急速に近づいてくる。

 顔面を目掛けて、何かが勢いよく近づいてくる音を聞きながら、迫りくる衝撃を覚悟して咄嗟に目を瞑る。


 …だがしかし、その衝撃はいつまでたっても訪れなかった。


「…っと、間に合った!!2人とも遅くなったね。」


「ベキシラフ!!」


 いつまでも来ない衝撃に、恐る恐る目を開けると、自分と同じぐらい息を荒くしたベキシラフに、2人とも抱きかかえられていた。

 地面に叩きつけられるよりも早く、イタチが放った風素の弾よりも早く、転倒する前に木々をすり抜けるように飛んできたベキシラフに掻っ攫われて、間一発で地面との衝突は免れたようだった。


「…死んだかと思った。」


「ベキシラフ!!見直した!」


 颯爽と現れた助けに安堵して、二人してベキシラフの身体をバシバシと叩くが、当の本人は気にする素振りもなく、ハハハと困ったように頬を掻くと、むくりと立ち上がった。


「助けに来たのは、いいんだけどさ。全然、戦い得意じゃないんだよねぇ…僕。」


「…あ゛」


「え゛っ…そうなの?」


 重なり合うように地面にへばりついた身で、ジィチの表情を伺うと、その顔が引きつっているのが分かった。


「助けが来るまでの間…なんとか引き分けに持ち込むように頑張るから、そこで待ってなよ?」


「バカ!やめとけ、危ないって!」


「でもね、誰かがアイツを止めないとさ。

 ここは、大人の役目だから、心配しないでよ。」


 いつものような飄々とした表情で、のっそりとイタチの方へと対峙するベキシラフだったが、2年もの歳月を共に過ごしていれば、その表情が覚悟に満ちた硬いものであることがわかった。


 それを引き止めようにも、立ちあがろうとした脚は、笑っていうことを聞かない。

 そもそも、ベキシラフの前に躍り出たとしても、吹き飛ばされる壁が、一つ増えるだけだろう。

 イタチから遮るように、立ちはだかるベキシラフの後ろ姿を見ているうちに、気づかない様にして、胸の奥にずっと押し込めていた情けなさと悔しさが、悲しみを伴って沸き立ってきた。


 

(みんなの…村の皆の力になれてるって、思うようにしてた。

 でも、結局は、誰かに守られてて…俺は何もできないのかよ。)


 己の無力さに、沸き立つ悔しさに、歯噛みする。

 その無力さの象徴を、睨みつけようとして、その時に、やっと気づいた。

 足を止め、相対したことで分かってしまった。


 懐から薄刃の短刀を取り出したベキシラフの先。

 欠損して泥と混じり合い、赤黒くなった後ろ脚を、なんども地面にかみ合わせながら、こちらを見つめる真っ黒な二つの目玉。

 あのイタチの目は、一点を見つめている。


 動機も、理由も、分からないが、だけは今、理解した。


か、なのか…。」


 憤怒にも見える。執着にも見える。

 ただ、自分はその眼に覚えがあった。

 初めてこの村で、仕事を任されたとき。

 意識を失い見た夢の中。

 暗く孤独な闇の森の中。

 自分を追いたてる、姿もあやふやな何者か。

 ついに、ソイツが追い付いて来たのだ。


 ようやく、欠けた後ろ脚のちょうどよい置き場を見つけたらしく、執拗に地面を掻くのをピタリと止めると、また、森の奥から風が集まってきた。

 イタチは、その身を一度だけ大きく震わせると、その顎を肩口まで開いて、再びこちらを捻じり飛ばさんと、風魔素の収束を始めた。


 トビイタチの魔素の収束が終わる前に、飛び掛からんとベキシラフがその身を屈めた後ろで、顔面が蒼白になりながら、心の中で覚悟を固める。


(あれだけ鍛えられて、魔素で覆われていたマグニフの腕が、捻じって弾き飛ばされたんだ。当たれば、痛いじゃ済まないだろうなぁ…)


