第7話 ハイゴブリン
木剣を戻して荷物を担ぎ、さっさとギルドから出て行こうとしたらギルマスに呼び止められた。
冒険者カードを見せろと言われて渡すと、表裏をじっくり見てからブロンズに格上げだと言われた。
「登録一年の間は、アイアンランクじゃなかったのかな。登録時の説明ではそう聞いたが」
「再来月で一年だろう、ブロンズランク二人を手玉に取る腕なら昇級させても問題ない」
そう言って受付に〈ブロンズに昇級だ〉と言って渡す。
「ゴブリンを相当数狩って居る様だが、一人でか?」
「此処の職員に紹介されたパーティーで、奴隷同然の扱いを受けたので一人でやる事にしたんだよ」
皮肉を込めて答えると、少し考えていたが相談があると言い出した。
「隣のエミナ村周辺でゴブリンが増えていて、討伐を依頼されている」
「それは強制依頼なのかな、ブロンズは受けなくても良いよな」
「強制じゃない。シルバーランクを含むパーティーが受けているが、同行して欲しい」
「悪いが、俺は一人で遣りたいので断るよ」
「パーティーに加わってくれとは言ってないぞ。村に着いたら別行動で構わない。そのパーティーにはお前に指図をするなと言っておく、ハイゴブリンが居る様なので、ゴブリン討伐になれた奴が欲しいんだ」
「ハイゴブリンって」
「ゴブリンの上位種だ。体長160cm程度で力も強い」
其れを聞いて俄然興味が湧いた。
「そのパーティーが俺にとやかく言ったら、どうなっても責任持てないぞ。それで良ければ明日以降に、俺が勝手に行くって事で良いならいいな」
「明後日の朝ギルドに来てくれ。紹介して、お前に何も言うなと言っておくから」
了解して以前泊まった清風亭に向かい、部屋を確保すると市場に行き備蓄食料の確保だ。
現在氷の風船で1.2m少々を収納する事が可能なので、そこそこの食料を持ち歩ける。
約束の日の朝ギルドに向かい、受付でギルマスを呼んで貰おうとしたら声を掛けられた。
「ハルトさん、ですよね」
「そうだが、あんたは」
「〔ウルフの群れ〕ってパーティーのリーダーをしてますゲルトと言います。ギルマスは急用が出来ていませんが、お話しは伺ってます。エミナ村までは同行しますが、現地では別行動になります」
「宜しく頼む」
握手してさっそくエミナ村に向かう事にする。
ウルフの群れは6人組のパーティーで20才前後の若者達だけだったが、何かとリーダーに文句を言う奴がいて煩いが、道中だけだと無視する。
エミナ村はほぼ一日の距離で夕方には到着したが、道中リーダーのゲルトや仲間達に何かと反論する、マウント男ムルサには辟易した。
相手より上に立ちたい本能でも有るのか、猿山の猿の様な奴って何処にでもいるな。
村に到着するとゲルトが村長に挨拶をして、今日から二週間の塒となる厩の一角を借り受ける。
翌朝ゲルトと配置の話をしていると、ムルサが口を挟んできた。
「なああんた、あんたは依頼じゃないんだろう。ゴブリンが頻繁に彷徨く村の周辺を一人でやるつもりか」
「そうだが、それにギルマスにもそう言っているし」
「それは聞いたよ、血風の奴等を手玉に取ったってな。だがゴブリンは一対一でやる模擬戦と違ってだな」
「あー能書きは良いから、ギルマスから聞いてるのなら口出しをするな。口出しするなら覚悟して言えと言われた筈だが、それは聞いて無いのか」
俺の気配が変わったのを察したゲルトが、慌ててムルサを止める。
年下の俺が勝手をすると不満げなムルサを放置してゲルトと話し合い、ウルフの群れはゴブリンの目撃が多い西の草原地帯を、俺は東側で村と隣接した森の方面を受け持つ事になった。
剣や槍だけのゲルト達と違って、背負子に荷物を括り付けた俺が一緒に厩を出ると、またもやムルサが何か言っていた。
俺は約束の二週間目に戻って来るが、帰って来なければ待たずにヨールに戻ってくれと伝えて、村の出入り口で東西に分かれた。
森といっても木は疎らに生えていて見晴らしは良い。
初めての森を無闇に彷徨けば迷子になって洒落にならないので、ベースとなる木を探す事から始める。
森の中は村人が頻繁に薪を集めに来るのか、結構な獣道が出来ている。
慎重に森を進み1時間程で手頃な木を見つけたので、その日はベースキャンプ作りで終わった。
初めての森でゴブリンが増えているのなら、ゴブリンを餌にしている野獣や魔物も多いはずなので油断できず、疲れて早々に寝てしまった。
深夜獣の気配で目が覚めた。
慎重に周辺を観察すると月明かりの下を、9頭のウルフの群れが地面の匂いを嗅ぎながら、俺の寝ている木の下にやって来た。
昼間ベース作りの為に周辺から茨の木を集める為にウロウロしたので、そこら中に俺の匂いが残っているはずだ。
