第27話 不自然な絡み
ゾルクの森、地の底、谷底の森、聞き慣れない言葉が幾つもある。
地の底と谷底の森は言葉の端々から同一と思われるがゾルクの森が判らない。
これは気の良さそうな冒険者に聞く方が早そうだ。
あの男の言った様に、一杯飲ませるのがてっとり早いだろう。
余りウロウロしても変に思われそうなので、明日出直して来る事にして市場に向かう。
少なくなっている調味料から食糧やスープ、菓子やお茶と大量に買い込み朝に聞いたホテルに向かう。
〔エリナの宿〕清潔で食事も美味いと聞いていたので期待が持てる。
* * * * * * *
夕方冒険者が獲物を売り、食堂で屯している時間に冒険者ギルドへ向かった。
食堂でエールを片手に周囲を見回し、ちょっと後悔した。
ショートソード一本下げただけの、見知らぬ冒険者は興味を引く対象だと忘れていた。
六人掛けのテーブルに三人だけの所に行き座らせて貰う。
エールを飲みつまみの干し肉を齧りながら周囲の話を聞くが、その日の成果や与太話しか聞こえてこない。
「兄さん見ない顔だな、何処から来たんだ」
「俺はフルカム地方ヘイエルの街からだ」
「また遠い所からだが、訳有りかい」
探る様な目付きになっているが、俺はお前の獲物じゃないぞとは言わずに笑って遣り過ごす。
「未だ若いし精々ブロンズの様だが、この街に何の用だい」
「用事は済んだよ、書状を預かってきて届けた後だ。後はドラゴン討伐の話を聞いたので、ドラゴンを見物して帰ろうかと思ってな」
「あれか、止めとけ止めとけ。お前みたいなのは地の底にも行けないぞ」
「それ、地の底とか谷底の森やゾルクの森って、よく判らん事を受付で聞いたのだが。教えてくれるのなら一杯奢るぜ」
「おっ、話が判る兄さんだな」
そう言って教えてくれたのは、グリムの街から西に一日行けば巨大な森がある。
その森を西に二日進めば巨大な谷があると、30~50mの断崖絶壁が延々と続き、鳥か猿しか出入り出来ないと言われている。
谷底は東西2日南北3日の距離の大きさで、何処まで行っても断崖絶壁だそうだ、故に地の底とか谷底の森と呼ばれているんだと。
その地の底に行けるのはベテランの冒険者だけで、彼等は自分だけの秘密の通路を知っているそうだ。
地の底に生える珍しい薬草採取専門の者と、珍しい野獣や魔物を狩る一部の者だけが自由に出入りしていると聞かされた。
但し、時々ドラゴンに襲われて消息を絶つ者がいるんだと。
彼等の話だとドラゴンは1頭のみだが、12~13mの巨体で並みの魔法使いでは歯が立たないらしい。
タダ酒に酔って上機嫌に話す声が聞こえたのか、余計な奴を呼び寄せた。
「兄さん俺達が谷底の森まで案内してやろうか。一人一日銀貨一枚でどうだ」
「いや、人を雇うならギルドを通して正式に雇うよ。ギルドのお墨付きの能力が有る奴をな」
「俺が親切に言ってやってるのに、何が気に食わないんだ」
「お前とお前の後ろに居る奴等が、俺よりも弱そうだからだよ」
俺がそう言うと、俺に説明してくれていた三人が大笑いしているし、周囲の者も爆笑している。
笑われて激高した男が何やら喚きだしたが、文句が有るなら模擬戦で実力を示せと言ったら黙ってしまった。
ショートソード一本ぶら下げただけの俺が、それなりの実力があると気づいた様だ。
金貨30枚もするお財布ポーチは、それなりの実力がないと手に入れられない。
そんな俺に、正面から掛かってこいと言われて尻込みしたのだろう。
「なら兄さん、俺達と模擬戦をやって貰おうか。それなりの実力を示せると思うので依頼料は弾んでくれよ」
「ランクは?」
「ランク? お前のブロンズより上だぜ」
ヘラヘラ笑いながら仲間内で何事か囁いている。
こんな馬鹿は、叩きのめされなければ自分の弱さを実感できない奴等だから、見せしめの為に潰す事にした。
「良いだろう、お前達全員と模擬戦をしてやるよ。ギルマスを呼べよ」
〈おー新人が〔草原の風〕と模擬戦をやるってよ〉
〈よーし、草原の風に銀貨3枚を賭けるぞ〉
〈むー実力が判らないからなぁ〉
〈久々の模擬戦だ、やっちまいな!〉
総勢七人だが精々シルバーが一人二人ってところか、残りはブロンズだと見当をつける。
訓練場にやって来たギルマスに、面倒なので七人と纏めて模擬戦をしたいと言うと呆れられた。
〈おい七人全員を、纏めて相手にするとよ〉
〈かー、草原の風の連中は完全に舐められてるな〉
〈そのふざけた奴を、ぶち殺せー〉
さっき俺にあしらわれた屑が、遠くで叫んでいる。
「お前、本当に七対一でやるつもりなのか?」
「ああ、一人ずつって面倒だろう。ちゃっちゃと終わらせたいんだよ」
ショートソード並みの長さの練習用木剣を取り出してそう言うと、草原の風の連中に七対一だと伝えている。
満座の中で、雑魚だと言われたも同然なので、皆いきり立っているのがよく判る。
