第13話
「旦那様のその情報で、訳ありなお嬢様であることがほぼ確定しましたね。坊ちゃまが婚約者を変更したいと申し出てバーンズ伯爵家側が了承したのか、バーンズ伯爵家側が何らかの事情で婚約者を変更したいと申し出て坊ちゃまが了承したのかは話を聞いていないからまだわかりませんが」
「バーンズ伯爵家側の事情であるならば、バーンズ伯爵が私の所まで出向いて説明するなり、手紙を送るなりすると思うが、それがないということは急に決まったのかもしれない。それに、今日はベンがバーンズ伯爵邸を訪問している。まだ私達に言っていないだけで、バーンズ伯爵伯爵からの伝言か手紙か何かを預かっているのかもしれない」
「その可能性はありますね。あと、彼女、普通の貴族令嬢ではなさそうです。彼女、私に挨拶するなり何を言ってきたと思います?」
マークの問いに伯爵は何か嫌な予感が胸をよぎった。
「わからない。一体何を言ったんだ?」
「自分の為にドレスと大きな宝石が付いたアクセサリーを用意するよう言われました」
「……は? 一応聞くが、別に今すぐ着替えなければならないような状態ではないんだよな?」
「手違いで服が濡れたとか汚れたから着替えたいというような様子ではありませんでした。そのようなやむを得ない状況であるならばまだしも、ただ単に我が儘を言っているだけのように見受けられました。お会いして挨拶後、すぐにそれでしたから、流石に驚いてしまいました」
「マークのことだから彼女の言う通りに用意した訳ではないんだろう?」
「ええ。ベン坊ちゃまの婚約者であればご用意しましたが、その時点でリリー様がベン坊ちゃまの新たな婚約者だという情報が正しいと確認は取れていませんので、旦那様が婚約者だとお認めになられたら用意するという話をしました。婚約者かどうかもわからないのに、ただのお客様にトーマス伯爵家の財産から高価なドレスやアクセサリーを購入する訳にもいかないでしょう」
「婚約者であるならば贈り物をしても常識の範囲内だからな。現時点でただの客人にそうする必要はない。新たな婚約者とは一体どういうことなのかベンに問い詰める。ディナーの時間までに仕事はキリの良いところまで終わらせなければ」
「奥様もそろそろお戻りになられる頃ですので、ディナーの時間になら皆様揃って食事をしながら話が出来るのではと思います。ベン坊ちゃまにもそうお伝えしておきました」
「バーバラが帰宅したら、今、私に教えてくれたことと同じことを前情報として彼女にも伝えておいてくれないか?」
「畏まりました。トビー坊ちゃまはディナーに同席させますか? 自室にお食事を運んで自室で召し上がって頂くことも出来ますが……」
トビーはベンの三歳年下の弟である。
因みにベンは16歳なので、トビーは13歳だ。
伯爵家の二男として将来ベンの補佐として仕事をする為に色々なことを学んでいる年頃の少年である。
「トビーは同席させる。今回のこの一件。ベンから話を聞いた結果、事の次第によってはベンを切り捨てる事態になるかもしれない。貴族として愚かなことをした時、私は躊躇せず処断するのだというところも見せておいた方がいい。それを見て、トビーが自分はベンみたいにはならないと教訓にして胸に刻み、成長することを期待する」
貴族はたとえ肉親であっても時には冷酷な処断をせざるを得ない時は訪れる。
出来ればそんな時は来ないのが理想だが、理想と現実は異なる。
息子でも貴族として失態を犯した時は、家族の情よりも貴族当主として裁かねばならない。
息子だから多めに見てもらえるだろうという希望的観測は捨てさせなければならない。
「確かにそういうことは学ぼうと思っても中々学ぶ機会はないです。失礼ですが、今回のことはちょうどいい機会かもしれないですね。では、トビー坊ちゃまも同席するということでご用意させて頂きます。私はこれで失礼致します」
マークが退室した後、伯爵は座っていた椅子に深く体重をかけ、背もたれにもたれ、深くて重苦しい溜息を一つついた。
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