#15 課長の甘え
副社長との密談から1カ月ほど経過した。
副社長に頼まれているからという訳ではないが、そろそろ課長の尻を叩くつもりで業務のテコ入れをすることにした。
ツイッターの方では、課長が地道につぶやき続けているお陰かフォロワー数は徐々に増えつつあるが、それに対して動画の公式チャンネルの方は、ぱっとしないままなのだ。
色々企画を考えて来たが、俺が企画した『課長の大喰い対決』に関しては、テスト動画の1回きりで終わってしまっていて、対決自体は1度もやらないままである。その理由は、「よく考えたら、毎回大喰いしてたら私、確実に太るわよね?」と課長が気付いてしまったから。その為、大喰い企画は封印されてしまい、現時点で公開されている動画は会社紹介とカタログ的な商品紹介の2本のみの状況だ。
ということで、現状手を付けないといけないのは、公開動画のレパートリーを増やすことだろう。
まずは『山霧堂がどんな会社なのか』を知ってもらう為の動画を今の2本から増やしたい。 話題性を狙った奇をてらったような物は来期からにして、今期は堅実な動画制作を進めて社内外に公式チャンネルの取り組みへの積極性をアピールしつつ、動画制作のノウハウを積み上げて行くことに専念していこう。
「課長、公式チャンネルの今後の方針を見直したいんですけど、今からミーティング出来ますか?」
「今ツイッターで呟いているところだから、ちょっと待って頂戴。 ん-っと、「今日も暑くなりそうです。こんな日には冷たいビールで一杯やりたいですね。あと、山霧堂の抹茶カステラも忘れないで」っと。オッケーよ。ミーティング始めましょう」
「課長のツイート、今日も絶好調っすね」
のび太も煽てりゃ木に登る。
「ふふふ、私のツイートも中々でしょ? さり気なく商品アピールするのがコツなのよ」
「全然さり気なくないですけどね。 とりあえずイイネしておきましたけど」
「荒川君ってホント細かいこと気にするわよね。 それより公式チャンネルのことでしょ?私もちょっと煮詰まってたのよね」
「そうです。 とりあえずでスタートしちゃった感じだったので、イマイチぱっとしてないじゃないですか。 それでキチンと今後の方針とスケジュールを決めておきたいと思いまして」
「そうね。スケジュール決まってた方のが色々都合良さそうよね」
「ええ、むしろ今まで何も無しで適当過ぎました。 それで、今後の方針と仮のスケジュールを組んでみたんで、コレを軸に相談しましょう」
「相変わらず手際が良いわね。見せて頂戴」
「はいどうぞ。 まずは方針ですが、今期は山霧堂の会社や商品を紹介する堅実な動画作りを進めて、アーカイブのレパートリーを増やしていくことです。 これは、動画のレパートリーを増やすことで会社や商品を知って貰うだけじゃなく、公式チャンネルを真面目に取り組んでて今後も積極的に動画公開を継続していくことを社内外にアピールする目的もあります」
「なるほど。顧客だけじゃなくて、社内に対しても「営業企画室はちゃんと仕事してますよ」っていうアピールなのね」
「そういうことです。 二人だけで事務所に篭ってて、他部署から見たら何やってるのか分からないですからね。特に課長は社長の親戚で副社長の娘さんですから、遊んでるなんて思われたら今まで以上に風当りが強くなりますよ」
「そ、それは不味いわね。 なんとかして頂戴、荒川君」
(助けてドラえもん)ってのび太くんの声で脳内再生された。
「当面の方針としましては、先ほど言いました様に公開動画の数を増やすことと、それを社内外にアピールすることです。 社内には業務連絡書などを使って各部署に「再生回数稼ぎたいので積極的にみなさん見て下さいね」とでもお願いすれば、アピールにはなるでしょう。 将来的には社内で企画のアイデアを募集しても良いかもしれません。社外に対しては、ツイッターでの宣伝や、予定しているアンケートにツイッターや公式チャンネルのURLを記載する予定ですので、そういった所から地道に広げて行くしか無いでしょうね」」
「完璧だわ。荒川君、アナタ天才ね。 これで私達が遊んでるとは思われないわね」
「課長、いくらなんでもその発言は、情けなさ過ぎますよ。 管理職なんですからもうちょっとビシっと決めて下さいよ。容姿だけはバリキャリなんですから、仕事も堂々としてくださいよ」
「そんなこと言っても、そう簡単なことじゃないのよ。 私だって営業企画室を始めた当初は「がんばるぞ!」って気合入ってたのよ? でもいざ始めてみると、何すれば良いのか分からなくて、戸惑うコトが多いのよ」
おそらく3課時代はこんなことを同僚に零すこと等なかっただろうが、俺に対しては気を許しているのかちょくちょくこういう愚痴みたいなことを言い出す。 そういうところに親近感を感じるのもあるが、だからと言ってこのままでいいってことは無いだろう。
課長は、根は真面目な性格だし、責任感だって無い訳じゃない。
問題はのは、自主性の欠如であり、それは「何をしたいか」「どうなりたいか」という熱意の欠如、そして甘えであるとも言える。
「課長、前にご自分で言ってたじゃないですか。仕事は自分で可能性を広げていく物だって。何をするかは自分で探したり作ったりするんですよ」
「そうなんだけど、そこが難しいのよ」
公式チャンネルの打ち合わせの最中だったが、良い機会なので、真面目な話をすることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます