第9話『幽霊屋敷⑧ めしや』
場所は変わり、廊下をダッシュで外に向かっているマリオ。
凪兎「オマエまで乗っかってんじゃねェよ!」
そんな、ツッコミという刃を振りかざす凪兎の目の前に、突如として老婦が姿を現した。
凪兎「うわっ!!」
慌ててブレーキをかけ、急停止する。
その老婦は、大きな荷物が入った風呂敷を首元で結んで背負い、両手に大きな紙袋を一つずつ持っている。
凪兎「ちょっ…。(肩で息をしながら)お婆ちゃん!こんな所でナニやってんだよ?」
老婦「いやぁ、この横断歩道を渡ろうと思ってのぅ…フガフガ…。」
凪兎「イヤ横断歩道なんか無ェから!ここシェアハウスの中だぜ?しかも取ってつけたようなフガフガって何だよ。」
相変わらず雑なボケの多さにウンザリしながら、凪兎はマジマジと老婦を見ている。
その間にも、老婦はフガフガ言いながら、横断歩道とやらを渡ろうとユックリと移動している。
凪兎「コイツも人間じゃねぇな。」
老婦「年上を捕まえてコイツとは何じゃぁ!!」
叫んだ老婦のクチから勢い良く入れ歯が飛び出す。
凪兎「!!!」
老婦「ふぁふぃふぁふぁふぁ、ふぉうふぁふぉふぉふぉふぉふぁふぁふぉふぉうふぉ。」
凪兎「まず入れ歯をしろ。」
老婦は、入れ歯を拾ってキレイにし、装着する。
老婦「ワラワの名は、オバア・チャン。君の名は?」
凪兎「和久凪兎っす。って、ワラワとかってアレだから!女帝とかが使う一人称だから!」
チャン「しかしオヌシも意味不明な事を。こんな女帝捕まえて人間じゃないとは。フガフガ。」
凪兎「いや女帝じゃ無ェだろ。アンタが人間じゃ無いと思った理由だが…。」
チャン「…。」
凪兎の言葉を聞いているのか、いないのか、チャンは再びユックリ移動を開始した。
凪兎「両手にデカい紙袋一つずつ持ち、大きな風呂敷を首元で結んでんだ。」
チャン「…。」
凪兎「普通は首が締まって死ぬ。」
チャン「なるほどのう…。あっ首が苦しい!!」
凪兎「遅ぇわ。」
チャン「コレも修行のうちよ。」
凪兎「何意味不明な事を言って…。」
凪兎が言いかけた所で、チャンは両手に持っていた紙袋を離す。
両方の紙袋が、ドスン!という音と共に地面にメリ込む。
凪兎「なっ…。」
チャン「こんな重いモノが入る紙袋なんて存在しないというツッコミはナンセンスじゃよ。」
そう言いつつ、風呂敷もほどくと、ズドンッ!!という音と共に地面にメリ込み、深い穴が開く。
凪兎「コレ見た事ある。あの天下一武道会で天津は…」
またもや凪兎が言いかけた所で、チャンが地面を蹴って滑るように移動してきた。
凪兎「なっ…。」
そのまま低姿勢で凪兎の足を薙ぎ払い、一瞬凪兎が宙に浮いた瞬間に凪兎の腹部を蹴り上げるチャン。
更にチャン自身も跳躍し、連続して凪兎を上空へと蹴り上げる。
そして最後に、右足を大きく振り上げ、中空の凪兎の背中へと叩きつけるチャン。
凪兎「がっ…!!!」
息つくヒマも無く、打ち上げられ、地面に叩きつけられた凪兎。
チャン「お年寄りは大切に、じゃよ。」(ストンと着地して)
凪兎「クッソ…ババァが…。」
立ち上がろうとするが、全身を地面に打ち付けたため、体にチカラが入らず立ち上がれない凪兎。
チャン「おやおや、まだキツい灸が必要なようじゃな。」
凪兎「こんなトコで…時間かけてる場合じゃ…。」
チャン「ま・ユックリして行きなされ。」
トコトコと、凪兎に近寄るチャン。
凪兎「チョ待てよ…。くそ…。立てねぇ…。」
チャン「あの世へ一緒に行くとするかえ?」
そう言うと、立ち上がろうとしている凪兎の腹部に強烈な蹴りを放つチャン。
凪兎「ッ!!」
そのままフッ飛ばされ、柱を数本ヘシ折って吹き飛ばされた凪兎。
凪兎「ぐっ…ガハッ…。」
チャン「最近の若者は軟弱で困るワイ。」
凪兎「オマ…ガハッ…。」
何か反論しようとする凪兎だが、呼吸もままならないようだ。
一方コチラは、少し前に凪兎に鉄パイプで殴り飛ばされた博記が居る居室。
博記「う…うぅ~ん…。」
目を覚まし、ユックリ上半身を起こす博記。
どうやらフッ飛ばされた衝撃で頭を床に打ち付け、その拍子に、ピーチのキスマークは消えたようだ。
博記「いって…。」
体を起こそうとすると、腹部に鈍い痛みが走る。
博記「あれ?オレ、貝でも食べたんかいな?」
ちなみに博記は貝アレルギーで、食べるとお腹が凄く痛くなる。
博記「しかし…何なんだこの部屋…。」
辺りを見回すと、壁一面に、メイド服がハンガーにかけられている。
床は、足の踏み場も無いほど衣類が乱雑に散らばっている。
博記「………。これメイド服?」
博記が、メイド服に吸い寄せられるように壁に向かって歩いていると、突然背後から低い男性の声がする。
男性「…やめて貰えますか?」
博記「うひょっは!!」
突然の事に変な声を上げて振り返る博記。
そこには、十代後半と思しき男性が立っていた。
博記「え?どっから現れたん?」
その男性は、ふくよかな体系をしていて、目が悪いのか、度の強いメガネをかけている。
