第24話 揶揄い
ヤハンとハインツ達は、駆けだした者達を黙って見ていた。
「行かないのか」
「ハルトに賭けて稼いだから要らないよ。然し此処まで強いとはねぇ」
「魔法攻撃で片付けると思っていたよ」
「ああ、あっという間に五人を斬り捨てたよな」
「あんた、どんな訓練をすればあんなに強くなれるんだ」
「もう、誰もあんたに絡む奴は居ないだろうな」
パンツ一丁の死体をマジックポーチに放り込み、ヤハン達と別れて森の奥に向かう。
ゴブリンの生息する草原と森の境界より奥に行けば、ハイゴブリンが居ると聞いたので余り奥には行かない。
風の連中の死体を捨てながら適当な木を探し、今夜の野営地に決めると残っていた二人の死体を凍らせると、破壊して周辺にばら撒いておく。
樹上に椅子を作り、幹や周囲を茨の木で防御すると、後はマントを被って待つだけだ。
獣が餌に喰いつくのを待つ間、今日の闘いを振り返る。
魔力を体内に張り巡らせる練習をしてきたが、獣相手では十分対応出来る事は判っていた。
対人戦、接近戦でも対応出来る事が証明されたが、あと一つ、刃物や魔法攻撃に対応出来るのかが問題だ。
魔力を纏うとは、魔力を身体の周囲に張り巡らせるのではなく、体内に巡らせるのでも無い。
身体の隅々まで広めて全感覚を鋭敏にして身体を強化する、それが魔力を纏うって事だ。
矢を肩に射込まれて、ポーションを飲んで痛みに耐えていたあの時。
次の攻撃に備えて、魔力切れを防ぐ為にゴブリンの心臓を喰らった。
熱暴走を防ぐ為に体内に溢れる魔力を放出し、限界ギリギリの魔力で次の攻撃に備えていた時に、痛みが直ぐに消えて腕が動く様になった。
矢傷が綺麗に治っているのに気がついたのは、大分後になってからだ。
当時の事を色々思い出して考えた結果、魔力を体内に張り巡らせる事は身体を活性化させる事だと推測した。
矢傷が綺麗に治っていたのも、ゴブリンの心臓を喰らい身体の隅々まで魔力が溢れて、自己治癒能力が向上していたからだと思う。
それを確かめる為に、何度か自分の腕や足を傷付けてから、ゴブリンの心臓を食って魔力を溢れさせてみた。
動きに支障をきたすほどの傷を付ける訳では無いが、自分で自分を傷付けるのがあんなに恐いとは知らなかった。
一度傷が治った時に、もう一度同じ場所を傷付けようとしてナイフが皮膚を傷付ける事が出来ない事があった。
何故と思い再度ナイフで突いたら、スッパリ切れて痛い思いをした。
あれっと思った時に、張り巡らせていた魔力が解けてしまっていたのだ。
闘いの場に臨む時に少量の魔力でも体内に張り巡らせていれば、身体能力の向上を図れると判っていたので、決闘も躊躇しなかった。
後は奇襲攻撃と刃物や魔法攻撃をどの程度防げるのかだが、実戦の場でなければ試せない。
陽が暮れて森の闇を透かし見て、ばら撒いた風の遺体を確認する。
ツーホーンと呼ばれるホーンドッグが7~8頭、肉を争って食っている。
距離にして約40m、夜間攻撃の練習にとアイスアローを一頭の頭に射ち込んでみる。
跳ね上がる様にしてツーホーンが倒れると、残った群れが一斉に逃げ出した。
今夜の獲物はフォレストキャット一頭にグレイウルフ三頭、他の獲物は射撃練習の的にした後は、他の野獣や魔物を呼び寄せる餌にした。
夜が明けると地上に降り、茂みの中にヘッジホッグハウスを取り出し、念のため茨の木を周囲に敷き詰めてから寝る。
その後ブラックキャットやホワイトブーツと呼ばれる猫、ブラックキャットより少し小さくチョコレートブラウンの毛に白足袋の猫と、ブラックウルフ,プレイリーウルフ等が獲れた。
昼夜逆転した生活が十日も続いたが、ハイゴブリンの姿を見る事はなかった。
夜の狩りではハイゴブリンを狩れないと諦めて、昼間にハイゴブリンを求めて徘徊する事になった。
二週間でハイゴブリンの群れを三つ見つけて、19個の心臓を手に入れたので満足して街に戻る事にした。
* * * * * * *
冒険者ギルドの入り口で鉢合わせになった男が、〈あっ〉と言って横に飛び退いた。
おいおい、俺は極悪非道のやさぐれ冒険者じゃねえぞ、危険物を踏みつけた様な反応は止めて欲しいね。
可愛く会釈して買い取りカウンターに向かえば、列に並んでいる奴等がそそくさと列から離れて俺を遠巻きにする。
後ろでクスクス笑っている奴が居るので振り返れば、ヤハン達が笑っている。
「なんだよ、俺って何か危険物扱いになっているんがどう。してだ?」
「風との一件が、噂となって広まったんだよ。あれを見ていた奴等が、酒のつまみ代わりに吹き歩いたからな。取り敢えず買い取りを済ませなよ」
買い取りのおっちゃんに今回も大量に有ると言ったら、ぶすっとして解体場に行けと言われた。
