第5話 ドルド武器店

 薬草をカウンターに並べている冒険者の後ろに座り、周囲を観察して誰も俺に注意してないのを確認。

 睨んでくる糞野郎に笑顔を向けると、自分の心臓の位置を指でトントンと叩く。


 睨む糞野郎の心臓部分を見ながら、ゆっくり凍れと念じる。

 奴の顔こそ見物だった。

 最初は不思議そうな顔になっていたが、直ぐに胸を押さえて立ち上がる。

 〈ウッゥゥゥ〉と変な呻き声を上げだしたので、周囲の職員が不審げに男を見ている中で、俺を見ながら前のめりに倒れた。

 心臓を凍らせた訳ではない、ゆっくりと冷やしてやったので、凍る前に血流が滞ってアボンだろう。


 倒れた男の周囲にギルドの職員達が集まり騒ぎになったが、誰も俺に注意を払う者はいない。

 やっぱりね。まさかこんな方法で氷結魔法を使う奴がいるとは思いもしないだろう。


 例え疑われても、俺は魔力10で魔法が使える筈もない。

 だから登録された冒険者カードには、空間収納と氷結魔法に魔力10とは記載されているが、魔法が使えるとは申告していないし書かれてもいない。

 魔力10で魔法が使えるとは誰も信じないだろうし、それが此の世界の常識だからな。

 騒ぐ職員をベンチに座ったまま眺めていたが、興味なさそうに立ち上がりギルドを出て市場に向かった。


 屋台で食事を済ませて冒険者御用達の店に行き、ショートソードの注文をするがこんな変わった形の剣は無いと断られた。

 注文を受け付けるのは、剣の長さや握りの形や長さだと教えられ鍛冶屋に行けと言われてしまった。


 仕方がないので鍛冶屋の場所を教えてもらい出かける。

 店の名は〔ドルド武器店〕だと、なんの捻りもない無愛想な店構え。

 愛想の良い女将さんに略図を見せて、注文したいのだがどれ位の費用が掛かるのかを尋ねる。


 「こんな形の剣は見た事も無いので判らないわー。亭主を呼んでくるから待っててね」


 首を捻りながらそう言うと、店の奥に下がって行った。

 従業員だろうか、奥で飾られた剣を綺麗に拭いている男がいる。


 「あんたか、このヘンテコな形の剣が欲しいって奴は」


 「ああ、紙に書いている様な形にして欲しいんだが、どの程度の費用が掛かるのか検討がつかないので教えて欲しいのだが」


 がっちりとした体格で、太い腕と火焼した顔が精悍だ。

 刀身は約60cmの片刃で切っ先は50度程度の三角、握りは拳三つ半程度にし柄頭に滑り止めの爪状突起を付ける。

 片手で振り回す時には柄頭の爪状突起が滑り止めになり、すっぽ抜ける事を防ぐ作りだ。

 親爺は顎に手をあてて考え込んでいるが、徐に飾っている剣の一つを俺に渡し振って見ろと言った。

 店の中央には素振りが出来る広さがある。

 渡された剣は握りも含めて約1m、何時も練習に使う木剣より軽い。

 俺が片手で軽々と振り回すのを見て、同じ長さの鉄棒を持ってきた。

 最初の剣より少し重いが、これも俺が振り回す負担にはならない。


 「もう良い、お前竜人族か?」


 「いや、人族だが1/16竜人族の血が入っている」


 「成る程、先祖返りってやつか。良いだろう、金貨四枚で作ろう」


 「金は後で持って来るが、どれ位の日数で出来る?」


 「五日も有れば出来上がる」


 夕方までに金を持ってくると伝えて店を出ると、小綺麗なホテル〔清風亭〕を見つけて部屋を取る。

 一泊銅貨三枚、六日分の部屋代を払って部屋に行き、空間収納から革袋を取り出して銀貨40枚を持ってドルド武器店に引き返す。


 手持ちが10万ダーラ程になってしまったが、ギルドに預けている41万ダーラと合わせて50万ダーラ。

 当分食うには困らないが、お財布ポーチを買うまで散財は出来ない。


 ホテルに泊まり朝昼二回市場に行き、調味料や食料を買い込む。

 それらを薬草袋に入れてホテルに戻り、誰にも知られずに空間収納に仕舞う。

 最もバッグを仕舞ったら空き容量は小さい、バレーボール大の氷の玉五個とバッグに背負子しか収まらない。

 背負子とバッグは背負って街を出るので、空間収納は買い込んだ食料と香辛料で一杯だ。


 約束の日にドルド武器店に行き、出来上がったショートソードを受け取る。

 ドルド親方の指示に従ってショートソードを振り回し、持ち手の感触やバランスの調整を済ませる。

 まんま刀身60cmの直刀、見る人が見れば日本刀だと感じるだろうが、ここには日本人はいない・・・多分。

 地味な鞘と目立たぬ柄で気に入ったが、当分出番はなさそうだ。


 そのまま街を出ると、新たな薬草採取地を求めて移動する。

 元のベースより2時間程移動して、森と草原の境界から僅かに森に入った場所に適当な木を見つけ今夜の塒を作る。

 移動途中に見つけたゴブリン五匹の魔石と心臓を二つを、空間収納に入れているので心強い。

 翌日はベースキャンプを、より安全なものにする為に一日を費やす。

