奴隷商異世界を往く〜奴隷商人の娘に転生したんだけど、ホワイトに努めていたら奴隷みんなに慕われ過ぎて売れなくなったので、人材派遣サービスで一旗揚げようと思います〜
テケリ・リ
序章
第0話 人材派遣会社
「クハハハッ! よくぞ我が魔王城まで辿り着いたな、選ばれし〝勇者〟タテワキの一党よ!!」
「〝魔王〟バルタザールよ! 貴様の野望もこれまでだ! オレとオレの仲間達とで、貴様の命運を断ってみせる!!」
ここは剣と魔法の世界〝エウレーカ〟。人間、亜人、魔族、魔物が入り乱れ、血で血を洗い覇権を競う、命の価値の低い世界。
邪神教の狂信者の手により悠久の眠りから目覚めた魔王バルタザールは、人類を支配せんと配下と共に戦乱を巻き起こした。
対する人類側は、
両陣営が
彼我の距離が縮まり、世界の命運が懸かった運命の一戦が、今ここに――――
「あれ? お前ら、そっちに雇われてたのか?」
「そう言うアンタ達こそ、魔王に雇われてたのね?」
何故か足を止め、武器を下ろす魔王配下の四天王と勇者の一党。
「ぬっ!? どうした四天王達よ! 戦うのだ!!」
「みんな、一体どうしたんだ!?」
訝しむ勇者と魔王。
そんなそれぞれに、彼らの配下と仲間は振り返り口を開いた。
「すみません、魔王様。俺達、アイツらとは戦えません」
「ぬなっ!!??」
驚愕に目を見開く魔王。
「ごめんね、タテワキ君。私達も、彼らとは戦えないわ」
「え……!? ど、どうして!?」
開いた口が塞がらない勇者。
「どうしてって、なあ?」
「ねえ?」
何やらただならぬ雰囲気に陥った決戦の舞台。
そんな雰囲気を一刀両断するがごとく、魔王配下の四天王達と勇者の一党の面々は、口を揃えてこう言った。
「「「社則だから」」」
それだけを言い残し、四天王も勇者一党も、
後に残ったのは呆然と立ち尽くす勇者と、肩を怒りに震わせる魔王のみだ。
突然ハッと我に返った勇者が、懐から一枚の紙を取り出した。そこには、こう記されていた。
『社員同士による戦闘行為は、その一切を拒否させていただきます。そのような事態が発覚した場合はその時点で契約を終了とさせていただきますことを、承知するものである』
それは、ある商社と交わした契約書だった。
「むっ!? 勇者タテワキよ、その紙はもしや……?」
それを見た魔王が、
今だけは世界の命運も両者の因縁も脇へと追いやり、それを互いに見比べる勇者と魔王。
その紙は、勇者が持つ契約書と寸分違わず同じ物であった――――
◇
「いやぁー、まさか魔王軍と勇者パーティーと、どっちにも俺らが雇われてたとはなぁ」
「ホントよね。でもこれで良かったのかしら? 〝社長〟のことだから、きっとこれも想定内なんだろうけどさ」
黄昏に染まる街道を、つい先程までは敵対する勢力に属していた男女数名が、仲良く談笑しながら歩いていた。
種族も性別も、容姿も装備もバラバラな彼ら。そんな彼らの唯一の共通点といえば。
「いいんじゃねぇの? 〝お嬢〟の目に偽装は通じないし、全て知った上で契約したってんなら、案外こうやって毒気を抜くことが目的だったのかもだしな」
「それもそうよね。だいたいが派遣された兵力の私達が最高戦力って、どういうことだって話だしね」
「
「私達だって。勇者君に人望が無いのか、人類側にやる気が無いのか……。とにかく使えない奴らしかお供に居なかったからねぇ……」
彼らの装備の何処かしらか一箇所には、その所属を示す印が存在していた。それは、この世界でも有数の版図を有する帝国の、とある大商会の刻印である。
手広く手厚く人材を集め、依頼があれば優秀な人材を派遣し、どんな仕事をも完遂してみせるその商会。
戦闘員でも、職人でも、料理人でもなんでもござれと豊富な人材を抱え込み、貴族や皇帝ですらその人材達で助けた実績を持つ、
その名も、〝人材派遣会社〟ワーグナー商会。
「でもまあ、おかげでケガすることもなくさっさと帰れることになったし、〝お嬢〟様様だわな」
「ホントね。勇者君には悪いけど、会社でみんなと過ごしてる方がよっぽど楽しいしね。料理も美味しいし」
「あッ!! 料理で思い出したが、そういや〝あの日〟が近いんじゃねぇか!?」
「ハッ!? そういえばそうだったわ!! 月に一度の〝カレーの日〟まであと三日しか無いわ!?」
「こうしちゃ居られねぇ!! おうお前ら、急いで〝お嬢〟の居る本社へ帰るぞ!!」
「私達も急ぐわよ!! 〝社長〟手ずから作ったカレーライス……! 絶対逃す訳にはいかないわ!!」
片や魔王軍に雇われ、最高幹部である四天王として君臨していた戦士達が。片や勇者にその実力を見初められ、魔王討伐の旅の一党として同行していた戦士達が。
夕焼けに染まる街道を、我先に帰らんと駆け出していく。
目的は一つ。
彼らに〝お嬢〟と。〝社長〟と呼ばれ親しまれている、一人の少女の元へと帰還するためであった――――
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