第15話
それはさておき、伯爵令嬢に限らず貴族令嬢は相手にいくら腹が立つようなことを言われたとしても頬を膨らませながら唇を尖らせて憤慨したりはしない。
ましてや自分の家族以外の他の貴族の前では絶対にやらない。
トビーの前で表情丸出しの反応をするということは、リリーは伯爵令嬢といっても貴族としての教育は受けていない。
彼はそう判断した。
貴族は性別問わず自分の感情を相手に悟られるのを良しとせず、マナーの教師から徹底的に教え込まれるからだ。
相手に感情を見せないのは初歩中の初歩だ。
これが出来ていないということは、現段階では判断する要素が足りないので断言は出来ないが、他の貴族的マナーも身についていない可能性が高い。
伯爵令嬢を名乗るにもかかわらず貴族的マナーが身についていない。
それに何故ワンピース姿なのか気になった。
貴族の令嬢と言えば、ダイニングで食事を摂る時は普通はドレスを着用する。
自分の屋敷で自分の家族だけでの食事ならば簡略化した服装でも良いということもあり得なくはないが、ここは彼女にとって自分の屋敷ではなく、その上、自分の家族ではなく他人と食事をする場だ。
そんな場にドレスではなくワンピースなんておかしくはないだろうか?
トビーにはベンとリリーがマークとやり取りした時のことの詳細は伝わっていない為、何故リリーがワンピース姿なのかという疑問が生まれた。
トビーにはこの時点でリリーに怪しさを感じたが、とりあえず伯爵夫妻が来るまで彼女について観察を続けることにした。
「トビー、リリーに変な言いがかりは付けるな。それに私はアデレードと婚約破棄して、新たにリリーと婚約することになった。だから将来的にリリーはお前の義姉になるんだ」
「……え? 嘘でしょう? アデレード嬢と婚約破棄して彼女と新たに婚約するのですか?」
トビーは彼にしては珍しく本気で驚いた。
「そうだ。リリーは私の真実の愛の相手なんだ。彼女はアデレードに虐められていて、その相談に乗っているうちに真実の愛に目覚めたんだ。なあ、リリー!」
「ええ! ベンはとっても頼りになるわ! 私達は真実の愛で結ばれているのよ」
二人の周りにはまるでピンクの可憐な花がふわふわと大量に舞っているかのようだ。
トビーはベンの話を聞きながら、ベンの頭の中身を本気で心配した。
自分の兄が何を言っているのかトビーには全く理解出来なかった。
真実の愛があるなら偽物の愛もあるということになり、真実の愛と偽物の愛の違いもさっぱりわからない。
何を以て真実の愛とし、何を以て偽物の愛とするのか。
真実の愛云々はよくわからないが、一つだけ確実に言えることがある。
ベンがアデレードと婚約していながら、よくわからない
また、アデレードがリリーを虐めていて相談に乗ったというが、それも真実かどうか怪しい。
トビーはアデレードが虐めをするような人物ではないと知っている。
リリーの様子を見ている限り、わざわざアデレードが自ら手を下さずとも勝手に自滅しそうな気配がする。
むしろ虐めの相談と称してリリーがアデレードの婚約者であるベンを誘惑し、略奪した可能性もある。
もしそれに引っ掛かっていた場合、ベンは愚かとしか言いようがない。
バーンズ伯爵家の意向はまだわからないし、リリーがバーンズ伯爵家内でどのような立ち位置にいるのか正確なところがわからないが、単純に婚約者をアデレードからリリーに変更するというだけの話ではないような気配が漂っている。
まだディナーが始まる前段階だが、トビーはこの時点で今日のディナーは嵐が吹き荒れると悟った。
そして父である伯爵がマークを寄越して伝言してきたように、後学の為に勉強することになりそうである。
愚かな行動をとった自分の兄の末路をしっかりと見届けることになるのだろうとトビーは遠い目をした。
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