第57話

 移動手段は馬車しかなく、遠くの領地に住んでいる者に会う場合はとにかく移動に時間がかかる。


 その為、基本的には夏季休暇や冬期休暇などまとまった長期の休暇に社交関係は行うが、どうしても突発的に相手に会う必要がある付き合いも発生する。


 相手の方が学園の所在地である王都まで出向くならそこまでする必要はないのだが、相手との力関係でそれが難しい場合もある。


 そんな場合の為の制度だ。


 そのような場合は、安息日と学園に許可を貰った休暇を絡めて訪問するのが普通である。



 ただし、当然のことと言えば当然なのだが、学園を休んでいる間も通常通り講義は進むので、休む場合は休んでいる間の講義分は自力で勉強するなり、友人の助力を頼んだりしてちゃんと補う必要がある。


 なので実質は休んでも講義について行くことが出来る者しか制度は利用できない。


「私に会う為にそこまでして下さったのですね。ローラン様がサノワ学園に通っておられるということはわかりましたわ。それでは、私もサノワ学園に入学します。それが一番ローラン様を良く知れると思いますので」


「それは全く構わないし、嬉しいけれど、バーンズ伯爵夫妻は貴女の進学先についてはどうお考えになっていますか?」


「私が行きたい学園で良いと。ただ、バーンズ伯爵家の娘という自覚を持って選ぶようにとは言われましたわ。サノワ学園はサンティア王国中から優秀な者が集まると聞いております。なので、反対はされないでしょう」


「確かに優秀な者が集まっているから、周りと切磋琢磨しながら学園生活を送れます。サノワ学園は王都の中心地にあるので、放課後や週末に一緒に王都に出掛けることも出来ます」


「では、学園入学後については直接会って交流するということは可能なのですわね。学園に入学するまではお手紙のやり取りから始めましょう。特別なことは何も書かなくていいのです。ありふれた日常などで構いません。あとは都合が良い場合はお互いの屋敷で会うということで」


「是非、ルグラン侯爵邸にも遊びに来て下さい。私がアデレード嬢を案内します。それと、私は今、学園の寮で生活していますので、手紙の送り先は寮の住所になります。それは後でメモに書いてお渡しします」


「学園の寮で生活されているのですか? 王都に侯爵家のタウンハウスはあるのではありませんの?」


「ありますが、学園の寮に放り込まれました。自分のことは自分でやる生活を体験しろとのことでした。だから部屋の掃除や着替えなどは自分でやっています。料理と洗濯だけは学園側が配慮してくれていますので、後のことは全部自分でやるのです」



 アデレードとローランの話がひとまずまとまったと思われる頃合いを見て、ウィリアムがわざとらしく咳払いし、少し拗ねたように声をかける。


「アデレード姉様もローラン様も僕がいるということを忘れていませんか? 敢えて口を挟みませんでしたが、話さないだけでこの場にいるのです」


「ウィリアム君、申し訳なかったです。ついアデレード嬢と話し込んでしまったけれど、決して君のことを忘れていた訳ではないのです」


「ウィリアム、ごめんなさいね。あなたのことを蔑ろにしようとしていたのではないの」


「仕方ないから許します。ローラン様については僕がいる前でアデレード姉様の婚約者に加えて欲しいなんて言うくらいなんだから、真剣だということは僕にも伝わりました。でも姉様を傷つけたり、泣かせたりした時は許しません。父様に頼んで、このバーンズ伯爵邸を出入り禁止にしますのでそのおつもりで」


「中々手厳しいですね。ウィリアム君にも認めてもらえるように頑張らないと」


 ウィリアムの言葉にローランは苦笑いする。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る