横一列に並んだ奴等を見ても、強そうな奴がいない。
仕方がないので、俺に声を掛けて来た奴を最初の血祭りに上げる事にした。
〈始め!〉ギルマスの声が聞こえると同時に跳び込み、目的の男の腹を蹴りつける。
身体がくの字になった所で首を掴み手前に引いて位置を入れ替え後ろから股間を蹴り上げる。
泡を吹いて崩れ落ちる男を、横一列に並んだ男達が呆気にとられて見ている。
暢気な奴等だ、次は自分の番だと気づいていない。
左右の男の腕を殴りつける序でに、足払いを掛けて転がしサッカーボールキックをお見舞いする。
そこまでして漸く残りの四人が反応したが遅すぎる。
木剣を持ち上げた腕を殴りつけ、複雑骨折を確認して隣の奴の股間を正面から蹴り込む。
〈ウグッ〉て声を出したが白目を剥いてそのまましゃがみ込むが戦闘能力無し・・・てより気絶しているな。
あたふたしている残りの二人に、にっこり笑ってから木剣を持つ腕を叩き折って終わり。
「ギルマス終わったぜ」
「あっ、ああ」
〈おい新人に賭けた奴はいるのか?〉
〈そんな博打打ちはいねえよ。誰が七対一で、こんなにあっさり終わると思うんだ〉
〈賭けなんて成立してねえよ〉
〈彼奴らボーション程度じゃ治らねえなぁ〉
〈だから見知らぬ奴に絡むなって、昔から言われてるんだ〉
つまらないので食堂に行って飲み直す事にしたが〈そのふざけた奴をぶち殺せー〉と喚いていた奴と鉢合わせ。
「残念だったな、ぶち殺されなくて。次は遠くで吠えてないで自分で来い」
そう言ってやると、真っ青な顔でギルドから飛び出して行った。
どうも逃げ出した奴も、叩きのめした草原の風の連中もちょっと不自然だ。
それに、誰かに観察されている様な視線を感じる。
この街に居る間は魔力を張り巡らせている必要がありそうだ。
翌日、草原の風の連中に言ったとおり冒険者ギルドの受付に行き、地の底への案内依頼を出した。
「地の底の案内依頼ですか」
「そうだ。自称ではなく地の底に行っている奴が募集条件だ。もう一つ自分の身は自分で守るので俺への護衛は必要無い」
「其れでしたら一人一日銀貨2枚くらいに為りますが」
「其れで良い。期間は二週間、パーティーでも個人でも良いが経験者が条件だからな」
受付は買い取り職員とも相談し、地の底に行っている冒険者の最大パーティーは五人と聞き、俺に五人×銀貨2枚の12日分を要求してきた。
金貨12枚を渡して、明日からは夕方に食堂で飲んでいるかエリナの宿に連絡をくれる様にと頼む。
後は待つだけだと思ったが10日経っても誰も依頼を受けてくれない。
受付に聞くとそもそも地の底に行く人間は極端に少なく、相応の稼ぎが在るので、依頼は相当高額でなければ受けて貰えないだろうと言われた。
それをもっと早く言えよと思ったが、事務的に処理するギルド職員に頼ったのが間違いだった。
依頼金を返して貰い、改めて地の底の傍迄の案内依頼を金貨二枚で出した。
その日の夕方冒険者ギルドの食堂で飲んでいると、次々と依頼内容を見て手を上げた冒険者をギルド職員が連れて来た。
一日で七組のパーティーと面談したが、応募者多数の為に返事は後日とさせて貰った。
しかし、もう決めていたのだ。
俺の座るテーブルで一杯飲ませて品定めをして、一組だけ舐めた言動をしなかった〔森の隠者〕って男女五人組のバーティーだ。
ギルドの依頼受付に、森の隠者パーティーにエリナの宿に来る様に伝えて貰った。
翌朝やって来た彼等と馬車を雇い、ゾルクの森近くまで移動する。
森の隠者のリーダー、トルト狐人族
斥候役のアズレン、女猫人族
弓使いのセーブ、エルフ族
大剣使いのゾラン、ドワーフ族
槍使いのヘイル、人族
中々興味深い一団だが、それなりの礼儀を守ってくれるし、話を聞いた限りでは谷の周辺で活動しているそうだ。
ただ谷底には降りた事は無いし、降りる気も無いときっぱり言われた。
夕暮れには早いが馬車を帰して、ゾルクの森入り口で野営の準備をする。
俺はヘッジホッグハウスをポンと出して野営準備は終わり。
呆れる彼等は俺のヘッジホッグハウスを利用して残り三方に茨の木で防御柵を作ってタープを張る。
「確かにこれじゃ、あんたの野営の心配は無用だね」
「本当だわ、お財布ポーチ持ちとは判っていたが、マジックポーチにとんでもない物を入れてるんだもの」
「そのお陰で身軽に行動出来るし、美味い飯も食えるってものだよ」
「リーダー、俺達もお財布ポーチ買おうぜ」
「あんた本当にシルバーランクかい」
「マジックポーチを持てるなら、冒険者を引退して楽な生活が出来るだろうに」
皆それぞれ勝手な事を言いながら食事を済ませると、早めに眠りに就く。
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