【第2話】朝ごはんは、信頼の第一歩
朝6時。
目覚ましのアラームが鳴るより前に、
目が覚めた。
……久しぶりに早起きなんかしたからか。
胸のあたりがそわそわする。
「朝ごはん……作るって、言っちゃったしな」
昨夜、リビングでジナンが
酔っぱらいながら泣きついてきたのだ。
「ハルの料理食べたーい!
食べたら幸せになれる気がするのぉぉ!」
隣で虎吉が「はいはい」と流してたのに、
なぜか俺は言ってしまった。
「……じゃあ、明日作ります」
言ってから気づいた。
これ、思ってた以上に…
“大家の責任”でかくないか?
けれど――料理くらいしか取り柄ないし。
うん、やるしかない!
◆ ◆ ◆
台所の小さな流し台で、
ちゃっちゃと朝食準備を始める。
メニューは焼き鮭にだし巻き卵、
味噌汁と炊きたてご飯。
冷蔵庫にあった野菜で浅漬けも添えた。
できるだけ胃に優しく、でも手は抜かない。
湯気が立ちのぼり、ふわっと部屋中に
香りが広がる。
「……この匂い、絶対起きるだろ。ふふっ」
案の定、リビングの戸が音を立てて開いた。
「……あっ、マジで作ってる!やったー!」
パジャマ姿のジナンが目をキラキラさせて
突撃してきた。
「味噌汁の匂いって、神の香りだよね!
いや!俺は神だけど!」
「わかったから座って。
ほら、ご飯先に食べてて」
続いて現れたのは、優雅な動きで
長椅子に腰かける白鹿優。
「うーん……香りがいい。
出汁がきいてるってやつね」
「おはようございます、優さん。
甘い系と出汁系、どっちの卵焼きが
好きですか?」
「……好きな方出してくれるあたり、100点ね。
気が利く男はモテるわよ?」
無言で座ったのは、神河クロ。
焼き鮭の皮をじっと見つめていたが
口に入れた瞬間、静かに頷いた。
「……焦げ目、ちょうどいい。
皮パリ、中ふっくら。良い」
「食レポやめてください、緊張するんで……」
その隣で茶蘭が、ボソッと。
「……卵焼き、うま」
スマホをいじりながらも、ご飯のおかわりは
きっちり要求してきた。
「後でいいから…この味、教えて」
「なんか、圧がすごい…」
最後に現れた虎吉は、寝癖のまま
箸を持ち上げて、米をひと口。
「……うまい」
以上、シンプルな感想。
「ハル、お前本当にこれ作ったの?…ええ」
「信じてなさ過ぎじゃないですか!?」
「いや、コンビニのバイトやるより
こっちの道で食っていけそうだなって」
「それは…ちょっと嬉しいですけど」
◆ ◆ ◆
そんなこんなで…
月詠荘の初めての“朝ごはん会”は
無事に終了した。
みんな無言になるくらいに食べてくれて、
おかわりまでしてくれて。
静かだったのに、賑やかだった。
不思議な朝。
皿を片づけながら、ふと気づく。
(……なんか、ここにちゃんと“居る”って
感じがするな)
食べてもらって、笑ってもらえて。
そこに“ありがとう”があることが、
思っていた以上に嬉しかった。
「明日も頼むな」
「えっ、いや俺バイトが――」
「弁当も期待してるから」
「だから、なんで広がってくんの
この仕事!!」
今日も月詠荘は、元神様と人間と
ご飯の匂いであふれている。
《To be continued…》
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