ギャルとオタクとカラオケボックス
夏川冬道
ギャルとオタクとカラオケボックス
――今日は厄日だ。
大田卓也は心の中で毒づいた。よりによってクラスメイトのギャル、留川アルルと文化祭実行委員を任される羽目になったからだ。卓也とアルルは今までほとんど会話する機会がなかった。さらにアルルは何を考えているのかがよくわからなく、どのように会話をすればいいのかわからなかった。卓也は滅茶苦茶気まずかった。しかし、アルルは卓也の心情のことなどお構いなしだった。
「オータくん。放課後、カラオケにいかない?」
「カラオケ? そんなことをしている暇ないでしょ」
「文化祭に向けての作戦会議! コーナーで差をつけるんだよ!」
卓也はアルルの押しの強さに困惑した。
――いや、今までほとんど会話をしたことがないクラスメイトとカラオケに行くってすごく気まずくならないのか? 俺はすごく気まずいぞ。
思わずツッコミを入れてしまう。
「今、知らない人と二人でカラオケで行くのは気恥ずかしいと思っているっしょ? アタシはオータくんのことをもっと知りたいと思ってカラオケボックスを企画したのになー」
「ぐぬぬ」
アルルは上目遣いで卓也のことを見つめた。卓也の脳内に罪悪感が突き刺さる!
「わかったわかった……一緒にカラオケに行くから!」
「やったー、一緒にカラオケだーっ!」
泣いたカラスがもう笑う。あれとあれという間に卓也とアルルはカラオケに行くことになったのだ。
◆◆◆◆◆
カラオケボックス「たぬきねこ」小さな雑居ビルの一角にあるチェーン店に卓也とアルルは来ていた。中の個室で二人きりでどこか居心地が悪い。卓也が頼んだコーラも心なしか炭酸が薄く感じた。
「オータくん、何歌うの?先に決めていーよ?」
アルルは人懐っこい笑顔でデンモクを卓也に差し出した。卓也は面倒くさそうな表情でデンモクを受け取った。
――まぁ、無難な曲にしようか。
卓也は無難なヒット曲を入力してカラオケに送信した。無難なヒット曲のイントロが流れる。卓也はその無難なヒット曲をしめやかに歌った。卓也が歌っている間にアルルはフライドポテトを注文していた。最近のデンモクはマルチツール化しているようだ。
「ふぅ……」
1曲歌い終えて卓也は安堵の表情でマイクを置いた。
「オータくん、すごい熱唱だったね。今度はアタシの番ね」
そう言うとデンモクを素早く入力してカラオケに送信する。すると大体卓也の両親世代の青春時代にヒットした曲が流れてきた。
「一緒にデュエットしよ?」
そう言ってアルルは卓也に二本目のマイクを渡してきた。卓也は否応なくマイクを受け取った。
そして二人は仲良く歌いだした。ギャルとオタクのデュエットだ。歌っているうちに卓也のテンションが上がってきた。歌声も心なしか1曲目より熱量の高さを感じていた。
「オータくん、デュエットソング楽しかったっしょ」
アルルはニコニコと卓也に笑いかけた。
「まぁ……楽しかったことは楽しかったよ」
卓也は何となくアルルに視線を合わせずに感想を述べた。なんとなく気恥ずかしかったからだ。
照れ隠しにデンモクを手に取り楽曲をカラオケに送信した。すると子供時代に聞いたアニメソングのイントロが流れてきた。
「オータくん! アタシこの曲を知ってる! 歌ってもいい?」
卓也は無言でうなずいた。卓也とアルルはアニメソングを熱唱した! 二人の表情は朗らかで楽しそうだった。
その時! カラオケボックスの個室にドアがノックして店員がフライドポテトを持って現れた。しかもその店員は卓也とアルルのクラスメイトの上杉龍也だった。
「熱唱中のところすみませんがフライドポテトです……って大田と留川さん!?」
龍也は気まずそうな表情を見せた。卓也は思わず赤面した。
「上杉くん、アタシたち、カラオケボックスで文化祭に向けて親睦を深めているの!」
そう言ってアルルは卓也に向けてウインクした!
「……ごゆっくり」
そう言って龍也は個室の外にはけていった。
――今日はやっぱり厄日だ!
卓也の心の中の叫びがカラオケボックスの中に響き渡った。
ギャルとオタクとカラオケボックス 夏川冬道 @orangesodafloat
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