そして何より印象的なのは…。
博記「メイド服着てる…。」
はち切れんばかりのパツパツになったメイド服を無理やり着ていた。
男性「この部屋…小生の部屋です…。」
博記「あっゴメンなさい怪しいモノではなく、別にメイド服につられて吸い寄せられてたワケでもなく…って小生?」
男性「この部屋にあるメイド服は、モエミたんが生前着ていたメイド服ですデュクシ。」
博記「でゅくし?」
博記はデュクシにつられ、もっと大切な部分を見落としていた。
男性「申し遅れました小生の名前は、冥土・イン・ワルオと申します。」
博記「もうムチャクチャやな。」
ワルオ「小生のサンクチュアリに土足で踏み入るなど、言語道断デュクシ。」
博記「好きで入ってきたワケじゃねぇわフザけんな。」
ワルオ「君の名は?」
博記「ヒロキだ。覚えとけオタク野郎。」
ワルオ「小生はオタクじゃないデュクシ!!」
ワルオが叫ぶと、メイド服の上着のボタンが1つハジけ飛んだ。
博記「じゃぁ何だって言うんだよ。」
ワルオ「モエミたん討伐隊隊長でござる!」
博記「討伐してどうすんだよ親衛隊だろフツウ。」
ワルオ「そうとも言うでござる。」
博記「じゃぁオレは行くわ。」
そう言って出て行こうとした博記。
が、博記は何かの気配を感じて立ち止まる。
博記「何か居る…。」
第7話でもあったように、霊感に目覚めつつある博記は、何者かの気配を感じていた。
博記「…。」
博記の目の前にボンヤリとではあるが、女性のようなシルエットが浮かび上がる。
その女性も、ワルオと同じく十代後半と思しき女性で、ワルオと同じようにメイド服を着ている。
ただ、ワルオと違うのは、メイド服がジャストフィットしている点である。
博記「まさかコイツが…。」
ワルオ「モエミたん!!」
そのモエミと呼ばれた女性は、徐々にシルエットがハッキリしつつあるが、ワルオや、その他のシェアハウスの住人と違うのは…。
博記「両足が無ぇ…。」
モエミ「うらめしモエモエキュン!!」(両手でハートマークを作って)
ワルオ「キュン!」(同じく)
博記「キュンキュン!!」(同じく)
ワルオ「キサマァ!!小生のモエミたんに色目を!」
博記「だって可愛いジャン?」
モエミ「やぁだぁご主人様ってばぁ!うらめしや!!」
そう言いながら、モエミは博記の肩を、嬉しそうにバシバシ叩いた。
博記「最後のなに!?」
ワルオ「許せんぞぁ!!」
ワルオがそう叫ぶと、上半身のメイド服が粉々にハジケ飛んだ。
博記「いつからココはドラゴンボールになったんや…。」
モエミ「やぁだぁワル人様ぁ。怒っちゃイヤめしや!!」
博記「なにコイツ。ワル人様って…ワルオとご主人様が合体してるし…。」
流石の博記も、少し呆れた表情をしている。
ワルオ「モエミたん!」
モエミ「ハイめしや!」
博記「もう、うらめしやに謝れ。」
ワルオの呼び声に応えるように、モエミはワルオの方に浮遊していく。
言わば、モエミは昔ながらのオーソドックスな幽霊スタイル、といった感じだ。
博記「やっぱコイツラも人間じゃねぇか。」
ワルオ「パイルダー………。」
モエミ「オーーーーン!!めしや!」
その掛け声と共に、モエミが、ワルオの背後から、背中に飛び乗った。
ワルオ「モエミンガーZ!完成!!」
博記「イヤそれただの、おんぶじゃん?」
ワルオ「汗スプラッシュ!!」
そうワルオが叫ぶと、ワルオの体から、おびただしい量の汗が撒き散らされる。
博記「うわっぷ!!キメェ!!」
そのワルオの汗は、壁一面にかかっているメイド服にも大量に付着している。
もちろん、博記にも付着している。
ワルオ「モエミンガーZ!始動!!」
モエミ「ハイめしや!!喰らえ!そっちのご主人様!!」
モエミがそう叫び、両手を広げる仕草を見せると、部屋中のメイド服がハンガーから離れて浮遊し始める。
博記「なんだ…?」
モエミ「汗メイド服アタックゥーーーー…。」
モエミが両手をギュッと握りしめると、メイド服が円を描くように部屋中を浮遊し始める。
モエミ「めしや!!!」
そしてその両手を博記に向かって突き出すと、浮遊していたメイド服が全て博記に向かって飛んできた。
博記「ちょっと待て!そのメイド服って…。」
水分を大量に含んでいるメイド服。
博記「水分じゃなくて汗…」
その突進の一撃は、水を含んだタオルよろしく、カナリなダメージを伴う打撃となって、次々と博記を襲う。
博記「ぐぅ…。………ぐあっ!!…。」
何十という汗をタップリ含んだメイド服の突撃に、成すすべなく打ちのめされる博記。
含んでいる水分が汗という点でも、精神的ダメージもデカい。
モエミ「逝ってらっしゃいまっせぇ!そっちのご主人様ぁ!!!」
その合図で、全てのメイド服は再びハンガーにかかり、大人しくなった。
その跡には、ゴミの山と化した床の上に倒れている博記が残った。
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