食堂で待ってるとのヤハンの声に手を振り、解体場に向かう。
俺の顔を見た解体責任者も仏頂面で、今日は綺麗に並べろと念押しをしてくる。
思わずニヤリと笑ってしまったが、解体場の端から並べて行く。
フォレストキャット、2頭
グレイウルフ、14頭
ブラックキャット、1頭
ホワイトブーツ、3頭
ブラックウルフ、18頭
プレイリーウルフ、17頭
ツーホーン、22頭
ホーンボア、4頭
ビッグボア、7頭
ゴールデンゴート、1頭
ブルーシープ、5頭
「ほう、珍しいのが有るな。ブラックキャットとゴールデンゴートはオークションになるので、支払いが遅くなるぞ」
「黒い猫って珍しいのか」
「この漆黒の長い毛並みを見ろよ。オークションに出せば軽く金貨50枚はするな。傷も小さいし高値が付くぞ」
「ゴールデンゴートは?」
「此奴はトロフィーとして、貴族や豪商達の壁飾りに喜ばれる。見事な巻き角だしタテガミも綺麗な金色だ。この大きさだと、さぞや高値が付くだろうな。しかし、フォレストキャットにブラックキャットとホワイトブーツ三種のキャット類は、昼間は滅多に姿を見せない筈だが・・・」
夜に狩りをしていたと言えば、又騒ぎに為りそうなので黙ってやり過ごす。
査定を待つ間食堂で待っていると告げて、エールを受け取りヤハン達を探す。
〈あれは人間業じゃねえな〉
〈おう、風の連中が斬り込んだけど、まるで相手にならなかったな〉
〈華麗に、舞うが如く斬り捨てるゴブリンキラー〉
〈あんなに強いのに、何でゴブリンキラーなんだ〉
〈黒目黒髪でチビ、ゴブリン相手がお似合いだからそう呼ばれ・・・〉
仲間内で出来上がっているのか、大声で人の事を彼此と話す男。
エールのジョッキを手に大声で話す野郎の後ろに行くと、同じテーブルの男達が俺を見てギョッとした顔になる。
「あんまり人の事をペラペラ喋っていると、模擬戦に誘うよ」
そう言って大声で喋っていた男に微笑んでやる。
「ハルトこっちだよ」
声に振り向けば二つばかり離れた場所で苦笑いしているヤハン達。
「何だよあれは、女将さんの井戸端会議じゃ有るまいし。ヤハン達が、ゴブリンキラーなんて叫ぶからだぞ」
「ゴメンよー、こんなに広まるとは思ってもみなかったよ。しかし、ハルトが強すぎるからだよ」
「だな、ヘイエルの冒険者ギルドで、ハルトに勝てる奴は居ないんじゃないの」
「あれを見ていたらそう思うよな」
「到底、俺達の到達出来るレベルじゃ無いわ」
「またそう言う事を言うから問題が起きるんだよ。絡まれる俺の身にもなれよ」
楽しく飲んでいると、買い取りのおっちゃんが査定用紙を持ってきてくれた。
フォレストキャット、80,000×2頭=160,000ダーラ
グレイウルフ、7,000×14頭=98,000ダーラ
ホワイトブーツ、60,000×3頭=180,000ダーラ
ブラックウルフ、7,500×18頭=135,000ダーラ
プレイリーウルフ、5,000×17頭=85,000ダーラ
ツーホーン、5,000×22頭=110,000ダーラ
ホーンボア、14,500×4頭=58,000ダーラ
ビッグボア、32,000×7頭=ダーラ224,000
ブルーシープ、34,000×5頭=160,000ダーラ
ブラックキャット、1頭、オークション
ゴールデンゴート、1頭、オークション
合計1,210,000ダーラとオークションが二つ、了承して用紙を受け取る。
「ハルト、今回はどれ位売ったの」
「ウルフが約50頭とホーンドッグが22頭と後は少しずつだな」
「ウルフが50頭だってぇ」
「20日以上も森に居たので、一日では大した数じゃ無いよ」
査定用紙を見ながらそんな話をしていると、上から手が伸びてきて査定用紙を引き抜かれた。
振り向くと見知らぬ冒険者が俺の査定用紙を見て笑っている。
「何のつもりだ」
「お前が、噂のゴブリンキラーか」
ヘラヘラ笑っている其奴は、冒険者ギルドの中とはいえ気配も無く俺の後ろから用紙を抜き取っただけあり隙が無い。
「おい此奴、ウルフとかツーホーンばかり狩って意気がっているぞ」
査定用紙をヒラヒラ振り、離れた所に居る仲間に喋りかけている。
魔力を全身に張り詰めると男の動きに合わせて手首を掴んで捻り、ねじ伏せて査定用紙を取り返す。
「人の稼ぎが何だろうと、お前に何の関係がある」
腕を捻って押さえつけたまま問いかける。
自分より格下だと揶揄っていた相手に、あっさりと腕を取られたうえ簡単にねじ伏せられたのが理解出来ないのか、必死に藻掻くが逃がす気は無い。
伊達にユーチューブの護身術を眺めていただけじゃ無いんだよ。
〈離せ!〉なんて言ってるが阿呆かいな。
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