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「お」


「あ」


「同時に来るのは、初めてだな」


「そうね。先どうぞ」


「俺の買ったやつを買うんだっけか」


「うん」


「ほら」


 放り投げられる。ペットボトル。


「水ね」


「水か」


「隣。いい?」


「どうぞ」


 ベンチに、ふたり。


「初めてだな、座るのは」


「つかれちゃってね、ほんの少しだけ」


「案件か?」


「うん」


 話そうとして、話せない沈黙。


「待ってたの。この前。ここで」


「奇遇だ。俺も待ってたな、この前」


「何時?」


「忘れた。月がちょうど、あのビルの辺りだった」


「そっか。わたしとは違う時間だったね。わたし、あっちのマンションのぐらいの月だった」


 会えなかった。

 そして今、会っている。


「おまえ、笑えたんだな」


「え。わたし、笑ってた?」


「いや。どうでもいいことか」


 沈黙。


「いつも。無表情だったから」


「そっか。そうかも」


 ペットボトルの、ちょっとした音。


「わたし」


 沈黙。


「わたし。ここにいて。いいかな」


 沈黙。


「わたしね」


「おまえが喋っても」


「うん」


「俺には、何もないよ」


「知ってる。そういう顔してる」


「なんだよ、顔って」


「そういう顔。何もかもどうでもいいって、顔」


「分かるのか」


「まぁ、なんとなく」


 無言。


「しにたいんだ」


「ん?」


「しにたいんだよ。俺は。だから、案件を受けてる。正確には、任務っていうんだけど」


 無言。


「正義の味方、って言えばいいか。それをやってる。任務は、いつも、しと隣り合わせで。いつ。しねるかって。思いながら、いつも」


 無言。


「いつも、そういう事をしている」


 無言。ペットボトルの音が少し。


「任務のことは言えない。なぜ、こうなったかも。というより、理由がない」


「きかせて」


「理由がないのは、何言ったって、変わらないよ。僕には何もない。だから、なんとなくしにたい。それだけだ」


「ぼく」


「わるいか?」


「よかった」


「なにが」


「壁がなくて」


「壁?」


「今から、わたしのことを話します。聞きたくなくなったら、何も言わずに立ち去ってください」


 水のなくなったペットボトルを、つぶす音。


「わたしね」


 沈黙。つぶしたペットボトルが、ごみ箱にシュートされる。


「最初は。親だった。それから、施設のひと。次に、友達」


 沈黙。長い間。


「わたし。近くにいる人に、好かれるの」


 ペットボトル。水の音。


「だから、それを利用して。生きてる。今も、そういうのを利用して。服の写真とか。そういうのを。だから」


 立ち上がり、去っていく。


「はぁ」


 ひとり、残される。

 ペットボトル。まだ、水が残っていた。


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