葛藤

エナツユーキ

現状

 自分はとある男子高校生だ。


 見た目は大してさえず……いてもいなくても大して変わらないような学生だ。

 高校三年になっても、得意分野は大して見つからず、受験勉強なんてクソくらえとしか考えていない。

「将来の夢?」

 そんなものよく分からない。

 前述した通り、いてもいなくても大して変わらないようなヤツが、夢なんぞ語るなんて千年早いとすら考えている。

 だが、こんな自分にも取り柄だけはある。


「何をされても、何も感じない」


 こんな、取り柄と言えるものかどうか怪しいものを自分は持っている。


 この取り柄、具体的にどのようなものかというと……一般の人には必ず存在するであろう心、しかし、自分の心は他人のとは違って、正常に機能していない故の物だと考えている。


 それに付け加え、この取り柄はあくまで自分の中核を覆うようなものであり、自分の感性豊かな心を守るようにして存在している。

 この取り柄に何の意味が有るのか正直分からない人の方が多いと思う。だが、自分にとってこの取り柄というものは、これ以上ないくらいに便利だと自分は感じている。

「なぜかって?」


 ヒトは良くも悪くも感情に左右されてしまう。


 感情は、人間にとって大きなアドバンテージとなってきた。近代社会の発展は、夢と希望を持った誇り高き偉人がもたらしたものである。その計り知れない行動力の源はまさに心、そしてそこから派生する感情なのではないのかと考えている。


「夢を見る」


 これは、他の動物には決して真似出来ない人間だけが持つ専売特許と言えるだろう。夢を見つけ、それを実現するための心。それは人間が人間でいるための十分条件とも言えるだろう。


 しかし、この心には必ず闇も存在することを我々は忘れてはいけない。


 宇宙にはブラックホールというものが存在することを皆さんはご存知だろうか。知らない人のために軽く説明をしておくと、太陽など自ら光を発している天体を恒星という。その恒星が超新星爆発を起こした時に、とても重力の大きな空間が生成される。それをブラックホールという。このブラックホールは、あまりの重さ故、この世界で存在する最も動きの早い物質である光すらも通さない。


 そう、誰しも心の奥底には、どんな光も通さないブラックホールが必ずあると自分は考えている。このブラックホールは時が経つにつれて、あらゆる感性を飲み込み、そして最終的に


「無」


 としてしまう。

「無」になったヒトの心の中に残るのは、もはや動物としての本能だけとなり、野蛮な生き物へと変貌するのではないかと考える。

 しかし、現実世界でそのようになってしまった人間は存在しない。つまり、心の中で人間は何かしらの方法によって、そのブラックホールを、なんとか抑え込んでいるのではないかと考えている。自分にとっての心を守る方法こそがまさに、自分の取り柄とイコール関係で結ばれていると感じている。


 ここまで聞くと少しはこの取り柄の便利さが理解できただろうか?


 普通の人間は無意識のうちに自分の心を守ることができている。しかし、自分にはもう、それができなくなっている。

 理由として、中学校、高校と死に物狂いで生き続けてきた自分の体、心、が疲弊し、ブラックホールを押さえるリミッターが弱くなり、完全に心が闇(ブラックホール)に侵される前に暫定的に何も感じなくさせてしまったからだ。危うく心の闇が全身に回っていたとしたら、何かしらの犯罪を犯していたかもしれない……とすらも思う。

 犯罪者の多くは、心のリミッターをとある理由で解除させてしまい、感情的に事件を起こしているのではないかとニュースを見て思う。


 つまり、感情はヒトをも殺す。


 そのため、心や感情というものは、我々人間にとっては諸刃の剣だと言い換えることができるのだ。


 この話は主人公が心とそれに派生する感情を無くした理由と、その主人公が夢を見つけ実現するまでの話である。



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