第74話 処分
一晩岩山の宿舎に泊まり、交代した者達と共にゾルクの森に戻る為に引き返す。
ブラックウルフの群れに出会った時は、皆を無事に連れて帰れるのかと少しヒヤッとしたが、氷のドームが良い働きをした。
自分で使う事が殆ど無かったし一人用なら小さな物で事足りるが、20人以上の人員を収容するには僅かだが時間が掛かる。
十数頭のブラックウルフの討伐が終わった時には、少し魔力が心配になり隠れてハイゴブリンの心臓を口に放り込む羽目になった。
防壁と違い、氷のドームは大きくなると使用する魔力も多いので、気を付けなければ命取りになる。
無事に谷の上に送り届けて、翌日からは森を一周して獣の間引きをする事にしたが、コルツにエイフ、カロカ、ブルム達が連れて行ってくれと言い出した。
最近碌に薬草採取が出来なかったので、俺が討伐している間に薬草採取させてくれと頼まれて、8人で谷底の森を一巡りする事にした。
以前一人で森を彷徨いた時よりも、野獣や魔獣に出会す頻度が遙かに高いので結構忙しい。
その合間にコルツ達四人はせっせと薬草集めに励んでいて、野獣や魔獣が出ても興味も示さず俺に任せている。
二週間ほどしてゾルクの森への登り口に戻ってくると、高ランク冒険者達と出会ったが黙って道を開けて会釈をしてくる。
「奴等も、ハルトの強さを認めた様だね」
「一度でもドラゴン討伐を見たら、ハルトとは格が違うと認めるさ」
「けど・・・奴等何処に行くつもりなんだ」
「以前と雰囲気が違っていたよな」
「ああ、目付きが変わっていたな」
カロカとブルムがそう言うと、エイフとコルツも同意する。
崖の階段を上り、ベースキャンプで一息入れてから、下に降りた冒険者達の事を兵士に尋ねた。
兵士達が言うには、交代要員を連れて帰ってからは、彼等は人が変わったように訓練を始めたそうだ。
それも連携を取る訓練、パーティーとして各自の役目を果たし、魔法使いに万全の体制で魔法を射たせる練習が中心だそうだ。
少し遅いけど、プライドを捨てて闘う気になったのは良いことだ。
そのプライドを捨てられずに偉そうに喚いている奴が一人居るが、治療してやる義理は無いので無視して帰る準備に取りかかる。
馬車の引き取りと、谷底の森管理者としてのフェリザイ伯爵に用がある。
ゾルクの森入り口のベースキャンプで馬車を出して貰い、グリムの街に向かいフェリザイ伯爵の館に直行する。
「お帰りなさい、ご無事で何よりです」
「谷底の森について頼みがある。王家の直轄領になる前に統治していたボストーク伯爵が、谷底の森で狩りをしていた冒険者達を金鉱床の秘密を守る為に出入り禁止にした。それが王家の直轄領になってからも続き、その為に野獣や魔獣が増えた一因になっているのだ。薬草採取の者達が彼等を戻すように訴えたが、代官の耳には届かなかった。と言うよりも、ゾルクの森入り口に在るベースキャンプの責任者のところで握りつぶされている」
「その薬草採取の冒険者達から話を聞き、対処致します」
コルツ達四人を、フェリザイ伯爵に引き合わせて詳しく伝えさせた。
谷底の森に下りる許可を受けた者が認めた者、見習いやパーティーの一員にも許可を与えると約束してくれたので、彼等とは此処でお別れだ。
一晩フェリザイ邸に宿泊して旅立つとき、父の後始末で殆ど財産を処分してお礼も出来ないが、何れ改めてお礼をさせて下さいと言われて家族総出の見送りを受けた。
「親爺とは大違いの息子だねぇ」と、ミューラの感想に苦笑いがでる。
* * * * * * *
王都に戻ると王城に直行してブルーゼン宰相に面会を求めて、侍従に案内されて宰相専用の応接室に案内された。
「ハルト殿、依頼完了報告は受けている。掘り出された金も無事王都に届けられ採掘も始まったようだ」
招き入れられた応接室でブルーゼン宰相の言葉を聞き、頷いてメモ用紙を渡す。
メモ用紙には、負傷者の治療×12名と討伐した野獣や魔獣の名前と数が、ずらりと記されている。
グレイウルフ×19
ビッグエルク×4
ビッグフォックス×3
アーマーボア×5
フォレストキャット×2
ビッグボア×6
ブラックベア×4
ブラウンベア×7
ブラックウルフ×27
ゴールデンベア×3
ホワイトブーツ×1
ホーンボア×3
オーク×11
ゴールデンゴート×2
ホワイトゴート×5
ブラックキャット×1
シルバータイガー×1
ドラゴン×1
一覧を見たブルーゼン宰相が唸り声を上げる。
討伐数は、ドラゴンを含めて105頭になるので、一頭金貨20枚×105=金貨2,100枚。
治療費が金貨1,200枚+依頼料金貨1,000枚で、合計金貨4,300枚となる。
唸りたくなるのも判るが、此れでも小さい獲物は放置して手控えた方だからな。
一覧を見ながら何かブツブツ言っているが、そ知らぬ顔を決め込む。
待っていてくれと言ってブルーゼン宰相が姿を消した。
「宰相閣下と直談判かよ」
