第7話 大爆発

 大爆発が起きた。

 マントルが数百キロメートルの巨大な爆発を起こした。

 とうとう、予言されていた災厄が訪れた。

 体長が1キロメートルある地底トドが数百頭集まって、大爆発に次々とかみついた。地底トドが大爆発を食べる。

 チリトは、うまく大爆発をかわした。

 大爆発でマントルの流れが激しくなり、地底船の運転が難しくなる。

 地底トドが激しく動くと地球がぶっ壊れるんじゃないかと心配になる。

 チリトは、赤外線で岩盤を透過して、大爆発の映像を見た。

 この大爆発はいったい何なのか。地底でマントルが温度差によって爆発を起こしているだけではないのか。チリトは、大爆発の爆心地をよく赤外線で監視すると、そこには一体の巨大な地底トドがいた。大爆発を起こしているのは地底トドだ。

 大爆発を起こしているのは、あまりにも爆発を食べすぎた地底トドの体の崩壊だ。この大爆発は、地底トドの体が崩壊したから起きているのだ。地底トドから発生した大爆発を、他の地底トドは急いで食べている。

「この大爆発はいったい何なんだ、地底トドよ」

 チリトが岩盤音波で地底トドに話かけた。

「今、話しかけるな、人類よ」

 地底トドは、ばくん、ばくん、と爆発を食べている。数百体の地底トドが、ばくん、ばくん、と爆発を食べている。

「大爆発は、爆発の食べ方をまちがえた地底トドの病気だ」

 食事の休憩に地底トドが答えてくれた。

 大爆発は地底世界の災害のひとつだ。巻き込まれれば、たくさんの地底生物が死んでしまう。他の地底生物たちは、地底トドの病気で大爆発が起きていたことを知らずに、<種族越えの伝承>として、予言を伝えていたのだ。

 ここは、深さ2000キロメートルの地底だ。大爆発に対して、どのような破壊衝動がチリトとカスミに起きるのかを監視ロボが調査する。大爆発は大きな力の発生だ。それに二人が干渉すれば、地球を壊すことができる可能性もある。

 地球を壊すことができるのはカスミもだ。

 二人は、地上を滅ぼすことのできる数千発の核兵器より恐ろしい攻撃力を地底で持っていることになる。

 人生が嫌になったら、地球をぶっ壊して、気に入らない連中に復讐をするか。自分をバカにした連中を許せなくなって、地球をぶっ壊してしまうか。自分が不幸になることがわかったら、地球を壊してしまうか。

「わたしは気がついた」

 カスミが口を開く。

「何に気づいた」

「それはな。地底探査隊は、深く潜れば潜るほど、地球を破壊する強い力を手に入れることになるということだ。地底の深くにたどりつけば、たどりついただけ、強い破壊力を手に入れる。わたしたちは、地下2000キロメートルまで来て、かなり強い力を手に入れた。もっと地下へ行けば、もっと強い力を手に入れることになる」

 ふうむ、とチリトは考え込む。

「下へ行けば行っただけ、高温高圧の環境で生きる力を手にすることになる。だから、地底の深くへ潜れば潜るほど、強い力を動かすことができるようになるのは本当だ」

「地底トドもだ。地底トドだって、地底の下へ行けば行くほど、高温高圧に耐えられる強い力を手に入れる」

「おれとカスミと地底トドの破壊衝動を監視しないといけないのか」

「そんな面倒くさい監視は、わたしはしない」

「おれもだ」

 チリトは地底船で飲料を飲んで、休憩した。

 チリトとカスミは、大爆発を食べる地底トドを赤外線で観察した。

 地底探査隊の心に制御装置を付けるか。破壊衝動は誰もが持つものだ。地底に行けば行くほど破壊衝動が危険になるのなら、地底に行けば行くほど、地底探査隊の破壊衝動を制御しなければならない。

「誰が来ても安全な地底探査技術を確立しないとな」

 チリトはいった。

 地下へ行けば行くほど、地底生物が破壊衝動を抑圧しているということは、地底へ行けば行くほど、そこにある地底文明は慎重な性格を要求されることになる。地底の中心に居る生物は最も慎重な性格をしているのだろう。

 地底の中心から少し外れたところには、地底巻き貝が居ると地底トドがいっていた。地底巻き貝は地底で最も慎重な性格をしているのだろう。

 地底最深部の文明とはどんなものか、チリトは気になる。

「地底に居ると、おれより先に地上の人類が滅びるんじゃないかと心配になるよ」

 チリトがいった。

 外部の熱を生活エネルギーに利用できる地底に魅力はある。

 地底探査隊は、地底で見つかったすべての生物と和平交渉をしなければならない。

 人類が極限環境(北極、南極、深海、宇宙、地底)に進出するには、発見した生物種すべてと和平交渉をしなければならない。すべての生物種と和平交渉を行わなければならないという価値観にたどりついていない生物種は、未知の世界へ進出をすることは許されない。チリトたちも、地底へ進出するなら、出会うすべての生物種と和平交渉を行わなければならない。これは、未知の世界へ進出する高度知的生命体の常識なのだ。それは、冷静に考えれば、当然のことなのだ。

 チリトはすべての地底生物と和平交渉をしたといえるだろうか。

 チリトたちは大爆発を生きのびた。

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