#54 女心は複雑で難解




 アイナさんの車にアイナさんの運転でアパートに向かう。



「そういえば、仕事とかデートで車に乗って二人で出かけること多かったですけど、アイナさんの車に乗せて貰うのもアイナさんに運転して貰うのも、初めてですね」


「そうね。何だか変な感じがするわね。うふふ」


 軽くお喋りしながら、助手席からアイナさんの顔を眺める。

 アイナさんの横顔をしっかりと見るのは久しぶりだ。

 

 相変わらず、隙が無いほどの美人だ。

 キリリとした眉にまつ毛が長く切れ長の瞳。

 鼻筋はスッと通ってて、でも鼻の膨らみはぷっくりしててなんか食べたくなるんだよな。

 よく寝起きにペロペロ舐めてイタズラしたっけ。 

 薄い唇に丁寧に塗られたグロスは今日は少し明るめだろうか。

 以前は艶々のサラサラで手入れが行き届いた綺麗な髪だったが、今は短くなってミディアムショート。 

 でもそのお陰で以前のクールだった印象から随分と柔らかくなった様で、今のヘアスタイルも凄く似合ってる。


「なぁに?運転中だからあまりジロジロ見ないで頂戴。 恥ずかしいわ」


「アイナさん、髪型変えて印象変わりましたね。でも前よりも美人度増して、最初見た時ドキっとしちゃいました。今もちょっとドキドキしてますよ。 そだ、写メとっとこ」


 カシャ!カシャ!


「ちょ!ちょーっと待って頂戴!お化粧直させてよ!」


「いや、もう遅いっす。 あーやっぱ美人さんだなぁ。なんていうのかな、正しく俺の『彼女!』って感じですね。うん」


「前にもこんなやり取りあったわね?何時だったかしら?」


「さぁ?」


「うふふ」



 こうやって会うのは久しぶりだし年末から色々あったから、以前の様な態度で話せるか正直心配してて、実際に最初は余所余所しかったけど、少し解れてくると直ぐにいつも通りに戻ってくれた。


 今日まで会うことも電話することも出来なかったけど、これからはもう良いよな。

 おばあ様にも早く入籍する様に言われてるし、もう誰にも遠慮することは無いよな。





 アパートに着いて部屋の前でカバンから玄関の鍵を取り出そうとすると、アイナさんが玄関の鍵を開けて扉を開いた。


「あれ?なんでアイナさんも鍵持ってるの?」


「パパから聞いてないの?私がお部屋の管理任されてるのよ? っていうか、わたしが今ココに住んでるのよ?」


「え?そうなんですか?」


「総務にアパートの家賃の負担の相談してたでしょ? それで結局ウチが負担することにしたのよ」


「へ?副社長が負担してるんですか?」


「そういうことね。それでね、留守の間は私がここに住むって言って、強引に鍵貰ったのよ。これで私も念願の一人暮らしよ」


「へ~、っていうか、ココ俺んち!俺の許可とか無しですか!」


「細かいことはいいじゃない。どうせもうすぐ入籍するんだし」


「まぁそうですけど」


「ほら、中に入りましょ」




 お互い考えてることは一緒だったようで、玄関に入った途端二人ともスイッチオンで、靴も脱がずに抱き合ってキスした。

 舌をねじ込むように激しく絡ませ、アイナさんは「ムフームフー」と鼻息が荒くなっていた。 俺もすげぇ興奮していた。


 デロデログチョグチョとよだれの交換を5~6分ほどしてから唇を離す。



「ワタル君、私もう我慢できないわ。このままここでしましょ」ムフームフー


 玄関で鼻息荒く発情したアイナさんは、その場でスカートを降ろしてパンストとショーツを脱ぎ棄てた。 俺もベルトを緩めてスラックスを脱ぐ。


 なんか前にもこんなことあったな・・・、   って!クリスマスイブ!


「思い出したぞこの野郎!イブの逆レイプの中田氏セックス!」


「急にどうしたのよ。ワタル君も早く脱ぎなさいよぉ」ムフームフー


「おいコラ、エッチより先に聞きたいことがあるんですけど!」


「何よもう後にしてちょーだい。私はいつでも準備オッケーよ♡ 早くきてぇ♡」


 アイナさんはとろけた顔でそう言い、丸出しのヒップを俺の下半身にスリスリした。


 3ヶ月ぶりに俺の大好きな白くてプリプリの美尻が目の前に。


 ぐぬぬぬぬ

 たまらん。


 結局我慢出来ずにそのまま玄関でゴムも付けずにしてしまった。



 * * *



 3ヶ月ぶりのセックスは二人とも無我夢中で、お互い着ていたシャツが汗と体液でベトベトになるまで激しく交わり、ヘトヘトになるころにはリビングのソファーで抱き合ってて、二人とも激しく呼吸を繰り返していた。


