第59話 お仕置き
ハルトから渡された、六商家の名が記された用紙の内既に三家の当主は死に、残り三家の当主も翌日には捕縛され店は封鎖された。
〔ミトロル商店〕〔マノヴォ商会〕〔アルゴス商店〕の当主はクロドス商会会長に宛てた自身の書簡を見せられ、王国の要人で在るハルトに対する不敬と強要の罪を問われて罰せられる事になった。
その際に後ろ盾となっている貴族の名を吐かされ、罰金として金貨2000枚が課せられた後に処刑された。
遺族に店を再開することが許されたのは二月後の事で、大店の当主や豪商貴族達はその理由を王家より知らされていた。
名の上がった貴族達は、商家の者が徹底的な調べを受けていることを知り、戦々恐々の日々を送ることになった。
厳重注意の上罰金、隠居命令や降格と罰金、数家は取り潰されたが表向きには貴族としての価値無しと伝えられただけであった。
王家は事の発端となったクロドス商会会長より、ハルトの治癒魔法の詳細を聞き、又ザールス商会の護衛達から火魔法を自在に使い、怪我も一瞬で治す凄腕の治癒魔法能力を詳しく聞き出していた。
ヴォルフ子爵の一件でも信じがたかったが、此れほど証言が集まればハルトが治癒魔法も授かっているのは間違いない。
詳細な報告を聞き、彼を他国に渡す事は絶対に避けなければならないと認識を新たにした。
幸い彼の姉がコーエン侯爵領ヘイエルに居るので、コーエン侯爵に命じて彼女と娘の安全に万全を期せと命じる事にした。
彼女と娘がヘイエル、ドブルク王国に住まう限り、ハルトも王国に居る確率が高くなる。
グランツホテルを引き払いヘイエルに帰る俺に、ブルーゼン宰相から六商家からの謝罪金として、金貨12,000枚が振り込まれたと連絡が来た。
その連絡を受けて俺は脱力してしまった。
又金貨が増えてしまった。
* * * * * * *
ヘイエルに戻り、久し振りにヘレナ姉さんと姪のミリーネとの団欒を楽しんだが、先々の事を考えて一軒家を手に入れる事にした。
となれば商業ギルドに行き、王家から振り込まれた金貨12,000枚を姉さんの口座に移動する。
預け入れ額や資金移動は外に漏れないと言ってたが、万全では無いだろう。
だが新しく買う家は俺の名義になるので、姉さんとミリーネの今後を考えれば資金は多い方が安心だ。
俺は商人の小倅風、姉さんとミリーネも庶民より少しマシな格好だが、一度家を建てた実績と預け入れ額を知っているので話はトントン拍子に進む。
話の過程で、自分の預け入れ金が増えているのに驚いた姉さんから、金の出所を商業ギルドで追求されて説明に難儀した。
振込先が王家となっていたのに二度びっくりで、何も言わなくなったから助かった。
商業ギルドに今住んで居る家の敷地より縦横二倍以上で、厩と馬車置き場に玄関ホールを一階に、住居は二三階に造り屋根裏は使用人部屋にすると告げる。
使用人部屋の言葉に戸惑う姉に、ミリーネの世話をしながら部屋数15~16室を掃除するのは大変だぞと脅しておく。
まっ、じっさいに使うのは寝室と居間に食堂くらいだろうが、二階の半分以上は俺専用部屋にする予定だ。
来客や冒険者達が訪ねて来ても、姉やミリーネの生活に影響しない様にする為にも必要だし。
* * * * * * *
魔力確認の為に五日程森に行ってくると告げて、久し振りに一人街を出ると冒険者の来ない荒れた草原に向かった。
標的の距離設定から始まり、バレットの水平飛距離やアイスランスでの射ち出し本数の確認と、結構忙しかった。
空間収納が縦横高さ約3.7m、念じて凍らせるお手軽凍結の距離は約60m。
アイスランスの水平飛距離約60m、仰角を付けての最大飛距離100m以上。
アイスジャベリンの約三倍がアイスランスの発射本数で推定150本、自力魔力はアイスランスの推定1/3で約50本の計算だ。
どうりで直径80㎝程度のアイスバレットを、バンバン撃ちだしても魔力切れを起こさない訳だ。
ゴブリンの心臓を喰わなくても、自力でアイスランス50本撃てるのは心強い。
ハイゴブリンの心臓一切れを喰っても、熱暴走一歩手前で耐えられるので次の段階を模索する。
オークかウルフか悩ましいが、手軽に心臓を補給できるのはウルフ系だ。
戦闘中のエネルギー補給なら、一切れで満タンになるハイゴブリンで良いのだが、此れからも増えるだろう魔力量を思うと次のステップに進む必要がある。
* * * * * * *
家に戻ると、姉さんから希望の家を建てる場所が見つかったと連絡が来ていると言われた。
市場から離れるが少し大きな家や商店が建ち並ぶオシエク通り、広い通路の両脇に商店や店舗が並ぶ所だった。
此方は冒険者ギルドからも距離があり、冒険者の姿は殆ど見当たらない。
商業ギルド職員に案内された建物は、希望より少し大きいが三戸一の建物で解体から始める必要が在る。
土地代は建物を解体する費用を差し引いて金貨2,400枚。
