第10話『幽霊屋敷⑨ クライマックス』
場所は変わり、シェアハウスの外では、巨大化とまではいかないが、更に筋力が増大しているセン子と、終夜が睨みあうように対峙していた。
セン子「良いの?仲間の女はオマエを見捨てて走り去ったわよ。」
終夜「ヘッ。アイツがオレを見捨てるワケ…いや、有り得るか…?」
セン子「そろそろ…クライマックスだな。」
終夜「そう願うよ。観念して大人しく電気代を払うんだな。こっちは夜のトレーニングを中断してまで駆け付けてるんだ。」
おもむろに、屈伸運動を始める終夜。
セン子「え?電気代?」
終夜「もともとココの持ち主が、毎月電気代の高額請求が来る事に頭を悩ませてて、その解決にオレらが来たワケだ。」
セン子「何か電気、点くなぁと思って有難く使わせてもらってたんだけどね。」
終夜「何か点くなぁじゃねぇわ!ってクライマックスでこの話しすんのかよ!」
セン子「まぁイイわ。アンタ達もネジ伏せてしまえばコッチのモン。」
そう言うと、セン子は不気味にニヤリと笑う。
終夜「幽霊は大人しく暗闇で百物語でも話してろや。」
終夜は念入りに、アキレス腱を伸ばしたり、ストレッチをしている。
だが、視線は、ひと時もセン子から外さない。
セン子「最近の幽霊は、パーリナィで酒池肉林のマリカじゃい!!」
そうセン子が叫ぶと、今度はセン子の胸筋が倍に膨れ上がった。
終夜「生憎と…オレぁ巨乳はシュミじゃねェんだわ。」
セン子「触っても良いのよ?」
セン子は、増大した胸筋を両手で包み、ユサユサと揺らしながら言った。
終夜「シュミじゃねぇっつってんだろ?」
そう言うや否や、終夜は地面を蹴って跳躍し、セン子に飛び掛かった。
セン子「やっぱ挟まれたいのね♪」
終夜「そんなんに挟まれたら圧死するわ!」
そのままの勢いで、セン子の腹部に蹴りを叩き込む終夜。
セン子「今のこの姿を見てもなお、戦いを挑んでくる心意気だけは認めたげる。」
セン子は、片手で終夜の足を掴み取り、そのまま地面に叩きつけた。
終夜「ぐぅ…っ…。」
セン子「何の考えもナシに突っ込んでくるのは感心しないわねぇ…。」
セン子は、自分の足元に目を落とし、依然として立ち上がれないでいる終夜を冷ややかに見ている。
終夜「良い…の…かよ?」
セン子「は?」
終夜「い…今が…オレにトドメ…ぐっ…刺すチャン…スなんじゃ…ねぇのか?ハァハァ…。」
ゼェゼェと息を荒げながら、終夜は下からセン子を睨んでいる。
セン子「今にも死にそうなヤツが、チョーシこいてんじゃないわよ。」
終夜「テメェはテメェ…。オレはオレ…。いくらテメェが筋肉のカタマリで、勝ち目なんか無いように見えても…。」
終夜はユックリと立ち上がる。
終夜「だからっつって、オレがテメェに負けた時の言い訳にはならねぇ。」
セン子「は?頭でも打ってオカシくなったかしら。」
終夜「だからよ、テメェも、油断してましたじゃ、オレに負けた時の言い訳には、ならねぇぞ。」
終夜は真っ直ぐセン子を見据えている。
セン子「…。」
まだ勝つツモリで居る終夜に対して、不快感を露わにするセン子。
終夜「それは、諦めない…信じるヤツのタメにある可能性だ。」
セン子「コイツ、マジで勝つツモリで居るワケ…?」
終夜「悪意は破壊しか呼ばねぇが、守りたいという意思は、何度でも立ち上が…ッ!!!」
言いかけた所で、セン子の強烈な蹴りが、終夜の脇腹をエグった。
終夜「ぐはっ…。」
終夜はハデに吹っ飛んで、再び地面に叩きつけられた。
セン子「良いこと言おうとしてたトコ悪いけどね、またよく吹っ飛んだわねぇ…。」
セン子は、終夜に興味を無くしたのか、シェアハウスの方に視線を向けた。
セン子「この場所は渡さない。」
と、呟きながら所々で、屋内で光に照らされた影が動くのを見ている。
セン子「この、プリンセスのタメに集まった、従順なシモベ達と、この光に包まれた…ツッ!!」
言いかけた所で、セン子は右ひざに鈍い痛みを感じ、表情をユガめた。
終夜「クソみてぇなセリフ吐いてるとこ申し訳ないがよ。」
終夜は肩に太い木の棒を担いでいる。
どうやらこの棒をセン子の右ひざに叩き込んだようだ。
終夜「攻撃した相手の状況も確認しねぇで、ヨソ見は良くないんじゃねぇのか?」
セン子「おのれクソガキィ!!」
逆上したセン子は、大きく右腕を振り上げた。
セン子「ババアタック!ファイナルアンサー!!」
そのまま大きく右腕を振りぬき、見事に腹部に喰らった終夜は、またハデに吹っ飛ばされてしまう。
セン子「クソ…今度こそ…。アレを喰らって無事なワケがない。」
セン子は、鈍い痛みが残る右ひざに視線を落とす。
そこに、建物の方から、何か布のようなモノがヒラヒラと飛んできて、セン子の頭に張り付いた。
セン子「ん?」
それは、何か水分を含んでいるようで、シットリとしている。
セン子「うわ何コレ!!くっさ!!!」
セン子がその布のようなものに注意を引かれた瞬間、再び右膝に鈍い痛みを感じた。