「ゼェハァゼェハァ、やっぱり本物のワタル君の匂い、最高よ、ゼェハァゼェハァ」


「変態なのは、相変わらずですね。ゼェハァゼェハァ」


 アイナさんは今ここに住んでいると言ってたから、多分、俺のベッドの匂いとでも比べているのだろう。



 そんなことよりも、イブの話だ。

 ソファーにもたれアイナさんを抱き寄せて、ゆっくりと息を整えながら問いかけた。


「クリスマスイブの夜、あれは何だったんですか?いきなり来てセックスだけしたら直ぐ帰っちゃって。しかも避妊しないからそのまま出しちゃったじゃないですか。 まさか子供作って無理矢理結婚認めさせようとか企んでたんですか?」


「最初はそんなつもりは無かったのだけど・・・」


 腕の中でばつの悪そうな表情で俺を見上げるように答えるアイナさん。


「じゃあ何だったんですか?」


「だってぇ・・・寂しかったんだもん」


 アイナさんは拗ねた表情でプイっと顔を背けた。


「その割には会社じゃ冷たかったですよね?」


「だからよ。 ワタル君が異動することになって、本当は離れたくないし凄く悲しいけど、私が決めたことだし、悲しいのとか顔に出したらダメだって思って無理に表情作って冷たくしたりしてて。 1週間くらいはワタル君も熊本行ってたし顔見なければ何とか我慢出来てたけど、でもイブの日は、前から色々デートのこと考えてて本当だったら夜は二人でイチャイチャ過ごすはずだったのに、異動のせいでそれどころじゃなくなっちゃって、でもたまたまイブの日ワタル君が熊本から一時的に戻ってるの知って、そしたら凄く会いたくなって衝動的に会いに行っちゃって、顔見たら「もう次はいつ会えるかわからないんだ」って思ったら我慢出来なくなって押し倒しちゃったの」


 普段はキリリと表情を作っているアイナさんが、自信無さげな表情で話してて、本音を語ってくれてるのが分かる。この人は嘘が付けない人だしな。


 ということは、何かを企んでたとかそういうことではなくて、無理して冷たくしてたけど、結局寂しくて欲求不満で発作的だったってことか。 元々欲望に忠実な人だし、我慢するのも相当辛かったのかもしれないな。


「それで、押し倒したら後に引けなくなってズボン脱がして久しぶりにワタル君の匂い嗅いだら頭クラクラして。だってあの時までは毎週沢山エッチしてたでしょ? してる最中も「このままずっと続けたい!」って思って「赤ちゃん出来てもいいかな、ワタル君との子供だもん、欲しいな」って思ってしまって、それにワタル君にも「冷たくしてても、アナタの子供が欲しいくらい私は愛してるんだよ」って分かって欲しくて。でも終わって冷静になると急に罪悪感凄くて、逃げちゃったの」


「だったらその気持ちを口に出して言えばいいじゃないですか。そんなこと考えてたなんて全然分かりませんでしたよ。むしろ、何考えているのか分からなくて、怖かったんですから」


「そんなの無理よ。恥ずかしいし重い女だって思われるし、やっぱり九州行かないとか言われたら困るし」


「いや、重い女とか付き合う前からそうじゃないですか、今更ですよ。 それに、俺の脱ぎたてパンツとか靴下の匂い嗅いでヨダレ垂らして喜んでる人が今更恥ずかしいとか意味不明ですよ」


「匂い嗅いだらダメだって言うの!!! だいたいワタル君は細かい事を気にし過ぎよ!いいじゃないのよもう」


「でも、子供出来てたらお説教どころじゃありませんよ? っていうか、まさか本当に妊娠してるとか!?」


「妊娠はしてなかったわ。 1月に入って生理来た時は少しだけ泣いちゃったのよ?」


「そんなに子供欲しかったんですか・・・」


「あの頃は寂しくて辛かったから仕方ないじゃない。 今は落ち着いてるわ」


 なんだか頭が痛くなってきた。

 でも、アイナさんもそれだけ精神的に追い込まれてたってことなんだろうな。


 いまいち女性の気持ちは理解しがたいけど、今になってでも正直に話してくれてるし、寂しくて辛かったっていう気持ちなら同じ気持ちだった俺が一番分かってるしな。



「既にさっき避妊せずにしちゃったから偉そうなこと言えませんけど、しばらくはキチンと避妊しましょうね?」


「分かってるわよ。でも、久しぶりだったし凄く気持ちよかったし、今夜はまだまだするわよね? 私、まだ全然足りないわよ?」


 照れ隠しに口を尖らせスネた顔のままそう言うアイナさん。

 スネた顔が超可愛いけど、流石に今日は疲れてるから休みたい・・・



 結局このあと寝るまで、お喋りしてるよりも交わってる時間のが長かった様な気がする。




 朝起きると、既にアイナさんは着替えもメイクも済ませ朝食も用意してくれていて、以前の様にダイニングのテーブルに二人で並んでくっ付きながら食べた。 熊本での一人生活が続いたせいか、アイナさんの仕事用のスーツの上からエプロンを身に着けた姿を見ていると、「結婚したら毎日こんな朝を迎えるのか」と幸せな気持ちにさせてくれた。


 


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