庶民の暮らす場所よりランクが高い土地ですので、此れでも格安ですよと揉み手をされた。
高級住宅街だと言いたいらしいが、街中で此れほど広い土地はおいそれと手に入らないので仕方がない。
商業ギルドに引き返し土地代金を支払った後、建物の概要を説明する。
一階は厩と馬車置き場に敷き藁や飼い葉置き場のみ、街路より幅広の階段で二階に上がり突き当たりを玄関フロアとして、左に扉で正規のフロア。
二階は俺専用、三階には建物の裏階段から上がり、姉とミリーネの住まいで屋根裏が使用人部屋の予定。
建物名義は俺になり正面からは二階にしか上がれない、勿論三階に上がる隠し階段は有る。
屋根裏は使用人部屋で、8室向かい合わせで16室の造りとなる。
分厚い壁と質実剛健な建物にするので建築費として金貨5000枚を一時金として預けた。
後は以前建築を頼んだ土魔法使いや大工を商業ギルドが手配してくれたので任せる。
二階三階とも調理場や食堂などは上下同じ配置、居間の隣から二階と三階を繋ぐ隠し階段を造る。
最も俺の住む二階は、玄関ホールと客間は質素ながらそれなりの造りだが、台所兼食堂に居間と寝室の他はほぼがらんどうである。
土地代建設費に追加分を含め、金貨8,000枚を商業ギルドに振り込むと微妙な顔をされる。
俺が冒険者だと知っているので、冒険者がホイホイ動かせる金額では無いからだ。
しかし、コーエン侯爵様の依頼でアーマーバッファローを討伐して以来、何故か金貨が貯まるんだよな。
建築期間は約四ヶ月、此れだけの建物にしては早いほうだと聞き、どうやるのか興味が有ったが餅は餅屋とお任せする。
四ヶ月もちんたらするのは退屈なので、ウルフの心臓を試してみることにする。
先ずは食糧確保と市場に行くと、ハインツ達と出会うが背負子やザックを担いでいる。
お財布ポーチ持ちだと知られない様に、ダミーに担いでいるんだと言って食糧をせっせと買い込んでいる。
暖かい食事が取れる様になると、固いパンや干し肉には耐えられないと苦笑いをしている。
ハインツ達がどんな狩りをしているのか興味が湧いたので、暫く行動を共にさせて貰う。
その日は市場を巡り、肉を挟んだパンや各種スープを小さな寸胴に纏め買いしたり、ミリーネの為のクッキーを買ったりする。
此の世界クッキーやケーキは有るのに、飴が無いのが不思議。
水飴くらいは簡単に作れると思うが、製法は俺も知らないので諦める。
街の出入り口で待ち合わせをして、ハインツ達の後をついて歩く。
今日は森と草原の境界辺りで薬草とホーンラビットやヘッジホッグ中心に狩るとの事だ。
俺は周囲の警戒を主に務め、ハインツ達が動きよい様にする。
見ていて気がついたが薬草を探しているとき、安全の為周囲に気を配っているのだが、危険に気を使うあまりホーンラビットやヘッジホッグの存在に気づいていない。
弓使いの男の肩を叩き、静かに指差すと何処に居るのか判らず草叢を覗き込む場面もあった。
じれったいのでアイスニードルを射ち込もうかと思うが、弓の腕を見たいので我慢する。
30m程度ならホーンラビットを確実に仕留める腕はある様だ。
ハインツ達と二日野営したが、二日目の夜ハインツ達のベースキャンプにお客さんだ。
俺は茨の木で組まれた小屋の奥でパンを齧っていると、小屋の外で人の気配が近づいて来る。
「ハインツ、誰かやって来るぞ」
俺の声に談笑が止むと、複数の足音がはっきりと聞こえる。
ガサゴソと茨の柵を開ける音がすると、無言で小屋を覗き込んでくる。
「何の用だ」
ハインツが短槍に手を掛け問いかける。
「日暮れまでに野営の準備が出来なくてよ、此処は時々俺達が使っているんだから泊まらせろよ」
「自分の塒は自分達で作れよ。此処は俺達旋風と真紅の剣が造ったベースキャンプだ」
「おんやぁ~、俺達が大人しく頼んでいるのに強気だな」
「其れが人にものを頼む台詞かよ」
虫除けに薬草を燻しているので、小屋の中は煙で見通しが悪い。
「言うじゃねえか、俺達ベアハンターに喧嘩を売る気かよ」
俺の声に反応したが、ベアハンターの名に聞き覚えがある。
「恥ずかしげもなく、ヘイエルでのさばって居るとはねぇ」
「誰だてめえは、面を出せ!」
弓を引き絞っている奴に、矢を外させて前に出る。
「熊ちゃん達、模擬戦で無く本気で遣ろうぜ」
〈てっ、てめえは〉
〈何で居るんだよ〉
〈糞ッ、やっちまえ!〉
〈おりゃー!〉
馬鹿な奴等、俺は未だ小屋の中だから正面からしか攻撃出来ない。
余裕のよっちゃんで躱して、アイスアローを正面の奴に射ち込むと蹴り飛ばす。
仲間を避ける為に左右に広がって踏み込めない隙に、アイスアローを連続で射ち込む。
腹にアイスアローを突き立てた七匹の熊ちゃんの死体・・・未だ死んでないが呻いている。
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