第28話

「確かに、手紙の内容と相違ない。そこから、舞台がトーマス伯爵邸に移るのか」


「ああ。結局、二人にはどのような処断を下したんだ?」


「結論から先に言うと、ベンは貴族籍から除籍し、彼女共々トーマス伯爵家から追放した。つまり、次期トーマス伯爵夫妻として二人を認めないということだ」


「やはりそうなったか」


「ディナーの時は本当に酷かった。彼女が失敗したテーブルマナーについてはランチで妻が言っていた通りだが、彼女はベンに伯爵令嬢としての勉強はしていると嘘をついていたことが発覚した。そこで素直に認めればいいのに、筋の通っていない無茶苦茶な言い訳ばかり主張したんだ。ディナー終了後に、話し合いの場を設けたのだが、ベンはやっぱり彼女の言うことを鵜呑みにしていたことがわかった。話し合いの場では、バーンズ伯爵からの手紙が非常に役に立った」


「活用して頂けたのなら、此方も書いた甲斐があった。他人の言うことを鵜呑みにすることは良くない。何事も事実確認することは大切だ」


「それから、例の贈り物の件の話もした。今の時点でこのようなことをするのであれば、将来不正に手を染めるであろうことは容易に想像がつく。相手からの情報を鵜呑みにする件と合わせ、その点からも次期伯爵としての素質なしと判断し、贈り物の代金はベンの個人資産から没収するということにしたんだ」


「その後はどうなったんだ?」


「そうしたら、ベンがアデレード嬢に再度頭を下げ再度婚約するとか抜かし出した。このままでは伯爵家の跡取りの立場や生活を失うと思ったんだろう。そして修羅場になった。だが、私が修羅場を止めさせ、アデレード嬢と再度の婚約はないとはっきり告げた。私だけでなく、バーンズ伯爵も認めていないともね。そして、情けでベンに個人資産を渡し、トーマス伯爵邸から追放した。……と、まぁこんなところだ」


「なるほど。予想の範囲内の処断だったな」


「幸い、息子はベンだけではなくトビーもいる。トビーにも同席させて、一部始終を見学させたが、トビーが自分はベンみたいなことはやらないと胸に刻んでくれたと信じたい」


「それは願うばかりだな。時が経って忘れなければいいが……」


「そうだな。それはそうと、ベンとアデレード嬢の婚約について書類上の処理をしなければならない」


「凡そのところは既に作成している。後は私達がサインを入れるだけだ」



 ローテーブルの上にある書類がベンとアデレードの婚約に関する書類だ。


 まず、バーンズ伯爵が万年筆でさらさらと流れるように署名し、その万年筆をトーマス伯爵に渡し、トーマス伯爵も署名する。



 今回はベンは婚約破棄だとアデレードに言ったが、実際は婚約解消として処理することになった。


 近々婚約解消を視野に入れていたし、婚約破棄となるとどうしてもイメージが悪くなり、その後新しい婚約者を探す時に苦労することになる。


 なので、穏便に話し合いで解消したとしておいた方がダメージは少ない。



 二人が署名したことで書類が完成する。


 後は王宮の関係部署に届け出れば良い。


 貴族の婚約・婚姻は王宮で管理しているので、地方の領地を治める貴族であっても王宮に届け出はしなければならない。


 婚約を結ぶ時、婚姻した時は言うまでもないが、婚約が解消になった時、離縁した時も同じくだ。



「私が聞くのもあれだが……アデレード嬢の新しい婚約者探しはどうする予定なんだ?」


「しばらくは何もしない。その後、ぼちぼち探す予定だ」


「そうか。私達の用事は終わったから、サロンの方へ行くか」


「そうだな」



 バーンズ伯爵とトーマス伯爵は執務室を退室し、夫人達がいるサロンへ向かう。





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