第29話

 バーンズ伯爵とトーマス伯爵が執務室で話をしていた頃、バーンズ伯爵夫人とトーマス伯爵夫人、アデレードの三人はサロンでお茶会をしていた。


 先程ランチが終わったばかりなので、三段のティースタンドに乗せられた本格的なスイーツと共にお茶を楽しむという形式ではなく、食べたい分だけさっと食べられるクッキーでお茶を楽しむことになった。


 紅茶もしっかりとした風味と味のものではなく、軽い風味と味でさっぱりと飲めるフレーバーティーを選択する。



 サロンの中の大きめの円形テーブルに三つ椅子が設置されており、三人はそれぞれ座る。


 テーブルの上には上品な総レースのテーブルクロスが掛かっており、各々の席の前にティーカップとソーサー、テーブル中央に茶菓子としてクッキーが盛られている籠とシュガーポットが用意されている。



 紅茶は厨房でメイドがティーポットに茶葉を適量入れて、お湯を注ぎ、ポットに蓋をし、茶葉を蒸らしている状態でティーワゴンに乗せてサロンまで運んで来る。


 やがて、紅茶の用意を担当していたメイドがティーワゴンを押しながらサロンに入室し、三人のティーカップに淹れて来た紅茶を注ぐ。



 これで、紅茶の用意も終わった為、三人のお茶会が始まる。


「この三人でお茶をするのも久々ね。うちの屋敷にアデレードちゃんが来てくれた時は、よく二人でお茶をするけれど、バーンズ伯爵夫人とは中々機会がなくて……」


「私がトーマス伯爵邸を訪問する時は、パーティーに参加する時ですからね。パーティーが始める前や後にお茶会もやるとなると、トーマス伯爵夫人に負担を掛けてしまうことになってしまいますので。ですが、今日は機会に恵まれて嬉しいですわ」


 バーンズ伯爵夫人とトーマス伯爵夫人がこうして一緒にお茶をするのは、約一年ぶりだ。


 今日は久々に夫人同士、ゆっくりお話する機会が出来た。



「このティーカップ、美しいわね。白磁に大輪のピンクのダリアが映えていて、とても素敵。どこの商会で取り扱っているのかしら?」


 この茶会で使用されている白磁にピンク色のダリアが描かれているティーカップを観察しながら、トーマス伯爵夫人は尋ねる。


 答えたのはバーンズ伯爵夫人だ。


「このティーカップは最近、バーンズ伯爵家の御用達商会であるステラ商会から新しくこのようなティーカップの取り扱いを始めたと紹介されたのです。最近、とある工房で新しく作り始めたのですって。気に入ったから、商人が紹介したその場で注文しました。ただ、在庫がどの程度ある等の情報は私達はわからないから、もし購入を検討しているならステラ商会に直接問い合わせるのがよろしいかと」


 バーンズ伯爵家の御用達商会はいくつかあって、その中の一つがステラ商会だ。


 ステラ商会は食器や茶器関係の工房と繋がりが強い為、食器を新調したり、新しいデザインの茶器が欲しい時はステラ商会に声をかければ間違いがない。


「そうなのね。では、屋敷に帰ったら早速ステラ商会に使いをやってみましょう。運が良ければ私も購入出来るということね」


「白磁にピンクのダリアが描かれているこのティーカップと同じデザイン柄のティーポットやシュガーポットもあるから、全部揃えると統一感もありますわよ」


「有益な情報をありがとう。それも合わせて商会の方に見せてもらおうかしら」



 三人は話の合間にさくさくのクッキーを口に運びながら、紅茶を楽しむ。


 クッキーは素朴ながらも実は材料に拘っており、小麦粉とバターと卵はバーンズ伯爵領内で生産された品質が確かなものを使用している。


 その良質な素材を使用し、バーンズ伯爵家お抱えのお菓子作りに特化した料理人が丹精込めて作った自慢の一品だ。



「それはそうと、うちのベンが不甲斐ないせいでアデレードちゃんの婚約者がいない状態になっちゃったわね……」


トーマス伯爵夫人がしんみりと呟く。


「あれはベン様のせいだけではありませんわ。私にも非はあったと思います。手紙のやり取りは全くなかったし、二人でどこかに出かけたこともなかったし、誕生日の贈り物も私は毎年自分で選んでカード付きで贈っていたけれどベン様からは何も贈っては頂けなかった。そこで私は根気強くベン様と交流するのは諦めたのです」


「あの馬鹿息子……! アデレードちゃんの誕生日のお祝いの贈り物も何も贈らなかったの!?」




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