あざとい後輩の承認欲求を俺の欲求を満たせた時だけに感じるヤンデレにさせてしまった

しゆの

第1話

「先輩、今日も可愛い私といられてラッキーですね」

「はいはい」


 自室のベッドで横になりながらスマホに入っている漫画を読んでいた二宮亮太にのみやりょうたは、ノックもせずに部屋に入ってきた一つ下の後輩である花田桃華はなだもかのあざとい台詞に適当に返事をするしか出来なかった。


 妹の親友だからこの家に良く遊びに来る桃華は、あざとい台詞を言いながら亮太の部屋に入ってくる。


 あざといのだし、男子から「可愛い」などと言われてちやほやされて承認欲求を満たしたいだけなのだろう。


「もう……可愛い私と一緒の部屋にいれるのは先輩だけなんですから、もう少し嬉しくしてもいいと思うんですけど」


 不満そうに「むう……」と桃華は頬を膨らます。


 確かに可愛いのは認めるが、だからといって可愛い女の子からあざとく接しられて全ての男が嬉しいと思うわけではない。


 ただ、桃華は可愛くてあざとく接するから、高校一年生ながら学校一の美少女と言われるくらいに男子から圧倒的な人気がある。


 肩ほどまであるサラサラな桃色の髪は綺麗だし、長いまつ毛に包まれたアメジスト色の大きな瞳、シミ一つ見られない潤いのある乳白色の肌、手足や腰は細いのに胸は大きいため、モテない方がおかしいだろう。


