第80話
ローランはいくつか屋台を回り、数種類の食べ物を購入して、アデレードと待ち合わせた場所に向かう。
彼は肉の串焼きを五本と小麦粉と吸入と砂糖を混ぜた生地を丸めて油で揚げて、砂糖をまぶした揚げドーナッツを二つ購入した。
大きく口を開けて食べざるを得ないようなものを彼女が食べるかどうかローランには判断出来なかった為、今回は外す。
待ち合せ場所に向かったローランはアデレードがいないことに困惑した。
彼女は飲み物だけを購入することになっており、いくつかの屋台を回らなければならなかったローランよりも早く待ち合わせ場所にいることが予想出来た為だ。
それでも長蛇の列が出来ていて、時間がかかっているということも考えられた為、ローランは待つことにした。
しかし、待てど彼女が戻る気配がない為、ローランは護衛と共に彼女が並んだ可能性のある飲み物の屋台に行ってみるが、彼女の姿はなかった。
「アデレードは事件に巻き込まれたのかもしれませんね。あなたはバーンズ伯爵家に戻り、伯爵夫妻への説明とアデレードを捜索する為の人手集めをお願いしてもよろしいですか? 捜索するにも人手が足りないと発見するまで時間がかかりますので。私はその間、聞き込みをして捜索の手掛かりになるようなものがないか探します」
「わかりました。私は至急伯爵邸に戻ります。馬貸しの店で馬を借りますので、三十分から四十分程度でまたこの街に戻れると思います」
「私も今いるこの場所から遠くへ離れるつもりはありませんが、万が一、私と上手く合流出来なかった場合は、私よりアデレードを探す方を優先して下さい」
ローランと護衛はアデレードの捜索に向け、動き出した。
「アデレード、無事でいて下さい……!」
ローランは祈るような気持ちで自分のやるべきことをする。
***
一方、その頃のアデレードは古ぼけた小さい小屋の中にいた。
小屋は長時間使われていなかったのか、中はあちこちに蜘蛛の巣があり、どことなく埃っぽい。
アデレードの手足は縄できつく縛られている。
(ここは一体何処……? それに頭がくらくらする……)
アデレードはローランと別れた後、飲み物を販売している屋台に行こうとした。
すると、一緒にいた護衛が懐から鋭利なナイフを取り出し、”刺されたくなかったら、大人しく私の言う通りにして下さい”とアデレードに突きつけてきた。
信頼していた護衛からナイフで脅されると思ってもいなかったアデレードは恐怖を感じ、抵抗もせず、屋台のある場所から裏路地に連れて行かれ、そこから馬車に乗せられた。
馬車の中で喉が渇いただろうからと護衛にジュースを差し出され、飲んだら気を失い、気づいたらここにいたという訳だ。
アデレードは小屋の中を観察するも、脱出出来そうな窓や入り口は見当たらない。
そうこうしていると、聞き覚えのある声が聞こえる。
「気分はどう~? アデレード。あんたのそんな無様な姿が見られるなんて嬉しいなぁ!」
「あなた、は……」
アデレードの目の前に現れたのはリリーだった。
痩せこけていてアデレードが知っている姿とは違うが、その瞳には狂気的な笑みが宿っている。
「ふふっ、良いざまね。あんたを守るはずの護衛が裏切ってこんなことをするなんて夢にも思っていなかったんでしょう?」
「あの護衛の方は今、どこに……?」
「アイツならもう既にここにはいない。アイツはあんたをここに連れて来るまでが仕事。アイツの病弱な妹を人質にとって言うことを聞かせていたの。アンタを裏切ったことでもう二度と伯爵家には戻れないだろうから、人質と一緒に解放した。今頃、妹とどこかに逃げているんじゃないの?」
(大切な家族を人質に取られていたのならこの状況も仕方ないですわね……。仕えている家の令嬢より自分の家族の方が大切だもの)
「そもそも何でこんなことを計画したのですか?」
「何で……? それはあんたが気に食わないからよ! あんたは伯爵家令嬢として大切に育てられ、わたしが欲しかった綺麗なドレスも宝石も何でも持っている。最初、ベンがあんたを捨ててわたしを選んだ時、わたしはあんたに勝ったんだと有頂天になった。でもそれは間違いだった。結局、わたしはベンの相手として認めてもらえなかった。そこからまたバーンズ伯爵家にお世話になろうとしたけれど、話も聞かず、門前払い。わたしは門前払いされたことに腹が立った。でも、そこであることを思いついたの。あんたを消して、わたしがあんたの居場所に座れば良いと」
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