【第1話】月詠荘へようこそ、って神様いるのかよ!?



葬式の後、俺は一人

アパートの前に立っていた。



名前は月詠荘、築年数は聞くのも恐ろしい。

ボロい木造アパートだ。


玄関の表札には、小さく『大家:野崎』と

プレートが付いている。



……俺の名字だ、間違いない。


 


「おばあちゃん、とんでもないもの

残してくれたな……俺にできるかな……」


 


亡くなった祖母の遺言状には

こう書かれていた。


 


『ハルへ。

このアパートを継いでちょうだい。

ただし、住人たちはちょっとだけ

特別だから驚かないでね』


 


“ちょっとだけ特別”ってなんだよ。

特別な支払い能力があるとか、

家賃が先払いとか…

そういう特別だったら最高なんだけど。


 


そう思いながら部屋の鍵を開けた、



その時だった。


 


「――あっ、大家!おっせーぞ!

腹減った!酒!あと餃子!」



「……は?」


 


目の前にいたのは、見た目だけなら

中学生にも見える少年。

目元に小さな星型の泣きぼくろがあって、

やたら目がキラキラしてる。

おにぎりを片手に、俺にぐいぐい距離を

詰めてきた。


 


「神田ジナン!このアパートのアイドル的存在! あと元・神様だったりする!」


 


元・神様?

いきなり何を言い出すんだ、こいつ。


 


「……えっと、はじめまして。

大家の野崎ハルです」



「知ってる!

ハルって名前、かわいくていいよね!

俺のファンになってもいいよ!」



「お断りします」


 

そっと距離を取ろうとした俺の背後から

ガシャン!と金属がぶつかるような音と

共に、更にひとり現れる。


 


「ジナン、騒ぎすぎ。新入りビビってるだろ」


 


金と黒のツートンヘア。

耳にはジャラジャラとピアス。

ゴツめのジャージ姿のその男は、明らかに

“ここに住んでる”より“誰かをシメに来た”

…そんな風貌だ。


 


「神宮寺虎吉(じんぐうじ とらきち)。

ここら辺で便利屋やってる。

お前が次の大家、ハルか」


「はい……あの、さっきのあの人の…

“神”って、本気で?」


「マジだ。俺は元・虎の神。

今は日当制で仕事こなしてる。」


「日当制!?」


 


まだ信じがたい。というか信じたくない。


けれど、この後さらに続く登場人物たちが

その“ちょっとだけ特別”の意味を

叩き込んできた。


 


鋭い目元の長身青年・神河クロ(かみかわ くろ)

ほうきを片手に「元・川の神です」と名乗った。

無表情すぎて子どもには泣かれるらしい。

掃除が異常に上手い。

たぶん…俺より家事できる。


 


焦げ茶の髪にカチューシャが印象的な白鹿優 (しらかわ ゆう)は、喫茶店勤務の美人。

(本人曰く女として生きてるだけ、身体は男)


「そんじゃそこらの女より女らしいわよ」と、 俺の顔を見てウィンクしてきた。


 


最後に出てきたのは、制服姿の

ボーイッシュな女の子。

三神茶蘭(さがみ さらん)

「私のことは放っておいて」と

言い残し、スマホ片手に自室へ戻っていった。


…そのスマホの通知音が、某男性VTuberの

配信開始音と同じだった気がするのは…

俺の気のせいだろうか。


 


そう。ここは──


“元・神様たちが住んでいるアパート”だった。


 


でも不思議と、息苦しくはなかった。

賑やかで、騒がしくて、ちょっとヘンだけど。


その全部が、どこかあたたかい。


 


「……やるしかないか。俺が大家、だもんな」


 


玄関の鍵を締めながら、小さく息を吐いた。


新しい生活は、予想外だらけの

スタートを切った。


 


《To be continued…》

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