怒り虫ガルル

@mody

第1話 怒り虫ガルル

あるいっとき、林に怒りんぼの虫ガルルがやって来ました。

彼はいつもプンプンプンプン、時にはガル、ガルと大きな声を出して周りの生き物をおどかして怒っていましたので、林の皆からすぐに嫌われました。

ウサギのラッキーちゃんが迎えに来て、ガルルが居なくなると林はいつもの平和に戻りました。


これは怒りんぼのガルルが林にやって来る事になったいきさつのお話しです。

ガルルは林に来たとき昆虫の姿をしておりましたが、本当は人間の男の子だったのです。

彼のお父さんとお母さんは、ガルルが産まれるとたいそう喜んで大切に育てる決心をしたのです。

ガルルは優しくて元気な男の子でしたが、ある時お父さんとお母さんはこんな相談をしました。

「この子はとても良い子だ。将来慢心したり、才能を妬まれて苦しまない様に、普通の子として育てようではないか」

「そうしましょう」

夫婦はそうして、ガルルの才能が開花しないようしないよう注意して育てる事にしたのです。

「お前は私達の子だから大したものにはなれないよ」

といつも言い聞かせました。

お客さんが家に来たときには、

「この子は全く人見知りがはげしくて」

等と言って人から遠ざけたので、元気一杯だったはずのガルルはすっかり大人しくて自分の意見の言えない子供に成長してゆきました。

ガルルが学校に行くようになり勉強が始まると、お父さんとお母さんは、

「よく先生の言うことを聞いて、よく勉強して立派な人に成りなさい」

と言い始めました。

驚いたガルルはすっかり呆れて少し反抗するようになりました。

ガルルが反抗的になるとお父さんは怒って彼をぶつようになり、人に不信感を持つようになったガルルが学校でビクビクしていると、今度は力の強い友達が面白がってガルルを打つ様になりました。

ガルルは学校に行かなくなり、部屋に閉じこもりました。

元々ガルルの周りに壁を張り巡らせて閉じ込めたのはお父さんとお母さんでしたが、それに気付いていなかったので、部屋から出てくる様に大きな声を出していましたので、ガルルは、

「うるさいな!」

と言って余計に意地を張ってしまいました。


人間一人ひとりは精霊達によって見守られています。

そのことを皆知らないので、精霊達はとても困っているのです。

助けを求めてくれたら助けられるのに、と思いつつ手をこまねいて見ている事しか出来ないのです。

ガルルの精霊達は決心しました。

せめてこの子を守る身体を与えてあげようと。


ガルルの身体は彼の心の様にだんだん小さく固く黒くなってゆき、しまいには一匹の昆虫になってしまいました。

見える事は見えましたが、耳がとても小さかったのでほとんど聞くことが出来なくなりました。

お父さんは、いくら声を張り上げてもガルルが出てこないので、仕方なくドアを蹴破って中に入りましたが、そこにガルルの姿はありませんでした。

お父さんはガッカリして何気なく部屋の窓を開けました。

すると、部屋のどこからか一匹のカブトムシが羽ばたいて外に飛んで行ってしまいました。

「ガルル!」

お父さんは慌ててカブトムシに向って叫びましたが、ガルルには何も聞こえませんでした。

お父さんはお母さんに言いました。

「大変だ! ガルルが虫になって外に飛んで行ってしまった!」

お母さんは、お父さんの気がおかしくなってしまったと思い、彼を説得して国の有名な心の博士を二人で訪ねる事になりました。


ガルルは、飛んでいる自分を感じて虫になった事を知り、近所の林に逃げ込む事にしました。

彼が近づくとアリや小動物が逃げてゆきました。

ネコが彼を叩きましたが固くてネコはたちうち出来ませんでした。

こうして嫌われ者ガルルの林での生活が始まりました。


さて、困ったガルルのお父さんとお母さんは博士の所へゆき成り行きを説明しますと、博士がこんなことを聞いて来ました。

「ペットを飼っていましたか?」

「はい、ウサギを飼っていてガルルがとても大切にしていましたが、去年亡くなってしまいました」

心の博士は沢山勉強して瞑想して、精霊と多少の会話をすることが出来ましたので、ガルルの大切にしていたウサギさんは博士にメッセージを伝える事が出来ました。


「お父さんお母さん、私の言うことをして下さい」

「はい」

「ラッキーが助けてくれますよ」

お父さんとお母さんは、博士がウサギの名前を知っていたので驚きました。

「今ガルル君は虫になって林の中に居て、皆に嫌われて寂しくしています。ラッキーが生きていて虫になっているガルル君に出会う所を想像して下さい」

博士とラッキーとお父さんお母さんの想像の力を合わせて、ガルルに魔法を展開します。

「ラッキーはガルル君にこう言います。「お久しぶりね、ガルルさん。あなたが虫になってしまったと知ってビックリして来てみたの! どうしたの?」」

ガルルはラッキーの姿を見ると張り詰めていた心が解けて優しい気持ちになって、これまでのことを色々とラッキーに教えてくれました。

ガルルの話が終わる頃、博士はまたお父さんとお母さんに言いました。

「ではラッキーがこう言います。「お父さんとお母さんが君の心を閉じ込めようとしたことは、悪い気持ちからではなかったの、お父さんとお母さんはとっても反省しているから赦してあげて欲しいの、できるかしら?」」

「うん」

「私はいつも見てるから、幸せにね、ガルル」

「ラッキー!」


「これで終わりました。息子さんが家で待っていますよ。ラッキーちゃんにありがとうを忘れずに!」


お父さんとお母さんが家に帰り着くと、ちゃんと人間の姿をしたガルルが出迎えました。

3人はそれぞれ心のつかえが取れて抱き合いました。


それからお父さんとお母さんは、ガルルを自由でのびのびと育てる事にしました。

ガルルは勉強が好きになり、友達も沢山出来て毎日楽しく過ごしました。

ガルルは大人になると、あの心の博士に弟子入りして困った人達を沢山助けました。


あの日お父さんがガルルの部屋に飛び込んだ時、ガルルはビックリしてベッドの下に隠れていて夢を見ていたそうです。

ガルルはお父さんお母さんの自慢の息子です。


精霊のラッキーは今でもガルルを見守っています。


おしまい!


これはお父さんお母さんの為に書かれたお話しです。

子供に壁を与えないで下さいね。

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