 悲壮的な状況にカナタは一つの考えが浮かんだ。

 3人が犠牲になるか、1人が犠牲になるか。

 酸欠で回らない頭の中、確信めいた惨状に抗おうと、今にもあふれ出そうな恐怖を胸の奥に押し込みながら、未だに震える脚に喝を入れて、ゆっくりと立ち上がる。


(あれほど小柄な動物が、あんな大技、何度も打てるはずがない。よく見れば、身体が自壊しそうになってる。あと一回…あと一回あの技を耐えれば、生き残れるはずだ…)


 ふと横を見ると、切り立った崖の下、雪解けを集めて轟轟と流れる沢が見えた。

 うねりを上げて迫る風魔素の弾を二人から逸らすために、崖の方向へと走ろうと決めると、大きく深く息を吸った。


(助けてもらった。生かしてもらった。

 多分、これは自分が招いた災厄の種なんだと思う。

 恩を返そう。覚悟を決めろカナタ。)


「おい…?何をする気だよカナタ。嫌だよやめろよ…」


 不穏な空気を察したのか、ジィチにこちらの腰を掴まれた。

 そのまま、腰に装備した革の帯を外すと、傍らに座り込むジィチへと渡した。


「コイツを頼んだ。ありがとな。」


「おい、冗談はやめてくれ止まれよ…」


「え、カナタ…?」


 小枝が踏み折られるような音が、イタチから響いたかと思うと、小刻みな震えが止まった。暴風の塊が、そこに完成していた。

 

 沢をめがけて走り出そうと、その身を屈める。

 縋りつくジィチの手を、すり抜け走り出す。

 イタチの鎌首がもたげられ、二つの目玉が走り出さんとする少年を捉える。

 嵐の結晶ともいえる風素の弾が、砲口と化したイタチの口から放たれ、少年のその身をズタズタに引きちぎらんとした、その時。


「どけ!!!伏せろ!!!!」


 その時、確かに、声を聞いた。

 飛んでくる怒号、骨身にしみた彼女の叫び。

 間違うことのない、この世界に来て一番聞いた、彼女の声が確かに耳に届いた。


 走り出そうとしていた身体を、真っ向逆に反転すると、既に伏せようとしているベキシラフと一緒に、呆然としているジィチの頭を抱えて、地面に押さえつけるように、その上にかぶさった。


  遠くから、絹を裂くような風切り音が聞こえたかと思うと、直ぐ頭上を通り抜け、小気味良い音を立てて、イタチが吐きださんとした風素の弾を突き破り、何かがその眉間に吸い込まれていった。

 

