#52 使い捨ての駒の意地
「それで、お前たちはどう責任を取るんだ?」(会長)
え?まだ続くの?
「二人の不祥事に関しましては、社長、副社長の6カ月の減給処分、専務の3カ月の減給処分とします。 また、荒川所長に対しての不利益な人事に関しましては、副社長の常務への降格、山名課長の3カ月の減給処分とします」(社長)
「ちょ、ちょっと待って下さい!なんでそうなるんですか!俺は不利益だなんて思ってませんし、会社都合での人事なんてよくある話です!それなのにどうしてこんなことで副社長と課長が処分を受けなくてはいけないんですか!」(俺)
「荒川君、そう言って貰えるのはとても有難いが、これは最初から決めていた事なんだ。君の九州営業所への異動を山名課長と決めた時から、この事へのケジメを君だけじゃなく全社員に対して後日キッチリ示すべきだと。君へ掛けた迷惑やその後の君の功績を考えたら、これでも足らないくらいなんだ」(副社長)
「異動に関しては俺は納得しています。それに他の社員に対してだって、結果を見れば経営戦略的な人事だったと理解して貰えるはずです。それだけの実績を俺の九州営業所は出しているつもりです」(俺)
「荒川所長、これは役員会の総意でもあるんだ。 君一人の意見で覆せる物ではないんだ」(社長)
それでも納得出来ない。
確かに左遷された当初は辛かったし悔しかった。
でも、今はそんなことは微塵も考えていない。
「これで良かったんだ」とすら思う。
二人は俺を守ってくれたんだ。
身内よりも『使い捨ての駒』の俺を優先してくれたんだ。
しかも最初から処罰を受ける覚悟で人事を執行したんだ。
それなのに俺がこんな処罰を認めてしまえば、俺は義理を欠くことになる。
それは俺の営業マンとしての矜持が許さない。
俺の我儘なのは分かってる。
でもココが、荒川ワタルの意地を張る時だ。
俺は一歩も引かんぞ。
俺はそんなにヤワじゃない!
「副社長たちのお考えはよく分かりました。 ですがやはり納得は出来ません。 私はこれまで山霧堂に人一倍貢献してきたと自負しています。どんなに会社の都合に振り回されようとも、自分は『使い捨ての駒』なんだと言い聞かせて全て受け入れ必死に噛り付いて頑張ってきました。 でも、そんな私を評価して下さりお声をかけて下さる同業他社さんも、これまでいくつかありました」(俺)
「なに!?」(社長)
「ウソだろ・・・」(専務)
「これ以上経営者並びに会社オーナーの都合で振り回すというのでしたら、見切りを付けさせて頂きます。 私への人事に対する処罰をお二人に下すというのなら、ソレをお覚悟の上でご判断下さい」(俺)
こうなったら全面戦争だ。
使い捨ての駒にだって意地はあるんだ。
会長だろうがおばあ様だろうが社長だろうが副社長だろうが、まとめて掛かってきやがれ。
俺が一人で相手してやる。
「ちょっとワタル君!」(アイナ)
「アイナさん、これは俺のプライドの問題です。 ある大手の役員の方が俺に「荒川君の営業マンとしての本質はその義理堅さだ」って仰ってくれたことがあったんです。お二人は俺にとって恩人なんです。この処罰は俺が大事にしてきた義理を欠いた物です。認めることは俺の営業マンとしての矜持が許せません」(俺)
「でも・・・」(アイナ)
それに、これはアイナさんへの誓いでもあるんだ。
アイナさんやお父さんである副社長への義理を欠いて、自分の気持ちに納得出来ないままではアイナさんと結婚は出来ない。
俺の覚悟はそんなに軽くはないんだ。
「もう勝負は着いてるでしょ。 山霧堂にとって荒川さんを失うということがどれ程の損失か、ココにいるみんな、よく分かってるのでしょ? ココは有難く荒川さんの気持ちを尊重しましょ」(おばあ様)
「うむ、そうだな。我々の負けだな」(会長)
「わかりました。 副社長の降格処分と山名課長の減給処分は、撤回とします」(社長)
「ありがとうございます!」(俺)
ふぅ~
何とか勝てた。
取って置きのカード、切っちゃったな。
しっかし緊張したぁ
汗で背中がビチョビチョだ。
でも折れてくれて、マジ助かったぁ~
辞めたきゃ好きにしろ!とか言われたら、マジでどうしようかと思ったぜ。
「はいはい、お仕事の話はこれくらいにしましょ! お昼がまだでしょ?鰻を用意してるからみんなでお食事にしましょ!」(おばあ様)
そういえば朝から何も食べてないな。
安心したら急に腹減ってきた。
お昼に鰻重か。
社長と副社長は用事があるからと言って会社に戻り、専務とアイナさんと俺が残ったので、会長夫妻とマナミさんにそのお子さん二人の計8人で食事をすることになり、俺は専務に言われて座敷にテーブルを並べる作業を手伝い、アイナさんはマナミさんと食事の準備をしている為に話すことが出来ず、更に食事が始まっても俺の隣に座った専務が煩く話しかけてくるし、アイナさんもマナミさんのお子さん達とお喋りしてて、会話をすることが出来なかった。
マジ専務うぜぇ。相変わらず俺の肩バンバン叩くし、空気読んでさっさと会社に戻れよ。
食事が終わり片付けも済むと、ようやく専務は会社に戻り、アイナさんも会社の戻ろうとしたところで、俺とアイナさんがおばあ様の自室に呼ばれた。
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