第78話
今日はアデレードが楽しみにしていたローランの訪問日だ。
ローランは昼過ぎにバーンズ伯爵邸に到着する。
アデレードとローランは伯爵邸の応接室で再会を喜び合う。
「王都で会って以来ですから、少しお久しぶりですね。またアデレードの顔をこうして見れて嬉しいです」
ローランはその整った
「ご機嫌よう。確かに会うのは少し久々ですが、手紙のやり取りはずっとしていたから、そんなに久々な感じはしませんわね。それでも私もローランに会えて嬉しいですわ」
「今日は、アデレードがバーンズ伯爵領の中を街を案内して下さるとのことで楽しみにして来ました」
「あまり多大な期待を寄せられても困りますが、一応、街の中で普段私が行くような場所を中心に案内しようと思っていますの。いつもこの街に行く時はお忍びですので、とりあえずまず着替えましょう。明らかに貴族という出で立ちで行くとかなり周囲から浮きますし、要らぬ厄介事や揉め事に巻き込まれる可能性があります」
明らかに裕福な金持ちだと分かるような恰好で行くと、身代金目的の誘拐やカツアゲ等のターゲットになりやすい。
世の中には善人ばかりではなく、良からぬことを考える
用心するに越したことはない。
「私もお忍びでルグラン侯爵領の街中に行くことがありますので、わかります。お忍びで出掛ける用の服は持って来ていますので、着替える場所だけ提供して頂ければ後は自分でどうにか出来ます。裕福な平民に見える服装という感じで大丈夫ですか?」
「裕福な平民が着るような服装で大丈夫ですわ。実際に我が家と取引のある商人の息子や娘も街中には普通にいらっしゃいますので。着替える場所は客間の一室をお貸ししますわ。メイドに案内させますので、彼女について行って下さいまし」
この場にいたメイドがさっと一歩進み出て、ローランを客間まで案内する。
アデレードはローランを出迎えた時点で、もう既にお忍びで出掛ける為の格好に着替えている。
彼女はボルドー色が基調になっているチェック柄のワンピースにキャラメル色のロングコートを羽織っている。
そのワンピースの首元はボウタイブラウスのような造りで、大きなリボン結びが出来るようになっているので、アデレードはリボン結びにする。
靴はこげ茶のショートブーツで、寒さ対策はばっちりだ。
アデレードは応接室で紅茶を飲みながらローランの支度が出来るのを待つ。
約二十分後にローランは応接室に戻って来た。
「お待たせしました。さぁ、行きましょうか」
ローランは茶色のチェック柄のシャツの上に赤いカーディガンを羽織り、ベージュの長ズボンを履いている。
その上から紺色のダッフルコートを着ている。
アデレードとローランはバーンズ伯爵家の馬車に乗り込み、街に向かう。
あいにく今日の天気は晴天ではなく、曇り空だが、雨が降っている訳ではないので予定通り街に出ることになった。
今回の同行者は護衛が二人である。
アデレードとローランは書面上で正式に婚約者になり、バーンズ伯爵もローランの人柄を信用してお目付け役としてメイドを付けることはしなかった。
「今から向かう街はシャトロワという街ですの。バーンズ伯爵領内では一番の中心街ですわ。王都とは比べてはいけませんが、地方の街としては賑わっていると思います」
「バーンズ伯爵邸から馬車でどのくらいで到着の予定ですか?」
「大体十五分程度かしら。それ程伯爵邸から離れている街ではないので、少し息抜きに出かけたい時には程よい距離感ですわ」
「アデレードはお忍びの時はそういう格好をするのですね。いつもドレス姿だから新鮮に感じます。とても似合っていて可愛らしいですね。このコーディネートはアデレードが自分で選んでいるのですか?」
「いいえ、メイドが選んでおりますわ。彼女はファッションがとても好きで、私を着せ替え人形のように思っている節があるので、好きなようにやらせていますの。自分が選ぶより彼女に任せた方が確実だと思って。ローランこそ貴族らしいかっちりした装いをしているところしか見たことがないので、そのような装いも似合うのだなと感心しております」
「アデレードのような美少女だったら着飾らせ甲斐もありそうですね。そのメイドの気持ちもわからなくはありません」
馬車の中で二人でそんな会話をしていたらシャトロワに到着する。
街の入り口は東西南北の四か所あり、それぞれに門がある。
門があると言ってもシャトロワの入り口を示すだけのもので、門を通り、街に入る時に身分証を確認したり、通行料を徴収するという仕組みはない。
形だけ門を設置している。
アデレード達が到着したのは西側の門の手前である。
ここで馬車を降りて西側の門から街に入る。
「それでは四時間後位にまたここに迎えに来て下さい」
「畏まりました、アデレードお嬢様」
アデレードが御者に命じ、御者はまた馬車を操縦してバーンズ伯爵邸の方に戻る。
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