 イタチの眉間からまっすぐに入り込んだもの、ポエラが放った風素の重矢は、イタチが作り出した風素の弾ごと、その身を地面へと縫い付けた。

 鉄板を巨大な槌でひしゃげさせたような音を立てて放たれた勢いは、トビイタチを破壊するにとどまらず、縫い付けた地面をえぐり叩き揺らす。

 全身を砕かれたトビイタチは勢いそのままに跳ねあがり、土くれが混ざった肉片となって、奥の斜面に叩きつけられた。


 目の前で起きた暴力じみた魔素の奔流に、唖然としていると、背後に降り立つ人の姿があった。


「間に合った、ようだな。」


「ポ…ポエラぁ…」


 狩人の装備に身を包んだポエラが、そこにはいた。


「助けを呼んでおいてよかったー。」


「ああ、助けの笛の音が、聴こえたものだからすっ飛んできたよ。」


 一気に気が抜けたのか、ベキシラフも短刀をしまうと地面に座り込んでしまった。

 ポエラ曰く、ポラゥル斥候長スカウトリーダーたちが率いる、山狩りの第2陣に追い付こうと森に入った瞬間に、近くで響いた救難の笛に気付き助けにきたようだった。


「助かった…?」


「カナタ、ちょっとこっちに。」


 びくりと、反射的に身体が跳ねた。

 言葉に抑揚がないポエラだが、長く一緒に暮らしていると、その時の細かなニュアンスがなんとなく伝わるようになっていた。

 機嫌がいい時、怒っている時、落ち込んでいる時。

 なんとなくの区別はつくようになったと自負していた中で、その声にはどのような感情が込められているのか、最初は分からなかった。

 いや、分かってはいたが、理解するのに時間がかかってしまった。


「ボロボロだな…無茶をする。ケガはないか?」


「うん…」


「バカ者…、まずは、自分の命を守ることを最初に考えんか。」


「はい…」


「…それでも、よく頑張ったな。」


 親代わりであった彼女は、いけないことをすれば叱り。健闘や貢献に対して十全に褒めそやしてくれた。

 心配をさせてしまったのだろう。

 安心と悲しみ満ちたその表情は、こちらを慮っていることが痛いほど分かった。


 自分が成長してからは、ほとんど変わらなくなってしまった背丈ではあったが、無造作に頭を撫でられると、嬉しさと安堵で、涙があふれそうだった。


 すこし回復してきたのか、足を引き釣りながら近寄ってきたジィチが、預かっていた腰帯を乱暴に突き返してきた。


「バカ野郎。貰った装備を捨てたなんて言ったら、マレッタさんに叩き殺されるぞ。」


「…頼む、後生だから黙っておいてくれ。」


「嫌だ。」


「…っぐ、そういえば、アイツは一体なんだったんだ?」


 そのままでいると、いろいろな意味で、嗚咽が出そうだったので、無理やりに話題を変えようと、先ほどまでイタチが居た場所の方を見た。


 目の前の地面は、巨大な獣の手で無造作に抉り取られたような裂孔を晒しており、勢いそのままに斜面へと突き当り、爆発があったかのように大きな窪地を作り上げていた。


「…やりすぎでは?」


「すまん、加減が難しかった。」


 そこで、自分にまとわりついていた視線がなくなっていることに気付き、恐る恐る爆心地へと向かう。

 だがしかし、そこで目当ての物は、見当たらなかった。


「あれ?イタチはどこに行った?」


「ああ…こっちだよ。」


 何かに気付いたようなベキシラフの後を追うと、すぐそばの崖した沢へと案内をされた。


「逃げた…って言っていいのか、分からないけど、多分沢まで這いずって落ちたんじゃないかな。」


よく見ると、爆心地から崖まで、肉を伴った動物の毛のようなものが、ちぎれて転がっているようだった。


「マジで、なんなんだよあいつは。」


「私にも分からん。とりあえず、マグニフたちはどうした?」


 あっ…と、忘れていた残りの三人のことを思い出し、いったん合流をして、村へと報告をしに行くことになった。


その帰りの道中


「ちなみにだけど…あの沢の下流って、村の方につながってないよね…?」


「ああ、仮に流されても、村の結界の外に出るはずだ。」


 じゃあ、大丈夫かな?と、安堵してマグニフ達のところへと向かうことにした。



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一方、同時期。


「首尾はどうだ?」


「お疲れ様です、斥候長。

 第一陣が村の結界近くをうろつく、冬眠明けの秋熊の姿を確認しました。

 位置的にも、村に迷い込みかねなかったので、集団で狩りを行い仕留めましたが…」


「どうした。」


「心臓を、打ち抜いたまでは良かったのですが…

 北の滝が近づいていることに、気が付くのが遅くなって、奴は崖下へと…」


「落ちたのか。」


「はい。」


 斥候長であるポラゥルは、先行隊からの話を聞きた後に、後ろに手を組んで、フームと唸り、鼻から大きく息を吸った。


「まあ、大丈夫だろう。確かに、心臓を打ち抜いたんだよな?」


「ええ、複数人で仕留めたところを確認しました。少なくとも、今日を越すことは出来ないかと思います。」


「では、そのまま放置するか。北の滝の沢なら村の方にから、大丈夫だろ。」


「承知しました。では、第2陣への引継ぎをお願いします。」


「よし、引きついだ。よし!ポラゥル隊は交代だ、夜まで気合い入れるぞ!」


 斥候長直々の激励に返答する第2陣を横目に、先ほどまでポラゥルへ報告していた狩人の一人は、何もいなくなった崖の方を見たが、背筋を伸ばすと踵を返して村へと戻っていった。


 辺りには、静かに水が滝底を叩く音だけが響いていた。


 そのとき、下流の川面が揺れた音が響いたが、全てにおいてささやかすぎるものだった。

 

 そして、森に居る誰もが、それに気づくことは無かった。


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