新魔王の元従者

落ちこぼれ貴族

第1話 紅(くれない)の晩に

 僕は甘かったんだ。甘すぎたんだ。

 何も守れなかったじゃないか。

 僕のせいで、彼女が。

 僕は、僕は、何をしてんだよ。なんで生きてんだよ。なぜ、主である彼女が死んで僕が生きてんだよ!!

 「僕が・・・殺したんだ。はは、ははっ、はははははっは」

 少年は膝を折り、自分を責めるが如く両手を地面に叩きつけた手からは血が滴った。

 

 紅の月が屋敷を都市を真っ赤に染め上げ、

 コツコツという足音を立てて。

 そして、黒いマントに身を包み、《侵入者》は盛大にドアを破った。

 何かを探しているように女の子らしい上品な部屋を眺めていた。

 そして、僕たち二人を見て、つぶやく。

「違う、おま、そうか、感じるぞ、貴方様、貴方様が・・・」

「だ、誰だおまえは、何が目的だ」

「誰だ貴様は。

 貴様には要はない失せろ羽虫が」

 その直後に放たれた大ぶりの蹴りが溝に直撃する。

「ぐっ、はっ」

「ゼノン!!」

 放たれた右蹴りは、ゼノンを後方の壁に衝突させ、うっすらと赤くなったカーペットに濃い鮮血が付着した。

「羽虫に要はない消えろ」

 侵入者はそう言うと腰に据えた鞘から白刃を抜き、突貫してくる。

 そこにピンク色の寝巻を身にまとった銀髪碧眼の少女が間に入り込む。

 両手を広げてゼノンを守るようにして立った。

「ゼノンをいじめるな」

 白刃はそのまま彼女の左腕を切り離す。

「くっ、くああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 切り口からは大量の血しぶきが宙を舞い月の光によって、輝きが増した血がカーペットを再び染める。

「ティア様、ティア様、返事をしてください、お願いします」

 床に倒れた主に向けて手を伸ばすが、ボロボロになった体は彼女のにまで届くはずもなかった。

「貴様は本当に最悪というか本当にだな、主に守ってもらって、従者というのは命を懸けても守るのが当たり前だ。

 君に資格はない」

 侵入者がこちにしたことは事実だ。正論がゆえに何も言い返すこともできずに、意識が遠のく。

「ゼノン、死んじゃだめだよ。

 さ・・・」

 それが、最後で意識が持っていかれた。


 僕は死んでしまったのか?

 いや、感覚はある。だが、聴覚と触覚以外は働いていないようだった。

 そんなことよりもティア様は、どこだ。

(あの後どうなった。

 まさか、まさか、ティア様はもう)

 体を左右に動かしてもがいてみるが、何かに触れた感覚はなかった。

 働いていなかったはずの視覚が突如光明を映し始める。

 その光は徐々に近づいてゼノンを包んでいく。

 そして、声が聞こえてくる。

「汝、何を求めるか。希望か、願いか、それとも力か」

 突飛として投げられた言葉、動揺を隠せずにいたが、今はぶちまけたかった。

(この声、とんでもなく胡散臭いでも・・・)

「僕は、僕は、彼女がティア・マーセル・ラプラスを傷つけるものから守る力が欲しい」

 その後、再び闇がゼノンを侵食していった。

 そこからの記憶はなかった。

 

「あれ?

 夢だったのか?」

 いや、そんなことよりも、ティア様はどこに。

 部屋の中を見回したが彼女の姿も死体もなく、ふぅっと、胸をなでおろした。

 しかし、同系色だったカーペットも日の光によって血痕がより鮮明になっていた。

 それを見るに、この血の量じゃ助かるようには見えなかった。

「僕のせいだ

 僕がすべて、すべて悪いんだ」

 

  


 

 

  

 

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