第79話

「ローラン、行きますわよ」


「はい、アデレード」


 ローランはさっと左腕をアデレードに差し出し、アデレードは右手をローランと繋ぐ。


 二人は微笑みを浮かべた幸せそうな表情で、西門から東門の方向へまっすぐ伸びている大通りを進む。


 初々しい恋人同士という雰囲気で歩く二人に要らぬちょっかいを出してくる通りすがりの者はいなかった。



 大通りは最も人通りが多いので、露店を含め、商店がずらりと立ち並んでいる。


 何を取り扱っているのかは店によって異なっているが、どの店も客を熱心に呼び込んでいる。


 大通りは確かに人通りは多いが、人の目に入りやすい分、店に立ち寄ってもらえるチャンスは人があまり通らない細い路地にあるお店に比べると多い為、大通りに店舗を構え、商売するにあたり、店主が街に支払わなければならない土地代は高い。


 街に支払われた土地代は最終的にシャトロワが属するバーンズ伯爵領を治めるバーンズ伯爵の元へ集まるが、バーンズ伯爵が度々街を訪れて、必要に応じて街を整備するのにその集まったお金の一部が使われる。


 土地代は一括で大金を支払うのではなく、月々決められた金額を支払う仕組みになっているので、店主たちはこの土地代を支払う為に、皆、熱心に商売をしている。



「まずは、文房具を扱っているお店に行ってもよろしいですか?」


「いいですよ。私もちょうどインクが足りなくなってきているので購入したいです」


 アデレードの案内で二人は文房具を扱っているお店に向かう。


 この店は大通りに並んでいるお店ではなく、大通りから一本外れた道にあり、その上、外観が黒塗りであまり目立たない店だ。


 しかし、扱っている商品の品質は高い。

 


 到着した二人は早速ドアを押して、入店する。


「私は万年筆のペン軸とインク、学園で使う用のノートを見て来ますので、ローランも好きに見てお買い物して頂いて構いません」


「店内で別行動ですね。わかりました」


 アデレードは勝手知ったる店内を歩き回り、無事お目当ての商品を見つけ、購入する。


 一方ローランはどこに何が置いてあるのかわからないので、接客の為に店内に控えている店員の助力を得て、インクを購入する。



 それぞれ自分が買いたいものを購入したアデレードとローランは、店を出て、通りを歩きながらそろそろランチにしようという話になった。


「今日はせっかくですので屋台で何か買って食べましょうか。東西南北の中心にあたる場所で、食べ物の屋台が沢山集まっておりますの」


「それはいいですね。色々購入して食べましょう」



 幸い、二人が今歩いている地点から目的地までは目と鼻の先だ。


 到着した二人はあたりをぐるっと一周見渡し、ざっくりと何の屋台があるのか確認した。


 串に刺した肉をタレに付けて炭火で焼いた串焼きや、小麦粉と牛乳を混ぜて薄く焼いた生地に生クリームとフルーツを乗せてくるくると巻いたクレープ、縦に長いパンの中心に切れ込みを入れ、そこに焼きたてのソーセージを挟んだホットドッグ等ジャンルは様々だ。



 食べ物ばかりでなく、飲み物を提供している屋台もある。


 飲み物を提供している屋台はオレンジや林檎を絞ったフレッシュジュースの系統を扱う屋台と、麦を原料としたしゅわしゅわと発泡する黄金色のお酒やワインといった酒類を扱う屋台に分かれる。


 平民は紅茶を飲むような習慣はないので、お茶を提供している屋台はない。



「私は飲み物を買ってきますので、ローランは食べ物の方をお願いします。飲み物はオレンジジュースでよろしいですか?」


「オレンジジュースでお願いします。食べ物は私が選びますが、何か食べられなかったり、苦手なものはありますか?」


「香辛料をたっぷり使った料理は苦手ですわ。それ以外は特に食べられないものはありません」


「了解しました。では、購入したらここでまた待ち合せましょう」


「ええ」



 アデレードとローランはここで別行動をすることになった。


 護衛は二人いるので、アデレードとローラン、それぞれに一人ずつ就く。


 アデレードは言うまでもなく彼らの仕えるべきバーンズ伯爵家の令嬢だが、ローランも他家から来た大切な客人だ。


 客人に怪我を負わせるなどあってはならない。


 なので一人ずつ護衛することになった。



 ――しかし、これが大きな間違いだった。

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