セン子「ぐぁっ!!」
終夜「だからよぉ、もうオレを倒した気になってんじゃねぇっての。ま、今のはその布か何かにタイミング作ってもらったようなモンだがよ。」
終夜は、先ほどの木の棒を、再び肩に担いで言った。
セン子「オノレェ!!!」
セン子が乱暴に、頭から布のようなモノを引きはがし、地面に叩きつけた。
終夜「しかし何だコレ…メイド服…?にしても何か湿ってるしクセェな…。」
ソレは、博記と、モエミンガーZが戦っている部屋から飛来したメイド服であった。
セン子「もう許さんぞぁああぁぁあぁあっ!!!」
そしてセン子は、また右腕を大きく振り上げた。
そして、そのまま少し時が流れ…。
セン子は、左ひざを地面に着き、右膝はガクガクと震えていた。
セン子「なっ…。どういう事…?アイツには、確かに攻撃は当たっていて、その度にアイツは大ダメージと共に吹っ飛んだハズ…。」
終夜「そのオゴりが、招いたミスだよ筋肉ババア。」
セン子「………どおりで良くフッ飛ぶなと思ったわよ。」
終夜「オマエの攻撃がオレに当たる瞬間に、オレはその方向に自ら飛んでたワケだ。」
しかし、そういう終夜の体にもダメージが蓄積されているようで、終夜は全身で息をしている。
対するセン子は、右ヒザにダメージはあるものの、大して疲労はしていないようだ。
セン子「しかし…まさか、コレで勝ったツモリで居るのかい?坊や。」
終夜「勝ったとまでは思ってねぇがよ。オマエの右足はもう使えねぇだろ。」
セン子「…。」
セン子は、依然として冷やかな目で終夜を見ている。
終夜「大人しくこの建物のブレーカーを落とさせてもらうぜ。」
終夜が建物の中へと歩を進めようとした次の瞬間、セン子は左足一本で地面を蹴り、弾かれたように終夜の方に跳躍し、ダメージを受けているハズの右膝を、終夜の腹部に叩き込む。
終夜「ガッ………!!!」
終夜は、今度は自ら跳躍する余裕もなく、その衝撃の重さから、その場に崩れ落ちてしまう。
セン子「フン。ドコで得た知識かは知らないけど、そんな小細工で勝てるとでも思ったの?」
セン子の右膝は、ドス黒く変色しているが、ソレを全く意に介していないようで、終夜を蹴り飛ばし、視界から消した。
セン子「ネズミどもが…。全員マトメてトドメを刺してやるよ。」
次の瞬間、セン子はクチを大きく開き、耳をつんざくような咆哮が、辺りに響き渡った。
そして少し時を戻し、場所を変え、チャンと対峙している凪兎は…。
チャン「はよぅ立ち上がらんと、立ち上がれんようになるぞえ?」
凪兎「一休さんでも解けねぇような事を言ってんじゃねぇぞ…。」
凪兎は、相変わらず強烈なダメージが全身に残っているようで、立ち上がれないでいるようだ。
チャン「ツマランのぅ…。コレでは修行の成果が出せんではないか。」
凪兎「クソババア…大概にしとけやコラ…。」
チャン「ま、こんなモンじゃろ。」
トントンと、軽快に凪兎に接近してくるチャン。
凪兎「チョ待てよ!!」
そのままの勢いで、チャンは凪兎の腹部に強烈な蹴りを放った。
声にならない声を上げ、凪兎は壁を突き破って近くの部屋へとフッ飛んだ。
チャン「あの部屋は…。」
トコトコと、凪兎がフッ飛んだ部屋へと歩を進めるチャン。
中に入ると…。
ワルオ「チャンたん!!」
チャン「その呼び方は止めてくれと言ったハズじゃが?」
モエミ「あっ!オバアめしや!!」
モエミは、嬉しそうにチャンの方へ浮遊していく。
チャンは、孫娘にでもするかのように、飛んできたモエミの頭を撫でている。
チャン「相変わらずよのう…オマエさんも。」
モエミ「今、モエミンガーZ中だっためしや!」
チャン「なるほどのぅ…。オヌシらの元にも来ておったか…。侵入者が。」
チャンは、近くに倒れたままの博記を一瞥して言った。
ワルオ「話しにもならなかったでござる。」
チャン「しかし…いよいよワラワらの安息の地も、揺らぎ始めたのかも知れぬな。」
モエミ「大丈夫オバアめしや!あの人が、何とかしてくれるめしや!」
ワルオ「今までだって、そうだったデュクシ。」
チャン「しかしのぅ…。今回は、何故か胸騒ぎがしてのぅ…。」
気絶している博記と凪兎をよそに、話し込んでいると、セン子の咆哮が聞こえてきた。
チャン「これは…。」
ワルオ「合図デュクシ。」
モエミ「行くめしや!」
そう話しつつ、その場を離れるチャン・ワルオ・モエミ。
そして、更に時を戻し、廊下では…。
菜々子「やっべ…物語的には、時は進んでは戻しで、時間は経ってないんやけど、待ちくたびれて、もうマジモードを、マジで解除する5秒前なんやけど。」
ピーチ「ワケの分からん事を…。文字通り、真剣勝負と行こうや。」(刀を肩に乗せて)
菜々子「チコには渡さへんで!!」(短剣を下に構えて)
そして物語はクライマックスへと進んでいく。
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