分からないけど大嫌いなアイツ

三玉亞実

第1話 嫌いなアイツ

 今日もお日様が気持ちいい。

 朝ヨーグルトをモリモリ食べて元気いっぱいの私、めるまはスキップしながら通学路を歩いていた。

 おやおや、あの特徴的な大きめのリボンを付けている女の子は、私の親友アリサちゃんだ。こっそり近づいて驚かせてやろう。

 忍びスタイルで背後まで接近し、揺れるポニーテールを掴んだ。

 すると、「うわぁ!」と猫みたいに飛び上がって、バッと振り返る。正体が私だと分かると、ハァと溜め息をついて、「めるま、このご時世にそれをやると私がイジメられていると勘違いされるよ」と、割と正論な説教を受けてしまった。

「ごめん、ごめん!昼休みの時に菓子パンおごるからさ!」

 そう謝ると、アリサちゃんはいつも通りの微笑みを見せて「一番高いやつね」とささやいた。


 とりとめもない事を喋っている内に学校に着いた。

 教室に着くまでの間、私は通り過ぎる人に元気よく「おはよう!」と挨拶を交わす。相手が先輩や後輩、同級生、先生でも同じようなテンションでするのが日課だ。

 アリサちゃんは「ほんと毎日やって疲れないのかね」と呆れた様子で見ていたが、私はむしろすればするほど元気になってくる。返してくれると嬉しいし、先生の場合だと褒めてもらえる事もある。今日も一日頑張ろうって気になる。

 ルンルン気分で歩いている内に『2-D』の表札が見えた。私の教室だ。

 顔なじみのあるクラスメイトに挨拶してドアを開けると──人が立っていた。男の子だった。

 お互いにアッと言うと、入れ替わるように出入りした。

 それを見たアリサちゃんが「ほんとに仲が悪いんだね」とアイツと私を交互に見ながら言った。

「だって、嫌いだもん」

 気づかれない程度にアッカンベーをした私は窓側の一番端の席にカバンを乱暴に置いた。


 アイツ(名前はジュンと言う)を最初に見た時から心の底からムカムカしていた。

 特にこれといって、私に悪口とか意地悪な事をされた経験はない。でも、顔を見るとなんかこう──頭がモヤモヤするような、イライラするような気にさせられるのだ。

 幸いにもアイツは教壇の手前の席にいるので、授業中は気にする事なく居眠りできるが、10分休みとかになるとアイツが他の男子の席に言って喋ったりしているので、私はなるべく視界に入らないように背を向けたりしながらアリサちゃんと話をする。

 昼休みはなるべくアイツが来なさそうな体育館裏でアリサちゃんとお弁当を食べたり、下校時刻になったらアイツより早く学校を出て帰る──そういった生活を新学期になってからずっと続いている。

 たまにアリサちゃんから「なんでそんなに彼を避けているの?」と聞かれる事があるが、自分でも分からないのだ。

 『立ち入り禁止』と書かれた看板を見ているかのような気分で、関わらないほうがいいけど気にはなる。

 でも、そういうふうにさせるのは何なのか、皆目検討がつかないのだ。

 まぁでも、いいや。嫌いな奴は嫌いなままでいいと思うし、無理やり普通に戻しても疲れるだけだ。

 このままでいい。そう、このままで──そんな事を考えていると、朝礼のチャイムが鳴った。

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