 一人なので、魔力切れになるとまるで無防備になるのでベース作りに手は抜けない。


 昼間は薬草採取とゴブリン狩り、たまに出くわす野獣や魔獣の脳を凍らせて討伐し魔石だけ抜き取り、身体は凍らせて叩き割ると放置して野獣の餌にする。

 ゴブリン以外にもオークやブラックウルフ、グレイウルフ、パンパスドッグ等の魔石が溜まる。

 魔物は良いが野獣は面倒なだけだ。

 倒しても売りに行けないので凍らせて叩き割り、野獣や魔獣の餌にするのだが此が結構面倒だ。


 新しいベースキャンプに来て10日程経った時、木の下で騒ぐ声が聞こえる。

 五人組の冒険者が上を見上げて何か言っている。

 取り敢えずゴブリンの心臓を一切れ口に放り込み、飲み干してから返事をする。

 最近は慣れたのか熱暴走と名付けた症状が軽く、心臓を飲み込んでも直ぐに魔力放出しなくても耐えられる。


 「何か用事ですかー」


 〈てめえ、誰の許しでそんな物を作っていやがる。降りてきて挨拶しろ!〉

 〈俺達〔ヨールの牙〕を舐めてるのか!〉


 「えー、此処は貴方達の土地ですかー?」


 いきなり弓を引き絞っている奴がいる。

 慌てて首を引っ込めると〈カン〉とベースの下から音がする。

 成る程ね・・・お前達がチンピラの縄張り根性で攻撃してくるのなら、俺の方でも遠慮する必要はないか。

 床の隙間から下を見て、再び弓を引き絞る男の脳を凍れと念じる。

 弓を引いていた奴が、木偶人形の様にパタンと倒れる。


 弓持ちがパタンと倒れたので、左右にいた仲間が何か言っているが、心配している風には見えない。

 一人は木に登ってきていたので、両手両足を冷やしてやると木登りが出来ず落ちていった。

 残った三人が不思議そうな顔をしているが、三人とも全身を凍らせて終わり。

 真っ白に凍った三人を木から落ちた奴がビックリして見ている。


 落ちた奴の側に降りて行き、凍った三人の衣服を剥ぎ取り手足を折ると、其奴の持っていた背負子に括り付け捨てに行く。

 それを手足が冷えて動けない男が、呆けた顔で見ている。

 まったく面倒を掛けてくれるよな、何往復もして三人を捨てたけど陽が暮れたので、最初の一人と手足の動かない男は氷漬けにして翌日捨てに行く事にした。

 手足が冷えて動かない男は、最後まで状況が判らないのか呆気にとられた顔をしていた。


 翌日二人を再度凍らせて砕き遠くに棄てる。

 剥ぎ取った衣類は焼き捨て剣やナイフは埋めて、野営道具は適当に捨てて終わり。

 金は五人合わせて10万ダーラ少々しかなかったのには笑ってしまった。

 人に難癖付ける暇があったら働けよ。


 奴等の片付けが終わって一段落、ゴブリンの心臓を食った時の熱暴走について考える。

 以前の様に、全身を貫く激痛と灼熱感が小さいというか耐えられるので、急いで魔力を放出する必要が無い。

 魔力切れのお陰で魔力量は増えているが、それも頭打ちの様な感じだ。


 現在生活魔法でウォーターがカップ五杯で、三杯目を凍らせるのがやっと。

 フレイムもテニスボールより少し大きい感じで、これ以上増えそうもない。

 どう考えても取り込む魔力が少ないので、これ以上受け入れる器・・・俺の身体が成長しない様だ。

 なら結論は一つ、魔力を増やしたければゴブリンより魔力の強い魔物の心臓を食らい、又あの激痛と付き合う必要がある。


 しかし、オーク等の大型の魔物の心臓は強烈そうで躊躇われる。

 ラノベではゴブリンソルジャーとかジェネラルやキングって出て来るが、そんなのがいるのかな?

 判らないので、出会ったゴブリンの大きい奴の心臓で試す事にした。

 しかし、そんなに都合良くゴブリンが現れる訳も無く日が過ぎてゆく。

 魔力放出を続けるが魔力量が増えた様子が無いのは、生活魔法のウォーターやフレイムを使って見れば判る。


 大きい個体のゴブリンが居ないのなら、量を増やして見ようと思いつき、イカ刺し一切れから一切れ半に量を増やしてみた。

 結果最初の頃に近い衝撃と灼熱感を久々に感じて、魔力放出にバレーボール大の氷の玉をバンバン射ち出す事が出来た。

 アイスアローも50発を越えたので、二切れを食べて空間収納の拡大を試してみた。


 始めに空間収納には食料が収まっていて取り出せないので、空き空間がどれ位かを確かめる。

バレーボール大の氷が7個収まったので、ゴブリンの心臓二切れを食べて空間収納の拡大を試みる。

 結果は思った通りだ、氷の玉が7個から11個に増えた。

 此れなら当分の間魔力拡大を続けられるし、慣れてきたら食べる量をもっと増やせばいい。


 生活魔法もウォーターはカップ7杯出るし、4杯は楽に凍らせる事が出来る。

 フレイムもテニスボールを二回り大きくした感じで、魔力を込めれば真紅の炎が白色になり火力が上がっている。

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