 さらにはオフショルダーの白いトップス、ピンクのミニスカートという露出度の高い服を着ているから、男子の視線を釘付けにしている。


 八月になって暑いから露出が高くなるのは分かるが。


 ただ、だからといってビッチというわけではないらしく、未だに男性経験はないようだ。


 単にチヤホヤされたいだけで、そう簡単に身体を許すわけではないのだろう。


 ちやほやされたい人は特定の相手を作らないらしい。


「可愛いって言われたいのか? 他の人から言われ慣れてるだろ?」


 あざとい女の子に興味がないから再びスマホに視線を向ける。


 今は桃華の言葉より漫画の方が大事だ。


「そうですけど、先輩からは全然言われたことないです」


 可愛いと言われないのが不満なのか、桃華は再び頬を膨らます。


 可愛いと言ってないから言われてないのは当たり前だが、それが彼女には気に食わないのだろう。


「今日こそ先輩に可愛いって言わせてみせますよ」


 本気で何としても可愛いと言わせたいと思っていそうな笑みを浮かべた桃華は、何も躊躇いもなく亮太が横になっているベッドに入ってくる。


 中学時代からの知り合いで今まで手を出されたことがないからか、亮太に対しては警戒心を持っていないらしい。


「じゃあこれを飲んだら言ってあげる」


 スマホを置いてベッドから移動し、少し前に通販で購入した物を段ボールを開けて取り出す。


 ベッドに戻って桃華に渡した。


「これ何ですか? 栄養ドリンク?」


 受け取った桃華は、子瓶に入っているからかスポーツドリンクだと判断したようだ。


 でも、実際は栄養ドリンクではなく、普通の人の家はない物かもしれない。


「媚薬」

「……はい?」


 ドン引きしたかのように顔が引き攣ったため、聞き取れなくて聞き返したわけではないのだろう。


 いきなり男から媚薬を渡されたらドン引きするのは当たり前のことだ。


「だから媚薬。飲んだら可愛いって言ってあげる」

「そもそも何で媚薬なんて買ったんですか?」


 聞くのは当然なことだろう。


「スマホ弄ってたらたまたま広告に出てきた。流石の桃華も媚薬飲まそうとする男にはドン引きして近づかなくなるだろ」


 亮太の狙いはまさにそれだった。


 媚薬を飲ませようとする男に近づく女子はなかなかいないだろう。


 自分だけにあざとく接してくる女子は好きだが、他の人にもあざとくする女子は好きではない。


 妹と仲良くするのは問題ないものの、自分には近づかないでほしい。


 通販の媚薬なんて大抵偽物だろうし、飲むだけで桃華が発情することはないだろう。


「俺のタイプは好きな人に一途にで尽くしてくれるヤンデレだから。飲んでくれたら思わず言っちゃうかもね」


 恋人を作るとすれば一途なヤンデレであり、不特定多数の男子にあざとくする女子ではない。


 もし、桃華がヤンデレであったとすれば、既にこちらから告白している。


「先輩の好きな人はヤンデレ……ヤンデレって刺したりするんじゃないですか?」


 一般的な人にヤンデレは良い印象はないだろう。


「ヤンデレは好きな人のためなら何でもしてくれるいい人なんだよ」


 世間一般的にヤンデレというのは誤解されがちだが、本当に尽くしてくれる好きな人至上主義なのだ。


 恐らく自分の欲を満たすために男を弄ぶメンヘラと勘違いしているのだろう。


「そうなんですね。媚薬を飲んで私が発情して襲いかかっても先輩ならきちんと責任を取ってくれるでしょうし、それにあまり反応してくれないからムキになって可愛いと言わせようとしている内に私の方が……」


 頬を赤くしながら何が小声で呟いている桃華は、媚薬を飲むか迷っているようだ。


 可愛いと言われたいためだけに飲むのは変だが、彼女なりに何か考えがあるのかもしれない。


「飲むの? 飲まないの?」

「の、飲みます」


 そう言った桃華は子瓶の蓋を開けて飲み始めた。


「ちょっ……一気に飲む物じゃないよ」


 止めようとしても既に結構飲んでいるから遅かった。


 液体タイプの媚薬は飲み物と数的混ぜて飲むため、普通は一気に飲むものではない。


 一応調べてエナジードリンクと同じような成分、漢方などに使われる食材が使われているから副作用がほとんどないのは知っているが、それはあくまで適量を飲んだ場合だ。


 あまり飲み過ぎるのは良いわけがない。


「大丈夫?」


 流石に心配になったため、亮太は桃華の肩に手をやって尋ねる。


「大丈夫です。でも、美味しくはないですね」


 漢方薬にも使われる食材が入っているため、美味しくはないだろう。


 でも、きちんと飲んだので、よほど桃華は亮太に「可愛い」と言われたいようだ。


「媚薬って速効性なんですね。既に身体がポカポカしますよ」


 身体が温まる成分が入っているから仕方ないかもしれないが、にしても効果が出るのが早すぎる。


 恐らくはプラセボ効果もあるのだろう。


「きちんと飲んだんですから、可愛いって言ってくださいね?」


 媚薬を飲んでも桃華のあざとさは変わらなかった。


 ただ、きちんと飲んでくれたため、これから桃華に可愛いと言わなければならない。


「桃華ありがとう。可愛いよ」


 ギュっと抱きしめてから言う。


 口にしたからにはきちんと言うのが男の責任というものだ。


「ようやく先輩から可愛いって言ってくれました」


 ふふ、と笑みを浮かべた桃華の身体は、冷房が効いている部屋の中にいても温かかった。


「私はすぐに発情するのでしょうかね?」

「しないだろ。エロアニメみたいに発情する媚薬が簡単に手に入ったら悪用しほうだいだ」


 漢方の成分で身体が熱くなったりするから発情してると勘違いするだろうが、エロアニメやエロゲーみたいに我慢出来なくなるまで発情するわけではない。


「まあ、そうですよね。簡単に手に入ったら私は媚薬盛られて処女じゃなくなっているでしょうし」


 全ての男がそうじゃないが、手に入ったら悪用しようとする人は存在する。


「でも、今日で私は処女じゃなくなっちゃいますね。しっかりと抱きしめられて逃げられませんし、これから先輩に襲われちゃいますね」


 まるで揶揄うかのような声だし、抵抗する様子が見られないため、実際に襲われると思っていないだろう。


 こうやって抱きしめるのは今日が初めてだが、今まで二人きりには何回もあったし、襲う気があるならもうしている。


「まるで俺に抱かれるのを望んでるかのような台詞だ」


 抱きしめられても一切の抵抗がないため、抱かれてもいいかのようだ。


 そもそもあざとくても嫌いな人と部屋で二人きりにならないだそうし、媚薬と言われて飲むことすらないだろう。


 だから嫌われていないのは分かる。


「そうですね。先輩に可愛いと言わせたくて頑張ってた結果だと……好きになってしまいました。今の私が可愛いって言われたいのは先輩だけ、です。私がこうするのは先輩にだけです」