悪いがお前達の餌になる気は無い、前足を一本凍らせると騒ぎ出したので氷塊を落としバレットで追い払う。
片足が凍って壊死したら今度は自分達が襲われて餌になるので、村周辺には近づくまい。
夜明け前には、ツーホーンと呼ばれるホーンドッグの群れがやって来たが、これも片足を凍らせアイスバレットで追い払う。
朝食を済ませると、ゴブリンの心臓二切れを飲み込む。
食後に口にする様な物じゃないが、自力の魔力量だけではあの世行きになりかねないので仕方がない。
熱暴走をアイスランスを十数発撃ち出して、魔力調節をしてからベースキャンプから下に降りる。
村から東の位置に居るので、ベースを拠点に東に向かって捜索範囲を広げて周辺の地理を覚える事にした。
確かにヨールの街周辺に比べて、ゴブリンとの遭遇率が高い。
ゴブリンと出会ったら、先ず西側に回りこみアイスバレットで東に向かって追い払い、その後に頭部を凍らせて倒す。
村の近くでゴブリンの死骸を放置すれば、村に野獣や魔物を呼び寄せる事になるので面倒だが仕方がない。
俺の安全の為にも、ベースには近寄って欲しくない。
陽が中天に掛かる頃には20頭のゴブリンの魔石が集まった。
確かにゴブリンが多いが、目的のハイゴブリンの姿は確認出来ない。
昼食後7頭のゴブリンを倒してベースキャンプに引き返すが、ちょっと迷って帰り着くのが遅くなってしまった。
今日一日で27頭のゴブリンの魔石を手に入れたので、54,000ダーラの稼ぎって事になる。
此れって、ヨールの街周辺で薬草採取とゴブリン討伐するよりも遙かに稼ぎが良いのだが、他の冒険者が来ないって事は何か問題があるのかも。
それとも最近ゴブリンが増えたと聞いたが、ゴブリン討伐など面倒だと皆が放置した結果かな。
何れにせよ十分注意して行動する必要がある。
翌日はベースの北方面に向かって捜索して、25頭のゴブリンを討伐したのでこの方面が多そうだと思い、翌日も北方面でゴブリンを探す。
7頭から12~13頭の群れが多くて、3日間通って84頭のゴブリンを討伐したが、ハイゴブリンは居ない。
しかし、多過ぎるだろう。
村人も討伐している筈なのだが、手に負えないのなら定期的に冒険者ギルドに依頼すべき案件だな。
四日目に19頭と数が減ったが、四日間合計で103頭のゴブリンを討伐したのには我ながら呆れた。
ここって冒険者の天国じゃねえの、稼ぎ放題だぜ。
北側の数が減ったので翌日は南方面に向かったが、群れの数が多くてちょっと雰囲気が違う。
7~8頭の群れもいるが15~16頭の群れに一日二回も出くわした結果、一日で42頭も討伐する事になった。
倒したゴブリンは放置するので、翌日からは野獣や魔物の遭遇率も上がるので気が抜けない。
ラノベでは討伐した獣の死骸は埋めて、他の野獣を呼び寄せない様にするのが冒険者の作法の様に書かれているが、現実には不可能だ。
三日間で42頭、34頭、37頭と討伐を続け、四日目も順調に討伐していたが新たに8頭の群れを見つけた。
しかし、ゴブリンにしては身体が大きい。
此れがハイゴブリンかと思って観察していたら、見つかった様で一斉に向かって来る。
ゴブリンもハイゴブリンでもやる事は同じ、追いつかれない程度の早さで逃げて手頃な木に飛びついて登る。
一息つくと魔力残量を感覚で確かめてから、頭を凍らせるだけだ。
頭と言っても省エネ攻撃に徹し、脳だけを凍らせるので見た目は何ともないのにパタパタと倒れていく。
8頭全部倒したので、さっそくハイゴブリンの心臓を集めに行き、魔石を抜き取った後で8頭全部の心臓を一つ一つ布で包んで収納に仕舞う。
念願のゴブリンより強力だが強力すぎない魔物の心臓が手に入り、ご機嫌で彷徨いていて叫び声を聞いた。
人の声だ、現在地より少し村よりの方角から聞こえたので、村人が獣に襲われているのかも知れないと救助に向かった。
なんと、襲われているのはゲルト達だった。
周辺にゴブリンの死骸が転がっているのだが、ゲルト達を襲っているのはハイゴブリンの群れで十数頭いる。
2~3頭は倒しているが多勢に無勢、完全に囲まれていて励まし合いながら何とか攻勢に耐えているが、長く持ちそうもない。
こっそり後ろから近づいて足の脹ら脛を凍る寸前まで冷やし、動きの鈍ったハイゴブリンの頸動脈を斬り付ける。
2頭倒したところで気づかれ俺の方に向かって来たが、棍棒を受け流しながら次々と脹ら脛を急速冷蔵してやる。
動きの鈍ったハイゴブリンは俺の相手ではないが、近接戦闘は趣味に合わない。
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