「俺、こんな所初めてだよ・・・無事に帰れるんだろうな」
ミューザがクスクス笑っている。
「何だよー、ミューザ」
「俺達六人は国王陛下の顔も間近で見たぜ、ドラゴンを目の前に出したときの驚く顔も見たし」
「それじゃー、ハルトは公爵様になったんだから、しょっちゅう会っているのか?」
「いや、ミューザと変わらんよ」
「でも、公爵様になる時とか儀式があるんだろう」
「そんな面倒な事はしてないよ。古着屋の三男坊の穀潰し、冒険者で流民だぞ。国王相手でも跪く気はないしな」
* * * * * * *
「陛下、ハルト殿が討伐した野獣と魔獣の一覧をご覧下さい」
ドブルク国王は差し出されたメモを一読し驚嘆する。
「一人で此れだけの数を討伐したと申すか。しかもドラゴンまで討伐しているではないか」
「それも僅か20日程度の間にです。ご覧頂いた一覧の中には希少種が含まれています。ゴールデンゴート、ホワイトゴート、ブラックキャット、ホワイトブーツの四種です。谷底の森に住む獣は大きいと聞いておりますので、検分して見事であれば買い入れたいと思いますが」
ブルーゼン宰相を待っていると、侍従がやって、来て陛下が魔物を検分為されるのでついて参れと横柄に告げる。
連れて行かれる先をドラゴンを検分した場所じゃねえかと、ミューザが小声で教えてくれた。
成る程、広く長い石畳の通路に佇む男二人と背後に煌びやかな近衛騎士達が居並ぶ場所だ。
陛下、連れて参りましたと頭を下げた侍従が振り返り「陛下の御前で在る、跪け!」と叱責してくる。
慌てて跪くミューザ達だが、俺は無視して軽く一礼して声を掛ける。
「獲物の検分は、討伐依頼の中に含まれていませんがどうしてです」
国王の後ろに控える近衛騎士達の気配が変わり、叱責した侍従が口をパクパクさせている。
「済まないハルト殿、メモの中に希少種の名が幾つか在ったので見せて貰いたい」
「獲物は全て私の物との約束です。王国にはなんの権利は無いはずですが」
「それを破るつもりはないが、希少種を高値で買い取りたいので曲げてお願いする」
「此処でですか? ドラゴン以外でも104頭もいますし、適当に放り込んでいるので出すのが大変なんですが」
「そこを曲げて頼みたい。優れた個体であれば、高値で買い上げたいと思っている」
相談するから待ってくれと言い、跪くミューザ達を立たせて指名の物を取り出せるか尋ねて見た。
「無理!」の一言で否定されてしまった。
「ブルーゼン宰相、マジックポーチの中を全て出さなければ、何処にご希望の物が有るのか分からないそうですが」
「良い、此処に並べてくれ」
国王の一言で石畳に獲物を並べていき、希望の物に目印を置く事になった。
ガチガチのハインツが、石畳の上にマジックポーチから次々と獲物を獲りだし並べて行く。
世間で知られる野獣や魔獣よりも一回りも二回りも大きな個体が次々と出てくるので、護衛の近衛騎士達から響めきがおきる。
「何と、ブラックウルフですら飾られている物より大きいではないか。見よ! あのエルクを、あれ程の巨体がいるのか」
「陛下、噂より遙かに大きいですな」
じっくり検分して目印代わりに近衛騎士を獲物の前に立たせている。
空のマジックポーチを持って手持ち無沙汰の二人に印の無い物を仕舞うように指示する。
結局8種9頭を選び出したので、それぞれの値段交渉をブルーゼン宰相として金貨1,130枚で話がついた。
ブラックウルフ・2頭、金貨150枚
ゴールデンベア・1頭、金貨100枚
ゴールデンゴート・1頭、金貨120枚
ホワイトゴート・1頭、金貨100枚
ビッグフォックス・1頭、金貨130枚
ブラックキャット・1頭、金貨200枚
シルバータイガー・1頭、金貨180枚
ホワイトブーツ・1頭、金貨200枚
世間相場より高いのは間違いないが、此れをオークションに出したら幾らになるかと問われても判らないってのが本音。
結果金貨4,300枚+1,130枚=5,430枚を、商業ギルドの俺の口座に振り込んで貰う事にして王城を後にした。
「いやー、話が大きすぎてついて行けんわ」
「王様って、格好いいよなぁ」
「ハルトが金を持っているのも頷けるね」
「ブラックウルフ1頭で金貨75枚だぞ」
「いやいや、俺達が相手にするブラックウルフより遙かに大きい奴だからあの値段だろう」
「此れで、ドラゴンも持っているんだよな」
「ドラゴンは、いったい幾らになるんだろうな」
表に出す獲物とは別にハイゴブリン7頭とオーク2頭は、心臓を取る為に別保管して表には出さない。
ミューザ達三人が不思議そうにしていたが、ちょっと考えがあるからと誤魔化して、俺のマジックポーチに入れてある。
谷底の森に住まうハイゴブリンの心臓は効きそうだし、オークも強烈そうな予感がする。
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