 背中に腕を回してきた桃華からの衝撃的な告白だった。


「……マジ?」


 あざとい後輩からの告白により、亮太は驚きを隠せなかった。


 不特定多数の人にあざとく接していると思っていた後輩が、実は違っていたからだ。


 いや、中学時代は他の人にしていたものの、今では自分だけ、と言った方が正しいのかもしれない。


「はい。だから先輩に可愛いと言ってもらえて本当に嬉しいです」


 グリグリ、と甘えるかのように自分の頬を亮太の胸に摩りつけてくる桃華は、まるで小動物みたいに可愛かった。


 あざとく接してきても今までこうしてくっついてきたことがないため、本当に好意はあるのだろう。


 ただ、ここまでされるといくら付き合っていないとはいえ、亮太の理性はゴリゴリ、と削られていく。


 異性にこんなにもくっつかれたのは初めてだからだ。


「何かチョロくない?」


 あざとく接しても反応が全然ないからムキになってたら惚れた……チョロいと思わずにいられない。


「チョロくないですよ。可愛い私に反応ない男子は先輩だけです。先輩みたいにアニメオタクの人だって私が話しかけると照れたり可愛いって言ってくれたりするんですよ」


 むう……、と頬を膨らます桃華はリスみたいだ。


 とりあえず桃華を小動物みたいと思って何とか理性を保つ。


 こんなにもくっつかれても理性を保てるラブコメやギャルゲーの主人公は凄いと思わずにもいられない。


 主人公にだけめちゃめちゃくっつくヒロインがいるが、決して襲うことなどないからだ。


「まあ、今日可愛いって言ってくれたから良しとします。にしても先輩の理性がいつまで保つか見物ですね」


 襲われたいらしく、桃華は身体の至る所を押しつけてくる。


 細いのに柔らかい身体は、本当に理性を殺しにかかっているかのようだ。


「私を先輩の欲求を満たせた時に幸せを感じるヤンデレにしてください」


 耳元で甘い声が聞こえた。


「もうヤンデレっぽいけどね」


 好きな人の欲求を満たしてあげられた時に幸せを感じるなど、ヤンデレならではの思考だ。


 ただ、ヤンデレ好きな亮太にとって、今の桃華は理想的な女性であることは間違いない。


 ストロベリーブランドというヨーロッパの一部の人に見られる髪色と可愛い容姿はアニメのキャラみたいだし、性格はヤンデレになってくれたからだ。


「もっともっと先輩好みになりたいんですよ」

「そうか」


 好きな人の好みになりたいというのは当たり前のことだろう。


「以前より桃華のこと好きになったな」

「顔を真っ赤にして先輩可愛い」

「お互い様だな」

「私は先輩に媚薬を飲まされたから赤くなってるだけです」


 それもあるかもしれないが、明らかに桃華も恥ずかしがっている。


 恥ずかしいのはこちらも同じだが。


「ほら、我慢せずに抱いていいんですよ? 可愛い私の処女を貰えるんですから、先輩は世界一の幸せ者ですね」

「本当にあざとい」

「それが私の武器ですから」


 笑みを浮かべてペロ、と舌を出す仕草が既にあざとい。


 可愛い女の子があざとく接すれば大抵の男は落ちるだろうし、あざとくするのは間違いではないだろう。


「でも、私がこうするのはもう先輩にだけ、です。他の男子のことはどうでも良くなってきました」


 好きな人至上主義のヤンデレで良くある思考であり、他の人のことはどうでもよくなる。


「じゃあ、その承認欲求を俺の欲求を満たせた時だけに感じるくらいのヤンデレになってくれ」

「はい」


 頷いた桃華とキスをし、もっとヤンデレにさせる決意をした。

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